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第十四話

梨央と莉香、二人でソファに並んで座る。

外はもう夕方で、カーテンの隙間から差し込む光が部屋の埃をゆっくりと照らしていた。

テレビは消したまま。

カップの中のコーヒーはすっかり冷めきった。

沈黙が思ったより重い。

莉香がためらいながら口を開く。

「ねえ…りお」

「ん?」

「本当のこと教えて」

「……本当のことって?」

「涼真くんと…ちゃんとうまくいってる?」

梨央は視線を落とした。

手のひらをいじる。

爪の先が少し白くなった。

「うまく…いってるよ」

驚くほどの小さな声。

「ほんとに?」

「……うん」

莉香はしばらく黙って、梨央の顔を見つめた。

その沈黙の間に空気が冷えていく。

「りお…」

声のトーンが少し下がる。

「元気そうに見えるけどさ…なんか変じゃやない?」

「変…?」

「うん。笑ってるのに心がそこにいない感じ」


梨央の指先が、かすかに震えた。

「……そんなことないよ」

「あるよ」

莉香は言い切った。

彼女は少し迷いながら、言葉を選ぶように続けた。

「この前ね、梨央の会社の子から聞いたよ」

「……え?」

「りおが会議中、変なこと言ってたって」

梨央の胸がきゅっと縮む。

「なにそれ?変なこと?」

「誰もいないのに、うんとかそうだねとか言ってたらしいじゃん」

梨央は目を伏せた。

喉の奥が熱くなる。

「あ、あれは……考えごとしてて……」

「私も最初はそう思ったよ。だけどさ…」

莉香の声は優しい。

でもその優しさが梨央には苦しかった。

「りお、無理してない? 一人で、何か抱え込んでない?」

梨央は首を振った。

「……だいじょうぶだよ」

その声はかすかに震えていた。

胸の奥から何かがこみ上げる。

涙が喉の奥でせき止められて、苦しい。

莉香は小さくため息をつき、梨央の手を握った。

その手は温かくて、現実の感触だった。


「ねえ。もし辛いことがあるなら、話して。私、聞くから」

梨央の唇がかすかに動いた。

「うん……ありがとう」

涙がにじむんで、梨央は目を合わせられなかった。

莉香はしばらく黙ったあと、なにかを決心したかのように言葉を続けた。

「あのさ、無理したくないこと言うけど……」

「……なに?」


「もし、心配なことがあるなら……病院、行ってみない?」

梨央の体が固まる。

「病院……?」

「うん。心療内科とか……そういうの」

莉香の声は優しいがその言葉が梨央の胸に刺さる。

「私、病気じゃないよ」

声が震える。

「そうじゃなくて、ただ心配で——」

「変なこと言わないでよ!」

梨央の声が大きくなる。

「……ごめん」

梨央は目を伏せる。

「ううん、私こそごめん。変なこと言って」

苦笑いする莉香。

空気が重い。

梨央の瞳の奥で、手放したはずの不安だけが静かに居残っていた。

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