第1話 牢獄のある洞窟
転生してから30分くらいが経った。その間、この牢獄を調べてみたが、色々なことが解った。
まず、この牢獄の中には机、椅子、藁の布団があった。牢獄にしては、色々と物が置いてある。
扉の役割をしている鉄格子は錆びており、付け方も甘いためか、力を入れれば案外簡単に取り外せそうだ。
ちなみに、このニワトリにはもう一つの人格とかが今の所見つからない。それと、黒服の言ってた通り、ニワトリ自体の記憶は無い。しかし名前の記憶だけは残っていた。
「ウェーガン」それがこの世界での俺の名前らしい。
「何も無い・・・な。んじゃあ出るとするか」
一通り調べつくすと、鉄格子に手を置き、グッと力を入れた。すると、いとも簡単に外す事が出来た。
どうやら、羽根を手として扱うことができるようだ。
牢獄の外に出ると、まず辺りを見回した。そこは人が2人通れる程の横幅の通路が奥まで続いており、通路の高いところには松明が等間隔で設置されている。
「とりあえず、進んでみるか」
そう呟きながら、ニワトリの小さな足を前に進める。ニワトリの身体というのもあり、その歩みは中々進まない。
走ってやっと、人の歩く速度と同じくらいだと思う。
〜数分後〜
少し歩いたが、小部屋が幾つかあり、等間隔で松明が設置されている光景が続く。その小部屋には、古びてもう使い物にならない椅子やテーブルが置いてあった。その様子から、ここがどれだけ使われていないのかが伺える。
そんな所に、呪いをかけられ牢に入れられていたこのニワトリは一体何者なのだろうか?
似たような道を真っ直ぐ進んで行くと、等間隔で設置されていた松明の光が、少しずつ強くなっていくのを感じた。その強くなっていく光に向かって歩んで行くと、ドーム状の空間に出た。
その空間の中心には、明るい緑色に光る一つの魔法陣が地面に描かれていた。他に進む道が無いことから、転移魔方陣か何かだと思われる。
「先へ進むには、これの中に入るべきか?
他に道は無いだろうし、これに乗る以外に何をすべきかも分からんしな」
そんな独り言をぶつぶつと呟きながら、メロンジュースのような色に光る魔方陣へとゆっくりと足を踏み入れた。
魔方陣の中心に立つと、少しずつ身体が何処かに消えていくような感覚が自分を襲った。そして転生をする時のように、いつの間にか目を瞑っていた。
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目を開けると、先程からあった松明のような人工的な光ではなく、太陽の自然な光がそこら中にある木々の枝から生えている葉っぱに遮られ、少し弱い光となって自分の肌に当たった。
辺りを見渡すと、そこは何本もの木々が生え、多くの動物が生息しているだけで、人気の無い森だった。その空間では、ニワトリは少し異質な気がする。
「・・・ん?魔方陣が無いな」
この時、周囲には先程の洞窟へ戻るための魔方陣らしき物が見当たらない。状況から察するに、一方通行の転移魔方陣だったのかもしれない。
しかし、今はそんなことを考えてる暇など無かった。
(さてと、先ずはこの森から出なくちゃな)
この森には切り株などの人によってできた物が見当たらない。それはつまり、この森が人の手を加えられていないことを意味する。
もしかしたら、人が足を踏み入れたことの無い未開の地かもしれない。そうなると、人と会うことが非常に困難になる。瞬時にそれを理解した俺は、ヒントも何も無い道を歩み始めた。何もしないよりはマシだろう。そんなことを思いながら歩き続けていると、何かに気づいた。
「ん?」
目を凝らしてそれを見ると、一本の木の下に1人の人物が横になっていた。青白い髪をして、魔術師のローブを服の様にアレンジした服を着ている少女だった。