Case.3:窮鼠、猫は咬まずして
「やあ、リヴ。ご機嫌いかが?」
猟奇的に瞳を輝かせて、黒髪の少年が嗤う。
「俺よりも、そこのオトモダチに聞いてやったらどうだ」
リヴの言葉に、少年――ユイをとり囲む生徒たちの肩が、ビクリと揺れた。青ざめた表情をみて、哀れだな、と思う。
ユイに目をつけられてしまったことが、哀れだ。
「リ=ヴェーダ。これは……っ」
「立ちされ」
弁明を封じて、退路をあける。
「あの」
「聞こえなかったか? 行けと言っている」
「しかし、俺たちは」
堂々巡りだ。額を抑えるリヴを、ユイは、面白そうに見つめている。
「――ユイ」
「なあに?」
「話が進まん。こいつらを散らせろ」
「無力な俺に無茶言わないでよ」
しゃあしゃあとよくも。ため息をこぼして、リヴは、手近にいる生徒の腕を叩いた。
「言ったろう、こいつに手を出すなと。碌なことにならんからな」
「は……?」
「この馬鹿をいたぶろうが、脅そうが好きにすればいい。できるものならな。だが、問題がでかくなればヒジリが出てくるぞ」
「きみもね」
口をはさんだユイを、じろりとリヴは睨む。
「わあ、こわいこわい。監査議会に睨まれる(・・・・)なんて、学園生活の危機だ!」
ひょいと肩を竦めるユイは、芝居がかった口調で言う。ビクビクと反応するのは、周囲で聞いていた生徒たちで、当の本人は涼しい顔。すべて計算だ。
「はめられたな。こいつの悪ふざけに巻き込まれて哀れだとは思うが、咎めだてはしない。俺の仕事が増える前に散ってくれ」
そうして、他の生徒を追いかえした後、残されたユイの前髪をひっぱる。
「痛いなぁ……ご立腹かい?」
「いちいち面倒な呼び出し方をするな」
「だって、きみを捕まえるには一番効率がいいんだもの」
「その長ったらしい髪も、野暮ったい服装も、校則違反だが」
「もうしばらく、ね? まだまだ遊び足りないんだ」
「なんでもいいが、俺を巻き込むなよ」
「そいつは無理な相談だね」
ユイは、へらりと笑って言った。
「――だって、きみを巻き込むことが目的だもの」