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あの時の君は  作者:
6/13

-6-

「う、うぅッ……あ、あのヤロウ……」


 あれから無理矢理な形で俺を拉致して家に連れて帰ったヒョウは、本当に優しく優しく好き勝手に俺を抱き潰してくれやがった。

 少しでもときめいた俺がホント、馬鹿みてぇだ。

 少女漫画真っ青な台詞に成人誌向けな性描写満載の行為に俺の頭と身体は同時に破裂しそうになる。

 ちょこっと優しくされたからと言って、俺はそこまで流されやすい性格じゃない。

 自覚はある……あるんけど………。


“……俺を拒まないで………”


 悲しそうな、それでいて切なそうな顔に俺は絆されてしまったようで。


「……ばかやろ………」


 朝帰りなんて初めてだ。

 ヨウと付き合っていた時ですら、朝帰りなんて……。

 あさ、がえり………。


 ……はは、そうだ。そうだった。


 俺とヨウ。一度も寝たことなんて、なかったんだった。

 考えてみれば、初めから分かったことだ。

 俺の兄と直ぐにセックスに持ち込んだ事実。

 付き合っていたというのに手を繋いだ程度しかなかった俺。

 本気の度合いってものが、思い知らされる。

 痛む腰に手を当て、最後まで俺を帰そうとしていなかったヒョウの顔を思い出す。


 ……あいつ、本当に“俺”なんかを欲しがって……。


 卑屈になった覚えはないけど、それでもやっぱり自信というものが抜け落ち切った俺は、ヒョウが俺に向ける感情がいまいち何なのか掴めない。

 一般的に言えば、あれは恋情に近いものなんだろうけど。


 ……いや。


 やめよう。

 もう頭ん中がごちゃごちゃ五月蠅くて……。

 利用されて、失恋して、人から馬鹿にされて、変な不良まがいに振り回されて。

 今の俺には、休息が必要だ。


 そう、思ってたっつのに。

 目の前で俺を睨み付ける兄様はそんな小さな願いすら妨害して下さるらしい。


「おかえり。朝帰り?随分なこと、してるじゃない?」


「ただいま……連絡をしなかったのは確かに俺が悪かったね。お母さんとお父さん……何か言ってた?」


 容姿で差別するような両親じゃないから、普通に心配とかはしそう。


「何か?何を言っていたっていうの?」


「………え?」


 そりゃ、小言とか……あいつはこんな時間まで遊び回ってって、怒って……。


「何か勘違いしているようだけど、お母さんもお父さんも、カヤトについて何も言ってなかったよ?むしろ、いない方が正解だっていう空気だったし」


「そんなっ、何言ってんだよ!いくら兄さんでも、そんな酷いことっ……!」


 どくどくって心臓が痛い。

 冷や汗が出て、俺が今まで必死になって見ようとして来なかった現実が、じりじりと足元まで這い上がってくる。

 嫌だ。やめろ。


 ……俺は……俺はっ………!


「お花畑な脳ミソしてるカヤトに言ってあげる。カヤトの“カヤ”ってね。蚊帳の外って意味で付けられた名前なんだよ。マナトはまんま、愛する人って意味で付けられた。ねぇ、その意味……分かる?」


 お父さんとお母さん、俺だけだと、とっても良い顔で笑ってくれてたんだ。カヤトがいると、いっつも無表情なのに、ね。


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