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糸紡ぎ、歌え

作者: 久木

 まったく、仕方のない、どうしようもないやんちゃどもだ。

 だがそんなところを気に入ってもいる。

 我が強く協調性がなかろうが、敵将を落としたものこそが英雄なのだ。敵を殲滅する力こそ至上。

 そんな才覚を秘めた彼らはいずれ自分を超え、更なる上へと昇るだろう。 口うるさい俺のことを連中は鬱陶しがっていたようではあるが、俺からすればでっかい息子みたいなものだった。 まだまだひよっこのあいつらの世話を焼き、見守り指導し育てていく、そんな未来をまぶしく愛おしく思ってもいた。


「下がれ馬鹿ども! ……深追いしすぎだ!」


 頭角を現し始めた新米将は狙いどころだ。

 案の定、うちの馬鹿どもは罠にはまり、こんな小さな戦場で死にかけている。あわてて追いかけてきてみれば、もはや後がないくらいに追い詰められていた。

 脇から敵との間を分断するように地の祝印を発動させ、強引に間に割り込んだ。 退けきれなかった敵の反撃を受けて、愛馬がいななき倒れる。 その死を見届ける余裕もなく、即座にその背から飛び降りた。


退け! おまえらにゃあ、まだ荷が重い!」


 吐き捨てれば、反発するように唸る声。

 あんたはどうすると問われて、鼻で笑った。


「俺は防御専門の祝印使いだ。 足止めぐらいわけがねぇよ!」


 もっとも、足止めに限り――だが、それは言う必要あるまい。


「おめえらがいると邪魔になるんだ。 上官命令だ、いけっ!!」


  上官命令とつければそれなりに効力はある。 ちらりと視線を合わせたあいつらは、唇をかみしめ馬頭を返した。 それを刹那見送ってもう一度祝印に力を込めた。

 眼前に迫っていた鉄刃が、重力に阻まれ寸前で止まる。 さらにもう一度力を込め地を割ろうとしたが、あいにく敵の祝印によって阻まれた。 まあ、そんなものだろう。 一発目は不意打ち、二発目は瞬間発動の防御術。 少しためが必要な印であれば、阻まれて当然だ。

 だが。


「俺の印は防御専門でな。 こっちにはそれなりに自信がある」


 両腰につるした双剣は伊達ではないと見せつけ笑う。

 さあ、時間を稼がせてくれよ。

 あいつらが逃げるだけの時間を。






 糸歴しれき2362年、ガディオス国とセントルク国の国境にあたるアマダ谷で小紛争あり。

 ガディオス国第3軍大隊長クルド・ヴォーダ、戦死す。






 戦いがあった場所では、その終結後可能な限り一般兵によって戦死者の遺品の回収が行われる。戦死者を弔い、見送るまたは遺族へ返すためだ。一般兵ではなくとも任意で参加することはできるそれに加わった彼らがまっさきに向かった先、記憶にある顔はなくなっていた。

 将は首を取られる。 敵国の将の首を持ち帰れば、それが討ち取った明確な証拠となるからだ。

 大隊長ともなれば、とられて当然といえよう。

 だが、あのいつも自分たちを叱って、褒めて、笑っていた人の顔がなくなっているという事実に愕然とした。

 傷だらけの体にすがり、その傷口を一つ一つなでているのは、回復の祝印を得意としていた一人だ。


「治れ、治れ、治れよ、治れよぉ……」


 死体に回復は効かない。無駄なことだ。

 だが無意味なそれをめることができずに、肉の塊にすがりついた。


「防御、専門って、いったじゃないっすか。 死んだら、意味ないって、いつも言ってるじゃないっすか」

 

 わかってる。防御といったって限度があることくらい。

 死んだのが、自分のせいだってことくらい。

 あの時敵の罠に気が付けずに飛び込んだから、その代償を彼は代わりに命で支払ったのだ。

 声が震え、ぐずぐずと鼻をすすった。 泣くなど無様な真似したくない。

 男が泣いていいのはオンナに振られたときだけだと彼が教えてくれたのだから。


「……首ィなくなっちまた」


 もし、奪われたものを奪い返したら。

 ひょっこり戻ってきて、置いてって悪かったと、言ってくれないだろうか。

 ぽつりとつぶやいた一言に、残りの二人が反応した。


「邪印術……に、そんなの、あったっすね」


「…………輪廻の術……、血肉をもって魂をかりそめの肉体に呼ぶの、だっけ」


 有名な死者蘇生術の一つだが、行われることはないと言ってもいい。

 祝印を真逆に使う邪印術は大いなる力を必要とし、またその危険性ゆえに禁忌と呼ばれるからだ。

 当然行うための知識も、能力も、それを隠ぺいするための権力も金もいるだろう。


「……忙しくなるなァ」


「まあ、目的がはっきりして、いいんじゃないの」


「そっすね。 金も力も、軍にいりゃあ手に入るもんだし」


 邪印術を行う力は、あいにく・・・・とこちとら持ち合わせているのだ。

 彼によって太鼓判を押された、強大な祝印の力を。

 遺体の傍らにしゃがみ込み、水の祝印を発動させた。

 大気の水が集い集まり、覆うように一片の露出なく凍りつける。 遺品、とってないんだけどと睨まれようが、鼻先で笑うだけだ。


「ンなもんとってどうすんだ。 丸ごと、俺らでもらっちまうのに」


「……たいちょって、天涯孤独の独身っていってたじゃないっすか。 遺品いらないっすよ」


「隊バッチ、もらおうと思ったのに」


「そういうのは、本人の許可を得てからにしろ」


「許可ってっ……まあ、そうする。 バッチ、俺予約するから、お前らとらないでよ?」


「はー? なにいってんすか、早いもん勝ちっすけどー」


「はぁ? ケンカ売ってんの? 殺すよ」


「うるっせェよ。 運ぶの手伝え!」


「ちぇー」


 俺らをかばって死ぬなんて、あんたもなんてバカなことをしたもンだ。

 一緒に戦おうって、いってくれりゃァよかったんだ。

 祝印の力を買われ、軍に囲われた俺らはこれっぽっちも軍に愛着がなかった。そんな俺らがここにとどまり腐らずにいられたのは、いつだってあんたのもとで戦うのが好きだったからだ。

 あんたの役に立ちたくて、褒められたくて、護ってもらうひよっこじゃなくて隣に並び立つ戦友になりたくて――おいてかれまいと焦るほど、手柄がほしかったのに。

 あんたがいなくなって、俺らがどうなるか想像できなかったあんたが悪ィ。

 自分が慕われてるなんて、思ってなかったんだろう? 知ってるよ。 俺らのこと、ひよっこひよっこと甘やかして最後には尻拭いを自分の命でしちまった。 ならば、今度はその代償をその魂で払えばいい。

 大声で笑ってやりたくなった。

 さあ、殺しだ。

 敵将を殺して首を奪って、落として、狩って、殺しつくそう。

 力を得るために、望みをかなえるために。






 ガディオス国で、3英雄と呼ばれる者たちが現れる数年前のことである。

 3英雄は若年にして瞬く間に軍を登り詰め、長き抗争状態にあったセントルク国を滅ぼした。

 その英雄の傍らには、いつからかうら若き少女が側についていたという。

祝印 ……魔法的な力。神様の祝福で使える能力が変わる。

邪印術……祝印であたえられる祝福を捻じ曲げてつかう。大変むずかしい。

蘇生術……邪印術で有名なもの。方法も知られているが、大変!難しいのでやる人がいない。蘇生と言ってるけど本人がそのまま生き返るわけじゃない罠。


メモ的人物紹介

その1:高飛車。光系(特殊)、緑系をつかう。

その2:体育会系。風系、炎系をつかう。

その3:えらそう。水系、闇系(特殊)をつかう。

隊長:名前が出た人。世話好き。土系をつかう。

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