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第二十話

休日の午前10時。

寝不足のまま、梨央はぼんやりとスマホの通知を眺めていた。

画面に「莉香」の名前が光る。

胸がざわつく。

指先がためらいながら、通話ボタンを押す。

「……もしもし」

「りお?」

莉香の声が少し焦って聞こえる。

「りお、なんかあったの?」

「え……?」

「涼真くんから連絡あってさ。りおの様子がちょっとおかしいって」

その言葉に梨央の手が止まった。

心拍数が上がっていく。

「涼真…から…?」

「うん。一昨日の夜、通話のあとすごく心配してて。『梨央が泣いてた気がする』って」

思わず息をのむ梨央。

頭の中で、一昨日の出来事がフラッシュのように蘇る。


声。涙。あの冷たい夜。二人の涼真に挟まれた恐怖。


「……何もないよ」

「嘘。絶対、何かあるでしょ」

莉香の声が一段と強くなる。

「りお、最近変だよ。顔色も悪いし、なんかぼーっとしてるし」

「……ごめん」

「謝ることじゃないよ。心配なの、私」

梨央は言葉を探すが、喉が詰まる。

何をどう説明すればいいのか、もう分からない。


私、幻の彼氏が見えるんだ。


そんなこと言えるわけがない。


「……大丈夫。本当に平気だから」

「その平気が一番信用できないんだよ」

莉香の声が柔らかくも決意を帯びていた。

「今から行っていい?」

「え、でも……」

「30分で行くから」

…通話が切れる。

静かな部屋に、莉香の声の余韻だけが残っている。

梨央はスマホを握りしめたまま、動けなかった。

(どうしよう…莉香が来る……)

その瞬間、鏡の向こうでイマジナリー涼真が、ゆっくりと微笑んでいた。

「……誰も君のこと分かってないんだな」

その声がやけに冷たく響いた。


ピンポーン。

インターホンの音がやけに鋭く響いた。

梨央はソファの端で固まっていた。

胸の奥で何かが沈む音がする。

莉香がここに入ってくる…。

玄関へ向かう足が重い。

一歩、また一歩。

インターホンの音が自分の耳にやけに大きく聞こえる。

ゆっくりドアを開けると、そこに莉香が立っていた。

「りお……」

眉を寄せた莉香の顔。

その表情には怒りよりも心配が滲んでいた。

梨央は視線を合わせられない。

「……入るね」

「うん……」

靴を脱いで入る莉香。

リビングに並んで座る。

けれど空気は、息が詰まるほど張りつめていた。

そのすぐ後ろ、部屋の隅にはイマジナリー涼真が静かに立っている。

腕を組み、表情は読めない。

もちろん、莉香には見えない。

「ねえ…りお…」

莉香が口を開く。

「本当のこと教えて」

梨央の指先が小さく震える。

「本当のことって……」

「涼真くん、すごく心配してたよ」

莉香の声が、少し柔らかくなる。

「『梨央が泣いてた』って。昨日の夜の通話で」

梨央の喉が乾く。

「そんなこと……ないよ」

「昨日、途中で切ったんでしょ? ビデオ通話」

「電波が悪くて……」

「それ、嘘でしょ?」

その瞬間、部屋の温度が一気に下がったように感じた。

梨央の口が開きかけて、止まる。

目の端でイマジナリー涼真がゆっくり首を横に振っていた。

莉香の視線が鋭くなる。

「りお、お願い。隠さないで。最近、すごく元気ないよ。目も虚ろだし……」

梨央、うつむく。

(どうして、みんな……私の中を覗こうとするの?)

イマジナリー涼真が静かに囁く。

「言わなくていい。どうせ誰も理解しない」

梨央が息を呑む。

莉香はその小さな反応に気づく。

目を細める。

梨央の視線が、何かを追っている。

「りお……この部屋誰かいるの?」

その一言で、空気が凍った。

空気がぴんと張りつめる。

カーテンの隙間から差し込む朝の光が、やけに白い。

その中で、莉香が小さく息を吸う。


「りお、私ね……ずっと考えた」

梨央の肩がわずかに揺れる。

「……え?」

莉香の声はいつもより静かだった。

でも、その静けさの奥に決意のようなものが見えた。

「最近のりおはおかしいって」

「おかしくなんか――」

「あるの」

莉香が遮る。

「会議で独り言を言ってた。誰もいないのに、誰かと話してるみたいだった。会社の人も気づいてる」

梨央の顔からすっと血の気が引いた。

「冷蔵庫に二人分の食事が入ってるよね?」

「どうして、そんなこと……」

「心配だからだよ」

莉香が涙をこらえながら言う。


時計の針の音が、やけに大きく響く。

カチ、カチ、カチ。

「りお、もしかして——」

梨央の心臓がきゅっと縮まった。

「な、なに…?」

声が震える。

莉香はゆっくり、梨央の目を見た。


「涼真君以外に付き合ってる人いるの?」

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