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家出?にならない家出をし終えた俺は、次の日の朝。
ヒョウと恋人繋ぎで教室に入れば、そこには無惨にも汚された俺の机が。
予想は……してた?ような、してなかったようなぁ?
まさかヒョウとキスしただけで、ここまで酷いことにされてるとは思ってもみなかった俺は、ただただ唖然。
共学から男子校に転入してきたばかりのヒョウに対して、かなりこれはキツいんじゃないか?
普通だったらノーマルな性癖だと分かるハズだろ?
ここでの常識を押し付け過ぎだ。
ムカムカしてくるっ……!
「お前の机が使えないから、俺の机を二人で使おう」
「どうやってだよ」
「俺の膝の上に座ればいい」
「恥ずかしいから遠慮」
「却下」
俺とヒョウ。二人で一つの席に着けば、面白いくらいに上がる上がる悲鳴。
ってか、俺とヨウが別れたってことで、ちょっとは配慮してくれても良いもんじゃないのか?なに?俺が間違ってる?
「俺には、失恋で落ち込むことすら許されないってことか」
「今はもう新しい恋だろ?前の男のことは考えないで。俺は心が狭いから」
「お前が心狭かったら、俺はノミくらいの器の小ささだ」
ヒョウに色目を使っているチワワ系男子と美人系男子に嫉妬しまくってるなんて、きっと色で何でもお見通しだろ。
こんな醜い俺を正直見てもらいたくはない。
見栄を張る自分が、ホントに滑稽で、馬鹿みたいで。
……嫌いじゃ、ないけど。
「あの、ヒョウ……くん?カヤトには自分の席があるんだよ?一つの机に二人って、駄目じゃないかな?」
コテーンと首を傾げてヒョウを上目遣いに見てくるのはやはり兄上様。
ヨウはその後でヒョウをこれでもかと睨み付けている。
なんだろ。
ヒョウに構わず、二人でイチャコラしてれば良いのに。
「カヤトの席?それはあのゴミ山のことを言っているのか?」
「うん。だって、あれはカヤトが汚したんでしょ?ゴミ山にしたのは自分なのに、他の人の席にって、図々しいよ!」
おい無理があるだろそれ!
「お前は知っているか?カヤトは潔癖と言わないまでも、きれい好きなんだ。家の掃除だって進んでしてくれたし、ぐちゃぐちゃに汚れたベッドのシーツだってサクサク洗濯してくれた」
「え?ちょっ、なに言って……」
戸惑ったような声の兄……マナトを気にも止めず、ざわざわと騒ぎ出すクラスメイト達の困惑すらもモノともしないで、ヒョウは続けた。
「俺のもので奥を突くと、可愛い声で啼くんだ。もっと、っておねだりも上手だし、痛くてだるいハズの身体なのに、俺の為にご飯だって用意してくれて。本当に健気で、可愛くって、離れたくない俺の恋人だよ……あれ?もう奥さん?」
「まぁ、奥さんでも良いんじゃね?」
ヒョウの言葉を聞いたクラスのタチ系男子達は、ごくりと喉を鳴らして俺を見つめてきたけど。
なに?こんな平凡でも身体の具合は良いんじゃないかって思ってるのか?
そうだとしたら、コイツら失礼な奴等だ。
「……カヤトって、鈍いねって言われない?」
「ん?いや、鈍いねって言ってくれる友人もいなかったから、良く分からん」
「そう」
人目も憚らずにチュッチュッイチャイチャしてる間にも、廊下には変に集まったギャラリーで溢れていて、チワワ系男子と綺麗系男子は殺気立った様子で俺を睨み付けて。
みんな睨み付けるの好きだな。
マナトも俺を睨み付けてくるし。
ヨウ、なんでそんな呆気にとられた顔してるの?それがお前の恋い焦がれた俺の兄上様だぞ?
「あ、そういえば……そこの君……えぇっと、名前忘れた。俺にはこの通り恋人がいるから、君と交際は出来ない」
「えっ、なっ…ちょっ、こんなところでっ!」
ヒョウの口から出た驚きの事実。
ってか、いつ告白してたのっ!?マナトはヨウと付き合ってるんだよな?
どういうことだ?そんなに平凡な俺に恋人が出来るのが許せなかったのか?
「でも聞いたけど、君はそこの後の人と付き合ってるんだよね?俺には二股なんて、信用を落とすような付き合いは出来ないし………ああ、でも大丈夫だよね?」
周囲の人達が呆然としている中で、いつも通りの淡々した声色で続ける。
「そこの廊下にいる二人と、後の席で童顔の子と仲良くしている一人と、あと、数学担当の教師一人と身体の関係を持ってるから、君には俺一人くらい、手に入らなくても平気だよね?」
「なっ、なんで知ってッ……!?」
そっからは阿鼻叫喚の地獄絵図。
俺を馬鹿にしてマナトをよいしょしていたチワワ系の子の彼氏は、どうやらマナトと浮気していたらしく、あれだけ憧れですって輝かせていた瞳が侮蔑する色を持ってマナトを突き刺し、あらん限り罵倒しまくっている。
豹変した恋人の様子に怖じ気づいた浮気彼氏君は、ヨウに殴られて、整った顔が見るも無惨な状態に。
暴力を振るった後のヨウに迫られたマナトは、青ざめた顔で廊下にいた二人の男子生徒(こちらも随分と格好いい顔をして……)に助けを求めていたが、どうやら二人は自分が浮気相手だと知らずに、自分こそがマナトの恋人と信じて疑ってなかったみたいで、絶望しきった顔色で教室内を見つめていた。
浮気された者同士で小声で慰め合って……あ、二人して消えてった。
もしかしたら付き合うのかも?あの二人。
「カヤト。カヤトって名前で、助かったね」
「ん?なんでだ?」
「だって、こんな気持ちの悪い醜い喧嘩……“蚊帳の外”でいた方が幸せじゃないか?」
「ああ、そっか!」
なんだか俺、自分の名前が好きになりそうだ。
些細なことでも、大事なことを気付かせてくれる、素敵でちょっと変な俺の恋人。
「ヒョウ、俺はお前が好きだ」
「俺も、カヤトが好きだ」
蚊帳の外。
そんな俺は、五月蠅くて仕方ない騒ぎ声を背景にヒョウと戯れるようなキスをし続けた。




