#4『様々な疑問』
登校途中の午前7時12分。
黙々と歩いていると、
「……でもさぁ、何のために『赤月赤目』はそういう事件を起こしてるんだろうね。」
突然、リンリンがそう言った。
「さぁね。まぁ、確かに殺された被害者全員が、“前科有り”っていうのは少し気になるね……でもまぁ、私達は探偵でもなんでもないんだから、調べたって意味ないでしょ。」
「んー……そうだね!私達のやるべき事は『みんなの悩み事を解決すること』だもんね!」
などと話していると……
「───ドーーーンッ!!」
いきなり後ろから少し強めの力で突き飛ばされた。
「───うわっ!な、なに……?」
振り返って見ると、まるで“いたずらっ子”のような笑みを浮かべた悠君が居た。
「相変わらず、のんさんの反応は面白いな。イジりがいがあるわー。」
「……お前は朝から何やってんだよ。」
結君がすかさず突っ込む。
2人とも同じ発音をするけど、どういう訳かお互い、どちらの名前を呼ばれたのかが分かるらしい。
「あ、そういえば今朝のニュース見た?」
「ワンセグ聞き流しながら来たからな。……都市伝説と似てるところがある、だろ?」
と、悠君は私の心を見透かしたようにそう言った。
悠君は『赤月赤目』の都市伝説を教えてくれた張本人だ。
「うん。あ、さっきリンリンと話してたんだけど、犯人はどういう“目的”があってそういう事件を起こしてるんだろうね。」
「さぁな。……そういえば、この事件っていつ頃から発生し始めたんだっけ?」
「えっとね……“3か月”くらい前かな……悠君達が『転入』してくる少し前だったから。」
悠君達は元々は隣町から引っ越してきた転入生なのである。
「3か月……か。」
悠君がそう言った。
「……?どうかしたの?」
「いや、何でもない。」
「あ、そういえば今日は転入生が来るんだって!」
リンリンがそう言うと、
「…………そういえばそんな連絡来てたな。」
急に悠君の声がトーンダウンした。
「……黒斗さんから?」
「……そうだよ。」
「ちなみに俺達は“そいつら”を知ってる。」
「“そいつら”?ってことは1人じゃないの?」
私がそう言うと突然、
「悠、頭上に気をつけろ。」
と、結君がそう言った。
その直後、
「───!危なっ!?」
悠君の頭上目掛けて、空き缶が飛んできた。
「……こういう悪質なことをするのは、“アイツ”しか居ないよな……?」
明らかに悠君は怒っていた。
そして、目の前に現れた人物に対して、
「お前、マジでふざけんなよな……。」
「あはは……まぁ、当たらないとは思ったけどね。」
目の前には、髪の長い少女がこちら側に歩いてきた。
「……ったく、『ことね』だから許すけどさ……他のヤツだったら、最悪の場合、“殺してた”ぞ。」
「……いやいや、殺しちゃダメでしょ……。」
……あまりの急展開に全然頭がついて行かない。
今、『ことね』って言ったよね……?
てか、悠君、殺すって言ったよね……?
何でそんなに物騒な話になってるの……?
「お前ら、マジで朝から何やってんだよ……」
結君がすかさず突っ込む(本日2回目)。
「……『あきと』も何か言ってやれよ。」
と、結君はいつの間にか傍に居た青年に話を振る。
見たところ、先程現れた少女とこの青年は双子のようだ。
「いや、あの2人はいつものことだろ。」
「まぁ、確かにそうだけどな。」
「どうする?そろそろ学校行かねぇとヤバイ時間だろ……?」
「……そうだな。……ん?あそこに居るのは……」
と、結君が指差したその先には、見覚えのある人影があった。
「あ、やっぱり縲だ。」
「やっぱりって何だよ。てか、悠は朝から何やってんだ……?」
縲君は悠君を見た直後、『ことね』と呼ばれた少女のことに気づき、少し驚いたような表情を浮かべた。
「……ことね……?お前、何でここに……?」
「あ、縲だ。……あれ?私に気づく前にあきとのことに気づくと思ってたのに……居なかった?結の横に。」
「……?いや、居たら分かる。って本当に居たな。」
「……俺はそんなに存在感ないか……?てかことね、お前今『居なかった?』って聞いたよな?居なくなってることを前提に聞いたよな?」
「さぁ……私には何のことやら……。」
『ことね』と呼ばれた女の子はそう言うと、ササッと悠君の後ろに隠れた。
「まぁ、俺は興味を“持たなすぎてる”だけだから気にすんな。」
「いや、そういうものなのか……?」
「ま、まぁ、とりあえず今は学校に向かうことを最優先しよ!……ね?」
リンリンが慌てたようにそう言うと、
「……時間のことなら、大丈夫だと思うぞ。」
結君がそう返した。
「……?どうして?」
「……時間、確認してみろよ。」
「時間を……?分かった……って、えぇ?!」
と、リンリンがスマホの画面を確認すると、信じられないとでも言うような表情を浮かべた。
「私達、10分くらい話してなかった?」
「大体そんなものかな。でも、それと一体どういう関係が……?」
「全然進んでないんだよ、時間が。」
「え……?」
「……いつものんさん達がここを通るのは大体7時12分頃。けど、今日は遅刻してもおかしくない時間まで話していた。なぜなら、イレギュラーなことがあったから。」
悠君がそう言うと、
「……私達が来たこと。それと、縲が来たこと。普段なら会わないんでしょ、“のんさん”?」
と、いきなり話を振られ反応が少し遅れてしまった。
「え?……あ、うん。えっと……」
「あ、私のことは『ことね』でいいよ。さん付けとかは“嫌い”だからさ。」
「そ、そうなんだ。えっと……よろしくね、ことね。」
「うん。あきとも同じように『あきと』でいいから。」
「……お前が決めてどうするんだよ……。」
あきとが呆れたような口調でそう言った。
あきとの言葉にことねは少しむっとしたが、
「まぁ、そんなことよりも『説明する』方を優先してもいいかな。」
「『説明』?何の……」
「『今起きている現象』について……と言ったところかな?」
「現象……?」
という質問にことねが答えようとしたその時だった。
「そう。現し───」
「別に、今じゃなくてもいいだろ。学校、行こうぜ。」
縲君がことねの言葉を遮る。
少しイラついているような、そんな口調だった。
「……まぁ、確かにそうかもね。じゃあ、この話はまた後で。」
ことねは残念そうな表情を浮かべながらそう言った。
「それと、ことねに1つ忠告しておくと、うちのクラスの委員長に気をつけろ。“大変なこと”になるから。」
「縲の忠告は大抵、『確定事項』だからね。まぁ、肝に銘じておくよ。」
と、ことねは特に気にしていなそうな表情でそう言った。
でも、どうして委員長なんだろう。
何かあるのかな……?
などと思考を巡らせながら、私達は学校に向かった。
その数時間後、縲君の言葉が現実になろうとは思ってもみなかった。