リリの日
リリは、大きな眼鏡をかけている冴えない科学者みたいな女の子だ。
母親同士の仲が良かったからか、君は近所に住んでいたリリに小さいころからよく遊んでもらっていた。
とても頭が良くて、有名な私立校に通っていたのを覚えている。
君が小学校に入った時リリは高校生だったが、休みの日になると君は必ずリリの所へ遊びに行った。平日にどうしても会いたいときは、おばさんに言ってリリが帰るのを部屋で待っていたこともある。
君はリリのことが大好きで、時間が許す限りいつもリリに遊んでもらっていた。
いや、君は遊んでもらってるとは思っていなかった。
一緒に遊んでいる。
そう思っていた。ただ、それは、リリも一緒なのではないかと今でも思う。そうでなければ、勉強で忙しいはずのリリが幼い君を邪険にせず遊んでくれていた理由が解らないから。
リリとばかり遊んでいた君は、友達の少ない子供だった。
それを君の親は心配していたようだけれど、君にとって同じ年の子供たちは皆幼稚すぎて、遊んでいてもちっとも詰まらなかったのだ。
リリのほうが頭が良くて面白い。
そして、何より君にとってリリとは『誰よりも解っている奴』だったから。
その日も君は大好きなリリに会いに行った。
休日の正午過ぎ。お昼ご飯のチャーハンを食べた後、君はリリの家に走って行った。
「リリちゃん、あそぼ!」
玄関を開けてくれたおばさんへのあいさつもそこそこに、君は階段を駆け上がるとリリの部屋をノックもせずに開けると、部屋の中は大きな段ボール箱で溢れかえっていた。
一目見てすぐに君はここが見知ったリリの部屋じゃないことに気が付いた。
リリの好きだと言っていた不思議な絵の描かれたポスターが壁からはがされていた。
本棚にびっしり詰め込まれていた本も、積みあがったコピー用紙やレポートの紙束も、君が持ってきていた怪獣のおもちゃも無い。
殺風景で、がらんどう。
すっかり寂しくなってしまった部屋におそるおそる足を踏み入れると、リリは部屋の真ん中で、城塞のように積みあがった箱に囲まれて眠っていた。
ご丁寧にも布団を敷いて、仰向けのまま静かに目を瞑っているリリを見て、君はコールドスリープにかけられた映画の宇宙飛行士みたいだと思った。
あんまりに綺麗な寝姿に、起こさないようゆっくりと忍び足で枕の横に座った君はいつものようにそっとリリの額に自分のおでこをくっつけた。
☆ ☆ ☆
次の日、リリは遠くの町に引っ越した。
君でも知っているような、有名な大学に進学が決まったから、そこに行くためにこの町を出なければならなかったのだ。
段ボールの城の中に眠っていたリリは、丁度引っ越しの準備をしている最中だった。
「リリちゃん、頭が良かったからねぇ。良い大学に行けて良かったけど、やっぱりちょっと寂しいねぇ」
母親が寂しい寂しいと繰り返し言っていたが、君は全く寂しくなかった。
まだむずむずするおでこを擦りながら、君はこみ上げる笑いを必死にこらえる。
やっぱり、リリは『解っている奴』だったのがとても嬉しかった。
これならば君は二度とリリと出会うことが出来なくても、もう大丈夫。
あの日、君はリリから『世界』を貰った。
ここまでお読みくださった方、ありがとうございます。
初めましての方、初めまして。ダブルパン猫と申します。この作品は別のサイトにも投稿したものに手を加えて投稿させていただいてます。
前から書きたかったVRMMOに狂気1と電波2を加えてそっとバトルの皮で包んだ話になる予定です。
まだまだ序章なので、感想など書き辛いと思いますが何か一言いただければ僥倖です。