Taste Sweet
Taste Sweet
ふわふわした想いを掴まえて、ぎゅっと抱き締めたら、心の中にふわり、愛が溢れた。
「愛してる、なんて、簡単には届けられないから……」
「え?」
「……だから私、伝えたいって思ったこと、大切にするよ。」
「どうしちゃったの、叶音?」
「コイスルオトメに優しい言葉なんて必要ないさ」
「雄音!!」
「何しに来たのよっ!?」
「ほら、忘れんぼさんにお届け物だ。」
「あっ!!」
エプロンと三角巾のセット。
そうだ、今日は調理実習だった。
「後で何か購買でおごり、な?」
「……ありがと」
なんだか悔しくて、ふて腐れてしまう。
「雄音先輩──っ!!」
「お、奈々」
「叶音先輩もっ!!」
「私はおまけかいっ!!」
奈々ちゃんが雄音に抱きつく。
見た目だけは良い雄音がリア充になったら、私はもしかしたらすっごく嫉妬されるのかもしれないと、中学になって双子であることを自覚した時は思ってた。
でも、奈々ちゃんは違った。
「違いますよ!!」
すっごくすっごく純粋で、ピュアな女の子なのだ。今じゃ私の恋愛相談相手……、あ、
「なんで叶音はいきなり赤くなるんだよ……。」
「成之先輩のこと考えてるんですか?」
「なななっ、奈々ちゃん!!」
「叶音、置いてくよ──っ!!」
「いっ、今行く!じゃあね!!」
「おごり!!忘れるなよ!!」
「分かったわよっ!!」
「……叶音先輩の恋、叶うといいですね」
「ま、どっちでもいいけどな」
☆☆☆
「……いい匂いしてきた!!」
「本当だ──!!」
「……。」
片付けに入って、味の注意をしなくてよくなった途端、
『クッキー焼くのか!!……俺にも持ってきてくれるか?』
にっこり笑って、いとも簡単に言う成之先輩のイメージが戻ってくる。
上手く出来るかな、美味しいって言って貰えるかな、なんて、思考がぐるぐる頭を巡る。
「ほーら、叶音、ちゃんとやって──」
「ゆうちゃん!!」
驚いて落っことしそうになった、私が洗っていたお皿を、楢羽はいとも簡単にさらっていった。
「愛に溺れてないでくださいね──?」
「……っ!!〃〃」
「あらあら真っ赤になっちゃってまーあー!!」
「もう楢羽ってば!!」
そこでタイミングよく、オーブンが電子音を立てた。
「あ、私見てくるよ!!」
「あ──、叶音逃げたぁ」
「だね」
周囲の女子まで、ころころと笑い声を上げる。
何故かその声がウザくなくて心地良いから、怒るに怒れない。
カチ。
オーブンレンジを開ければ、そこにはプレーンとココアのクッキー。
星とハートの形のものは私が作ったやつ。
花と音符の形のものは楢羽が作ったやつ。
……どっちも想い人へのものだ。
「袋くらい持ってきてるんだよね、叶音?」
「あっあっ、当たり前だよっ楢羽!!」
「ん!……これ美味しい!!」「あぁもう何勝手に食べてるのっ、みんな〜!!」
☆☆☆
成之先輩は、今日も、部活だろうか。
先輩と知り合ったのは、ええと……そうだ、階段だ。
「君、鳴海中の子?ここ目指してるの?」
高校受験に悩んで、手当たり次第に高校を見に行っていたとき、ここで先輩は、そう声をかけてくれた。
「はっ、はいっ!!」
緊張して返答すれば、
「頑張ってね!応援してるから!!」
そう、返してくれた。
その一言で、──たった一言だったけど、
私はこの学校に来れたんだ。
☆☆☆
「成之先輩っ!!」
「お、叶音ちゃん!!」
「クッキー……焼いたんです。貰ってくれますか?」
「うん。有難く頂くよ。」
「やったあっ!!」
「叶音ちゃんの自信作?」
「自信作って言うほどの出来じゃないんですけど……でも、頑張って作ったから」
「……ん、おいひい」
「良かった……!!」
「んで?」
「へっ?」
「まだ他に言いたいことがあるんじゃないの?叶音ちゃんさっきから、顔が真っ赤だよ?」
「っ!!!!……えっと…えと…えと……!!」
「うん?」
「成之先輩のことが、好きです……!!」
あぁもう私ったら、何言ってるんだろ。
成之先輩のこと、直視なんて出来ない。
でも、分かるよ。
分かっちゃうんだよ。
先輩、驚いてる──……。
あぁ、もうダメかも。
そう思った瞬間、体は勝手に動き出した。
「ごめんなさいっ、あっあっあたしっ、何言ってるんだろ!!」
「ちょっ、叶音ちゃん、」
「ごめんなさい、さようなら!!」
勝手に、走り出そうとして──、
「待てよ、叶音」
呼吸が、止まった。
……気がした。
振り返ったら、
「俺も、叶音のこと、好きだ」
真っ赤になった、成之先輩がいて、
「……え……?」
引っ張られて、振り向かされた。
それって、これって、
両想いってこと!?
「俺の隣に……いてくれるか?」
「は……はいっ!!」
気を抜いたら一瞬で抱き締められて、成之先輩の腕の中で、私は、
あぁ、幸せってこういうものなのかな、って、
心臓のどきどきが抑えられないまま、思った──。
☆☆☆
「はいリア充一丁あがりー」
「これで叶音先輩もリア充ですね!!」
「なんかつまんないけどな」
雄音と奈々の間に笑いが起きる。
こんな瞬間が、たまらなく幸せで。
(こういう時間を、あいつも成之先輩と共有出来るのか。)
それはそれで、悪くないのかもしれない、とも思うんだ。
☆☆☆
愛は続く。──永遠に。
世界はそれを知っているから、この甘くてほろ苦い、幸せな時間を、変化のある日常を、私達にプレゼントして、残していってくれるのかもしれない──。




