始まり
異世界転生物を書きたいと思い、何を書こうかと考えたらこれが思い浮かびました。
不定期ですが、出来るだけ早く投稿していくので、是非みてください。
東京都の住宅地の朝、子供達が学校に登校し、会社員が出社している時刻。
午前にしては少し賑やかであったり、日によっては静かであったり、昨日の飲み会で飲み過ぎた酔っ払いのいびきが響き渡ったりする、そんな時刻。
ある日、そんな時刻に、住宅地にありがちな見通しの悪いT字路へ向かって走る、数人の子供がいた。しかし、この光景はよく見かける。
どんな学校にも、チャイムギリギリに教室に駆け込んでくる奴はいただろう。そうゆう奴は、たまーにだが遅刻するものだ。この日もそうだったのだろう。
「やっベー‼︎」
「急げ急げ‼︎」
そう言いながら3人の少年がT字路に向かって走っていた。よく見る光景だからと言っても危なっかしい。と、思っていると、少年の一人が安全確認をせずにT字路を飛び出した。他の少年2人は静止したが、その少年は立ち止まらなかった。
その時だ。少年達の死角からトラックが走ってきたのだ。
トラックのエンジン音は聞こえていたはずだが、急いで走っていた少年達には聞こえるはずもなかった。
キキーッと脳に響くようなブレーキ音をトラックが放ち、静止しようとした。が、そんな急に止まれる訳も無いのだ。スピードは落ちても、人が死ぬには十分過ぎる威力である。
もうトラックはすぐ目の前の距離にいる。T字路を飛び出した少年は、それを目撃した瞬間、身体が固まったってしまった。
人とは、絶望的な恐怖を目の前にした時、身体が動かなく生き物なのだ。それは、子供も例外では無い。
少年は死を覚悟していた。その時、一人の男が飛び出して、その少年を押し出した。少年は、トラックとぶつかる範囲から遠ざかることが出来たが、引き換えとして男はトラックから避けられなかった。
結果として、男は死亡した。トラックに轢かれたのだ。当然だろう。
しかし、男が死を覚悟してトラックの前に飛び出し、少年を押し出した行為は、多くの人に目撃されていたため、その事実は連日報道された。
以後、その男の名前は有名になったが、男の人生は終わりを告げてしまった。
筈だった。
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「・・・・何処だ、ここ?」
気がつくと、見覚えの無い空間にいた。家具やペットなどの生活感溢れる物などは一切無く、常に一定の温度を保っていて、何処までが部屋なのかわからない程広い。とゆうか広すぎる。
極め付けとして、空間全体の色が白で統一せれている。この部屋を説明するなら、あるアニメや漫画の「○○の部屋」をイメージしてくれと言うのが一番早い気がする。
「確か俺、子供を庇ってトラックに轢かれたんだよな・・・てことは、天国か?」
「それは少し違うな」
ここが何処だか考えていると、背後から俺の考えをいきなり太い声が否定した。その声がした方向へ振り返ってみると、先ほどは居なかった俺と同じくらいの身長の人物が立っていた。
太い声と同じくらいの身長。それ以外の情報は無い。何故ならコイツ、アニメや漫画でこうゆう部屋や空間てお馴染みの全身白タイツを着てるみたいな奴だ。
ちなみに、コイツは白タイツではなく、全身真っ黒タイツだ。
「誰だオメェ?」
「初対面の相手に誰だとは、随分と口調が悪いな。
まぁ、そう返されるとは思っていたが。」
そう返される事を予想していたらしい。なんかムカつく。別にムカつく場面でも無いとは思うが、何故だかムカつく。
「そんなムッとした表情しなくてもいいだろ。」
「なんか自分の考えを読まれたみたいでムカつくんだよ」
「それはそれは、悪い事をしたな。次からは気をつけるとしよう」
案外とちゃんと話してくる。こうゆう場面に居る変な見た目奴は、ふざけた喋り方をしている奴が多いのだが、普通に話してくれるのは、イラつく回数が少なくなってくれていい。たからと言っても、こんな見た目では信用できる訳が無い。
何故こうゆう奴は、こう信用されづらい見た目をしているのだろう?相手の好きな人とか、芸能人とかの見た目をしていた方が良いと思うのだが。
「まぁあれだ。面倒臭い話は抜きにして聞くが、ここは何処だ?正直に答えろよ」
「いきなりだな。まぁ気にするのも当然か」
「ここが天国とは少し違うと言っていたが、実際のところ何処なんだ?」
俺がはっきりとそう質問すると、奴はこう答えた。
「一言で言うとすると、お前の頭ん中だよ」
「・・・は?」
自分の脳にはてなのマークが浮かび上がった。そりゃそうだろう。ここが何処かと聞いて帰ってきた答えが頭ん中だったら、誰だって「は?」の一つも声に出てくるさ。
「お前の言う通り正直に答えたぞ」
「いやいや、そんなこと言われても・・・」
「理解が追いつかないのなら言い方を変えよう。ここは、お前が今見ている夢の中だ」
動揺が隠せない俺に、子供でも理解できるような言い方で訂正してきた。その言葉に、俺は引っかかった。
「今見ている夢の中だと・・・?
それはつまり、俺は生きているのか?
あのトラックに轢かれて⁉︎」
「いや、あれでお前は死んだ。しかし、あんなことでお前が死ぬのは違う気がしてな」
「あんなこと?」
「あれはお前が子供を庇ったことで死んだ訳であって、そうしていなければお前は死んでいないだろ?」
当然の疑問をぶつけてきやがる。が、重要なのはそこじゃない。重要なのは、俺が死んでいないことを否定されたことだ。俺はそこについての質問をしようとしたが、それを遮るように黒タイツは答えた。
「死ぬべき場面でもないのに死んでしまったお前が可哀想でな。だから、お前に新しい人生を用意してやった。」
「新しい人生?」
「分かりやすく言えば、異世界転生だ」
「マジか⁉︎」
正直言って嬉しかった。誰だって異世界転生できるとなったらはしゃぐに決まってる。ゲームをやったり、漫画やアニメが好きな人は余計にはしゃぐだろう。
「そんなに嬉しいか?」
「そりゃそうだろ‼︎いきなり異世界転生できるなんて言われたら誰だって喜ぶさ」
はしゃぐ俺に対して、黒タイツの野郎は呆れた雰囲気を醸し出している。
「まぁ、幾つか問題があるがな。」
その一言を聞いた時、つい数秒前まで上がりまくっていた自分のテンションが、急激に冷めていくのを感じた。
「問題?それって何だよ?」
「一つは、転生されるのがお前の中身だけってことだ。つまりは、魂だけを生き返らせるってことだ」
「それって、転生先の世界俺の器みたいな奴がいるってことか?」
「物分かりが早くて助かる」
まぁ自分の身体を失うってのは少し嫌だか、仕方がないだろう。一度死んだのだし、魂だけでも生き返らせてくれるだけ有難いことだ。
「そして、もう一つの問題だが、その器にある。」
「器にって・・・まさか非常にブサイクとかじゃねーだろうな?」
「いや、それは無い。世代によっては結構モテる。」
「じゃあ何だよ?」
「問題なのは、その器ってのが実際に生きている奴ってことだ。転生と言うより、憑依だな」
「おいおい、それ大丈夫なのか?
つーかまさかとは思うが、そいつ過去に犯罪犯したりとかしてるのか?」
不安だった。そらそうだろ。コイツの言っていることが本当だとすると、俺は犯罪者扱いをされる可能性があるからだ。異世界転生が天国から地獄に変わるだろう。
「犯罪は犯していないぞ。むしろ感謝されることの方が多い。」
「なら良いんだが・・・」
「てかまず、周りの奴らからはお前が誰かと気付かれない筈だ」
「ん?それはどういうことだ?」
「その器は呪いをかけられ、姿が変わっている。
ついでに言うと、1〜2年程行方不明になっている」
「そりゃ気づかれんわな」
確かにそれでは気付かれない。しかしそのかけられている呪いが気になる。姿を変えられてるとなると、カエルとかその辺りだろうか?
「つーか、何に姿を変えられているんだ?」
「それは言えんな。自分が何に姿を変えられてるか、それをどうやって治すのかも、自分で知れ」
「教えてくれねぇのかよ。まぁ、何の目的も無く異世界に転生するよりも、呪いを治すってゆう何かの目的があった方がやり易いからな」
「ポジティブだな。もしかしたら化け物になってるかもしれないぞ?」
「その時はその時だろ」
実際そこは問題ではなかった。異世界転生物でも、姿を変えられた状態から始まる物もある。ならば、ここで弱気になる必要は無い。恐らくだが、その呪いを解く方法もあるのだろう。
「とりあえず、お前に説明しておくことはもう無いな。後の俺の仕事は、お前を異世界に転生させ、たまにお前の夢の中でアドバイスしたり、使いをだしたりするだけだ」
「アドバイスは有難いが、使いって何だ?」
「あってみれば分かるさ。怪しいと思うかもしれんが、手助けしてくれる筈だ」
それは有難い。呪いを解く方法を探すとしても、アテが無いからな。アドバイスだけでも良いのだが、使いをだしてくれるのならこれ以上無い位の味方となる。
「では、お前を異世界に転生させるぞ」
そう黒タイツが言うと、俺の足元に回転する円形の魔法陣のような物が広がった。
「大変だろうが、まぁ頑張れ」
「ああ。頑張るよ」
俺が黒タイツにそう返すと、俺の身体が薄く透けてきていることに気付いた。視界も霞んでくる。恐らく転生している途中なのだろう。
「そういえば、お前の名前を聞いてなかったな、何て呼べば良い?」
「・・・黒服と呼んでくれ」
「黒いからか?」
「何でも良いだろ」
不機嫌そうにそう答えた。名前を聞かれるのがそんなに嫌だったのだろうか?奴の言う通り、何でも良いのだが、気になるといえば気になる。
そう思いながら、俺はゆっくりと眼を閉じた。
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眼を開けると、そこは思いもよらない場所だった。
牢獄だ、しかし城などにある牢獄ではなく、RPGなどで見かける、洞窟のダンジョンにある牢獄だ。しかもこの牢獄、灯りとなる物が松明の火数本分で、少し暗い。
「これはまた随分と嫌なスタートだな」
そう俺が呟き、立ち上がった。そして、気付いたことがある。それは、目線が低いことだ。姿が変えられてると言ってたし、やはり何かの動物か?
そう思っていると、牢獄についている錆び付いた鉄格子に、僅かながら反射した自分がいた。
この暗い空間には目立つ白色で、深紅の色をした鶏冠、まるでニワトリだ。と言うか完全にニワトリだ。それも、かなりマスコット感溢れるニワトリだ。
それを見た時の反応は、たった一言だった。
「・・・マジかよ・・・」