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アルジレイキ  作者: エンノソク
5/5

入学

もっと早く投稿できれば良かったのですが・・・

 カゼリアに昨年設立された目新しい施設。

『私立カゼリア高等学校』

そこには学びを目的とした生徒が500人程度在校している。

汚れが見受けられない清潔な白を基調とした校舎に向かう学生たちの中、赤髪の少年は困惑した表情でダラダラと歩いていた。


彼は制服を身に纏い、新品の学生鞄を手にしている。

校舎まであと数歩という所で立ち止まり、踵を返す。

「む?どうしたのだアルジ」

赤髪の少年、アルジに彼の霊器グレンが声をかけた。

「・・・・・」

アルジは口を開かず校門へ戻ろうとする。

しかし彼が向かう先に長い髭を蓄えた初老の男が立っていた。

男は少年の元へ慌てた様子で駆けてくる。

「アルジ君!なんで戻ってきちゃったの!」

驚きを孕んだ声音で問う。

「なぁ...ポルトさん...なんでこんなことになったんだ」

アルジは不安に満ちた表情で俯いている。

「アルジ君が学校に興味があるって言ったんじゃないか」

「でもさ...いざとなると緊張っていうかさ...」

アルジは頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

そんな少年に、ポルトと呼ばれた男が笑った。

「ははは!キミはあれだけの傷を負ってまで戦ったのにこういうのには弱いのか!」

「ちょ!声がでかい!バレたらどうするんだよ!」

アルジは慌ててポルトを抑止する。

「ごめんごめん、ついおかしくてね」

ポルトは笑い終えるとアルジの肩に手を置いて言う。

「キミなら大丈夫だ、今まで出来なかったことを存分に楽しめ」

そうして歯を見せて笑い、アルジに問いかける。

「登校程度できなくて?」

アルジの表情は途端に明るくなり、それに応えた。

「何が男だ!」

「あぁ、行っておいで」

ポルトは校舎に向かって駆けていくアルジの背中をしばらく眺めていた。




ポルトが傷だらけの少年と出会ったのは一か月程前のことだった。

夕日が落ちる時間、仕事を終えたポルトは女の悲鳴を聞き細道へ走った。

しかし間に合わなかった。

そこには死んだ女と二人の少年が異形の生物を背に睨み合っている。

赤髪の少年が必死に金髪の少女を守り、銀髪の少年が笑いながら殺そうとする光景を何もできず見ていた。不幸な霊器使いを支援する立場であるはずの自分が、少年たちを助けなければいけないはずの自分が、ただ物陰から傍観している。

ポルトはそんな自分に酷く嫌悪していた。

何もできない、何もしようとしない自分に。

目の前の少年は次々と霊器の剣撃を受けて息が荒くなっていく。

血が辺りに飛び散り、痛みに叫ぶ少年。

彼が少女を守れず、死にゆく姿は見たくなかった。

だが自分は霊器を持たないただの人間。

奥歯を噛み締めて目を瞑る。

ポルトは既に諦めていた。

少年と少女の死を覚悟し、目を開く。

しかし赤髪の少年は傷だらけの身体でニカりと笑ったのだ。

彼は諦めていなかった。

そうして少年は砂塵の中、少女に触れて術を会得した。

驚きで何が起きているのか理解が追い付かなかった。

ポルトが気が付いた時には銀髪の少年が地面に倒れている。

少年は絶望を打開していた。

しばらく座り込んでいた少年は少女の元へ歩いて行く。

何かを話していたかと思うと少女は背を向けて去って行った。

少年は落ち込んだ様子でうなだれる。

そんな少年に警戒されないようにとゆっくり物陰から近づく。

ポルトは彼に謝りたかったのだ。

気配に気が付いたのか少年は声を上げる。

「だれだ!」

思いの外、力強い声音にポルトは少し驚いて反射的に否定する。

「おっと私、怪しい者ではございませんよ」

このセリフは怪しい人間以外の何者でもないと後悔する。

案の定、少年はポルトを睨みつけて言った。

「なんだあんた、怪しいな」

ポルトは疑われていると感じ、即座に身分を提示した。

『霊器所有者支援協会 会長ポルト』

そうして疑いを解くために続ける。

「あなたをぜひ、支援させて頂きたく参りました」

「え?」

少年はポカンと口を開けてポルトの顔を見る。

すると同時に少年はフラリと脱力して仰向きに倒れた。

「え!?大丈夫かい!?キミ!おい!」

ポルトは驚く、だが少年は過労と出血により気を失っただけのようだ。

「ほっ...よかった...」

その後警察に通報したが深夜ということもあり車は一台のみ寄せられた。

死んだ女と気絶している銀髪の少年が一台の車に乗せられそれ以上は運べないと言う。

肩を持ち抱えるようにして少年を病院へと運んだ。

街道を通る際にいくつか視線を感じたが彼の治療を最優先にしたかった。

ここで命を落とされてしまえば生涯罪悪感を負うと解っている。

必死に力無き腕で少年の筋肉による重い身体を初老の男が支える。

「あと少しだ...頑張れ少年...!」

ポルトは息を切らしながら歩いた。



病院に到着したのは夜明けが近い時間だった。

ポルトはすぐに病院のインターホンを押す。

「急患です!お願いします!」

そんな様子を見て係員の男が慌てて扉を開ける。

少年は病院内に運び込まれ、治療が始まった。

ポルトは安堵していた。

「よかった...」

一晩歩いた疲れと安心感により睡魔が押し寄せる。

それに抗えず彼は深い眠りについた。



「...さん...さ」

呼ばれているかのような声に眠りから覚めていく。

「う...うん?」

ポルトが目を覚ますとそこは病院の待合室だった。

近くの時計を見ると時刻は昼過ぎ。

そして彼を呼んでいた声の主が病衣を着て立っている。

「おじさん!やっと起きたか!」

赤髪の少年がニッコリと笑う。

「あれ?キミ...あれだけの傷を負っていたのに...」

まだ意識がはっきりとしないポルトに少年は言う。

「まぁ...なんだ...ほら!俺は男だからさ!身体が強いんだよ!」

「関係あるのかな...それは」

ポルトは苦笑いを浮かべる。

「おじさんが俺をここまで運んでくれたんだろ?ありがとな!」

少年は右手の拳を前に突き出し明るい声で言う。

「いや、全然大したことではないよ...」

ポルトは謝る機会を探っていたが少年は続ける。

「助けてくれなかったら俺はあそこでくたばってたかもしれねぇし」

そして思い出したかのように少年はポルトに問う。

「そうだ!たしかポルトさんって言ったんだっけか、支援なんたらの」

「そうだけど...キミの名前は?」

ポルトの問いに少年は答える。

「俺はアルジ!正式な名前ではないけどさ」

少年、アルジが僅かに暗い表情を見せる。

ポルトは感じた。

アルジも霊器によって人生を壊されたのだと。

「アルジ君、自分の霊器が憎いかい?」

周囲に聞こえぬよう声を忍ばせてアルジに問う。

「いいや、むしろ感謝してる。毎日うるせぇけど良い奴だよ」

ポルトは初めて霊器を憎まない霊器使いに出会った。

「キミの人生を壊した可能性があるにも関わらず?」

ポルトは棘を孕んだ質問をしたことをすぐに後悔した。

だがアルジは笑いながら応えた。

「その程度で壊れちまうんなら既にヒビとか脆い部分があったんだろ!それに一回壊れてもまた直していけばどうにかなるって!今の俺がその証明だ!」

胸を張り得意げにする少年の表情には一切の曇りが無かった。

その時ポルトは決意した。

この少年を全力で支援すると。

彼は今までポルトが支援してきた霊器使いとは明らかに違う。

赤髪の少年アルジには生きていく希望があった。

「アルジ君、これからよろしくね」

ポルトは手を差し出す。

「あぁ!よろしくな!」

その手を握りアルジは応えた。



アルジの入院期間中にポルトは様々なことを聞いた。

アルジの霊器グレンについて。

ここまでの経緯やどこで暮らしていたのかなど。

聞いていくうちにポルトは一つ疑問を抱く。

「アルジ君、キミたちが先日使った術はどういうものなんだい?」

彼が使った術、ローブの霊器を赤黒く染まったグレンの左腕で握りつぶしたあの光景がポルトには理解し難かった。

「あぁ、あれは俺が初めて開示した『壱式(いちしき)』って術なんだけど」

アルジはポルトが差し入れた煎餅をバリバリと食べながら続ける。

「グレンの左腕が触れた霊力を奪い取るんだよ」

食べることに夢中のアルジにポルトが菓子折りを追加する。

「お!サンキュー!まぁ奪える量は制限あるし、一回でも触れた手を離せば消えるし、なにより術発動時の激痛が嫌だの何だので大変なんだよ」

一通り説明を終えると置かれた菓子折りに手を付ける。

「確か、術が開示された際にアルジ君は頭の中で術に関する情報を得たんだよね。他の術については何も得られなかったのかい?」

「あぁ、まだ霊力が足りてないみたいなんだ」

モグモグとクッキーを食べながらアルジは応えた。

「ありがとう、色々質問して悪かったね。お詫びにアルジ君が行きたい場所に退院後連れて行ってあげようじゃないか」

ポルトはドンと自分の胸を叩く。

「え!?本当か!?どこでもいいのかポルトさん!」

「あぁ!任せたまえ!宇宙でも何でも!」

そうしてアルジは目を輝かせて答える。

「俺!学校に興味があるんだ!」

「よーし!それじゃあ学校に...へ?」

アルジの答えに初老の男は戸惑う。

「ほら...俺ずっと森の中で暮らしててさ...なんていうか普通の暮らしに憧れてたんだよずっとさ!お願いだよポルトさん!」

ポルトは少しの沈黙の後応えた。

「分かった!しっかり勉強するんだよアルジ君」

「よっしゃー!やったな!グレン!」

アルジは虚空に向かってハイタッチをする。

ポルトは忙しくなりそうだと感じつつ、少年への支援を開始した。



校内は白と緑の清潔な色合いの壁にクリーム色の柔らかい雰囲気を演出してくれる床。

生徒たちの喧騒の中アルジは職員室へと向かっていた。

ポルトの手続きのおかげでアルジは入学ができた。

それはカゼリア高校の特殊な制度を利用したからだ。

カゼリア高校では霊器使いによって傷を負いしばらく登校が不可能とされた人間のために、比較的容易な編入が可能とされている。

試験は軽い物のみで、あとは面接と学費の納入。

アルジは試験をなんとか合格し、面接では明るい性格を評価され無事に入学できた。

「すみませーん...ア、アルジと申しますがー...」

職員室の扉を開き、恐る恐る声をかける。

「声が震えているぞアルジよ」

彼の中から声がするが気にも留めていない。

そんなアルジに気が付いた一人の職員が近づいてくる。

「あぁ!キミがアルジ君か!新しい私の生徒ね!」

黒髪を後ろで束ね、スラリとした体型に黒縁の眼鏡をかけた女教師が声をかける。

「え?あぁ...よ、よろしくおねぎゃいします」

「ア、アルジよ...プッ...噛んでいるぞ」

笑いを抑えきれないグレンの声がするも彼には届かない。

「ふふっ、緊張しないで!これから同じ仲間なんだから!」

「は、はい」

そんなアルジに女教師は笑顔で言う。

「さ!アルジ君!付いてきて!」

緊張で固まった身体をどうにか動かす。

そうして女教師はアルジを連れ二階にある教室へと案内した。

既に廊下は人の気配がせず、生徒たちは教室に入っているようだ。

女教師は一つの教室の前で立ち止まるとアルジの方へと振り返る。

「少しここで待っててね」

そう言うと彼女は教室へ入って行った。

ガヤガヤと生徒たちの声がする。

「う、うぉ...めっちゃ緊張してきたぁ...」

「それは最初からだろう」

未だ笑いを含んだ声でグレンが応える。

「お前ちょっと黙ってろ!」

アルジが声を抑えながらもグレンに怒鳴った。

気づくとアルジの目前に女教師が怪訝な表情で見つめている。

「ど、どうかしたの?アルジ君」

「い!いや!なんでもないです!」

慌てて応えるも女教師は苦笑いを浮かべていた。

「それじゃ、入ってきて」

「はい...」

気を落としながらもアルジは教室へと足を踏み入れる。

新しい生徒の姿を見て教室内はざわめいていた。

「えー、彼が私たちの新しい仲間です。それじゃ自己紹介を」

女教師の隣でアルジは口を開く。

「アルジと申す者です、これから多大な迷惑をお掛けするかと思いますが、ど、どうかよろしくお願い致します!」

そして床に手を置き土下座をしたアルジを見てクスクスと笑い声がする。

同時に彼の中から爆笑の声が聞こえた。

アルジはこの時気が付いた、グレンに騙されたのだと。

予めグレンからこのように挨拶をしろと聞かされていた。

心の中でグレンに抗議する。

「(ふざけんなポンコツ鎧!お前のせいで恥かいたじゃねぇか!)」

「(これで人気者間違いなしだ...プフゥ!)」

吹き出すグレンとクスクス笑う生徒たち。

そんな状況をフォローするかのように女教師が言う。

「アルジ君は面白い子だね!みんな!どうか仲良くしてね!」

顔を上げ、落ち込みながら教室内を見渡すと一人見知った顔があった。

薄い金色の長髪に翡翠色の瞳、アルジが助けた少女ティルだ。

驚くアルジに女教師が座席表を確認して言う。

「アルジ君の席はティルの隣だね!ほらあそこ!」

少女の席は窓際の最後尾。

その隣にアルジは座り、少女に声をかける。

「よ、よぉ!また会ったな!」

そんなアルジをチラリと見て応える。

「そうですね」

少女の素っ気ない対応にアルジはしばらく落ち込んでいた。



その後いくつかの授業を終えて下校時間となった。

「あれ?あの子は?」

アルジが教室を見渡すも少女の姿は見えない。

「先に帰ったのではないか?」

グレンが応える。

「そっか、なら仕方ない。俺たちも帰るか」

そうしてアルジは帰路へと足を動かした。

アルジには少女に聞きたいことがたくさんある。

なぜあの霊器使いに襲われていたのか。

少女も霊器使いならばなぜ抵抗すらしなかったのか。

様々な疑問が浮かぶ中、アルジは居候させてもらっているポルトの自宅へと到着した。







前にも書いた通り本当にノロノロ更新だなぁと思います。

やる気が無いわけではないのです。

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