秋の陽気(ようき)
「では写真撮影など、どうぞ。動画もお撮りください」
焼香も終わって、僧侶がそう言ってくれる。今どきの法要というのは、こういうサービス精神で一杯なのだった。親戚が集まる機会というのは貴重なので、お言葉に甘えてスマホでの撮影タイムが始まる。若い世代なら『今日は四十九日、なう』などとSNSに動画をあげるのだろう、きっと。金色に飾り立てられた寺の屋内は、さぞかしインスタ映えするのだろうと思った。
その後はお寺の、食堂のようなところへ皆が移動をする。手配していた弁当を配って、親戚が持ってきてくれた果物もテーブルに用意される。喪主である長男が、「今日はお集まりいただき、ありがとうございました」と挨拶をすませて、食事会が始まった。
ちなみに長女は、家の都合で来ていない。私と違って結婚生活がうまくいっているのだから、そちらを優先するのは当然である。ほとんどの参列者は私の親戚で、元夫の仕事仲間であった男性もいたが、そちらは私の長男と仕事の話をしている。皆が今の近況を語り合っていて、アレの話題などは全く出ない。アレの本性は皆が見透かしているのであった。
無花果や葡萄があって、これらは親戚が作ったものだ。「種は、薬で除去してるから」と言うが、シャインマスカットを個人で栽培しているというのが私には上手くイメージできない。私の一族は土地を持っていて、中には畑仕事を趣味としている者もいるのだった。親からの遺産で、どうにか私も独り身を維持できている。
参列者は女性が多く、それぞれの夫の話などは出ない。男は男、女は女で集まって、同性ならではの会話を繰り広げる。浄土真宗の法要は、他よりも賑やかなのかもだ。死ねば皆が仏になるという宗派であった。私はアレが仏になったなどと信じてはいないが。
その法要もお開きとなって、長男など若い世代はつるんで街へと出かけるらしい。テーブルで座りながら客を見送っていると、私の妹が近寄ってきた。
「あの子、姉さんの家に泊まるって言ってるから。相手をお願いね」
「ええ、問題ないわ。そっちは上手くいってる? 結婚生活に問題はない?」
「おかげさまでね。問題と言えば、あの子くらいよ。私を性的な目で見てくるんだから困っちゃう。私は離婚なんかしたくないから、姉さんのほうで適当に処理してくれたら助かるわ」
笑い合って、私と妹は別れる。寺の食堂から妹が出て行って、入れ替わるように、妹の娘が入ってきた。私から見れば姪に当たる。私の子どもより若くて、二十代後半であった。
「……相っ変わらず、セクシー! 連休中よろしくね、伯母さん」
上気した顔で、妙な挨拶を姪がしてくる。欲望を隠し切れない表情だ。ひょっとしたら、私も似たような顔をしているのだろうか。椅子から立ち上がって、正面から私たちは指を絡め合った。
「ええ、よろしく。じゃ、行きましょうか」
指先が振れる程度に、手を握り合って寺を後にする。うっとうしい秋の陽気があって、そこから逃れるようにタクシーを捕まえて私の家へと向かった。
ドアを閉めた玄関の中で、靴も脱がない内から貪り合うようにキスをする。小さいながらも一軒家で、ぽつんと離れたところに建っているから多少の声漏れも気にすることはない。宅急便や郵便配達が来ても今日は出ないし、仮に警察が踏み込んできても、事が終わるまでは待たせておこうと思う。何の罪で逮捕されるのかも知らないし。
「興奮するよね、こういうのって」
姪が私を正面から見上げるように言う。姪は私よりも小柄で、そして痩せていた。最近の子は皆、同様に細い身体ばかりだ。内部には永遠の未成熟さが詰められているようで、「私は子どもなんか、産まないから」と姪は私に宣言したことがある。そういう身体ならではの美しさに、私は惹かれていた。
「力じゃ絶対、私に敵わないわね。鍛えてほしいとは思わないけど」
姪は立ったまま、私の胸を揉んでこようとするのだが上手くいかない。彼女の手が小さくて、私の胸が標準以上の大きさだから持て余してしまうのだ。逆に私は彼女を思いどおりにできて、ひな鳥を抱く親鳥のような気分になる。親は娘に、こんなことはしないのだろうが。
「早く、早く一緒に行こ……」
急かされるように求められ、ようやく私たちは靴を脱いで、あらかじめ敷いておいた布団の上へと辿り着く。姪が私の家に来るときは、いつも同じように、こうなっているので。手早くクーラーを点けて冷房にし、飲料水も潤滑液も近くにあることを確認する。うん、完璧だ。
「いい天気で良かったわ。まだ昼過ぎで明るい間に、睦み合うことができて」
何ごともそうだが、晴天の日に行うものは気持ちいいものだ。登山や海水浴は言うに及ばず、日常的な行為も同じである。まして元夫の法要や、その帰りに姪と行う情事には、非日常的な愉しさがあった。
「私、未亡人とのセックスって、やってみたかったんだ。本当にできて嬉しい」
「ふーん、そういう性癖? まあ私も、喪服の貴女をこれから脱がせるのが楽しみだけど」
私も大概だが、この子も変わっているとは思う。私の妹によれば昔から、同性の年上にしか興味を持たない子どもだったらしい。その内に母親である、私の妹にまで興味を向けたようで、『何とかして!』と私は妹から助けを求められたのだった。私が離婚をした後の時期である。
その頃には私も、今の家で一人暮らしだったし、姪も二十歳を超えていたので問題は特になかった。幸か不幸か、姪には結婚願望がないようで、だからか私を過度に束縛してくることもない。たまに会っては濃いセックスをして別れる。その繰り返しで互いに満足なのであった。
「男の人だと多いらしいよ。エッチな動画で、『未亡人もの』とか『熟女もの』とかが好きな人ってさ。自分の母親より年上の女性に惹かれたりね。実の母親とセックスするよりは健全でしょ?」
それはそうだ。私だって、まさか結婚している娘を押し倒そうとは思わない。なるほど、未亡人で熟女の私に惹かれる姪は、それなりに健全で筋は通っているのかもしれなかった。
考察にも飽きて、寝たまま互いの喪服を脱がし合う。家のカーテンは開いていて、これまで情事の最中、私たちは閉めたことがない。近くに人家がない、地方だから許される開放性だ。喧伝する気はないが、どこかから覗かれているなら、むしろ見せつけてやろうというくらいの気持ちはあった。
「いつもながら伯母さんの胸、大きい……巨峰みたい……」
姪は私の胸の前で、赤ん坊のようになる。こんなに可愛い子なら、私が産んでみたかったという気にさせられる。私が彼女を産んだとして、その後に彼女が成人してから情事に至るかは、ちょっと分からない。それはそれで愉しそうな気もした。
「ほら、背中を向けて。最初は私が苛めてあげる」
言われたとおり、姪が横臥した状態で私に背中を向ける。背のファスナーを下げていくと、黒い喪服の中から鮮やかに白肌が光る。私は法要に出てきたシャインマスカットを思い起こした。正に輝きというべきで、若さゆえの輝きがあって。下着を外して露わになった肩から尻までは、皮から実を剥き出しにした葡萄のように感じられた。
少しずつ、私は皮を剥いて、果実を味わっていく。手で、そして口で味わい尽くす。いい歌声が流れて、若い無花果は罪の味がして。この子をできるだけ長い期間、味わい続けたいと私は思った。
とりあえず、第一ラウンドが終わった。私たちは裸で、布団の上で水分補給をする。まだ外は明るくて、映画みたいに郵便配達が二度ベルを鳴らしたりすることもなかった。警察も、つつましく生きている私の家には興味がなさそうだ。
「伯母さんも、お母さんみたいに、『結婚しなさい』って私に言う? 結婚って、そんなにいいものなの?」
そんな話を振られた。元夫の法要をやった日の話題としては面白くて、私は即答する。
「いいえ、全然。断言してあげるわ、結婚なんかクソよ」
「そうなんだ。じゃあ私は一生、しなくてもいいや」
からからと姪が笑う。もちろん、『結婚に価値はあるか?』という問いの答えは、『人による』が正しい。しかし結婚する気のない人間が、無理に結婚をしても、良い結果には辿り着けないのではないかと思う。
私の結婚生活を振り返ると、育児に楽しみが無かったとは言わない。小さな幸せは、もちろんあった。しかし、元夫がすべてを台無しにした。交通事故で例えれば私の過失は一割程度で、おかげで親権も取り上げられずに離婚できたのである。
皮肉で『死ねば皆、いい人になる』などというが、馬鹿を言ってはいけない。死んだ程度で、生前の行いが許されると思ったら大間違いなのだ。私はアレの言動を死ぬまで忘れないし、絶対に許してもやらない。アレを仏や聖人として扱うようなことは、全力で阻止したいものである。
「来年からは独身税なんてものが始まるわね。それでも独身でいる?」
「相手がいてこそ、するものでしょ結婚って。私たちの幸せを考えない制度なんかクソだよ、伯母さん風に言えばね。もし周囲の国が同性婚を認めて、日本だけが認めなかったらどうなると思う? 一千万人くらいの日本人が外国に亡命するんじゃないかな。さっさと制度を変えなきゃダメよ、ダメ」
姪が起き上がって、私の手を引き風呂場へと誘う。ここから、ぬるま湯のシャワーを浴びて、二人で身体を延々と弄り合うのだ。以前に姪から貰った潤滑液は、普段は目立たないよう棚の奥に隠していて、姪が来るたび布団や風呂場で活用されている。
ここからは私が苛められる番で、若い彼女は手加減を知らない。いつか私は風呂場で姪に殺されるのではないかと思って、その後の葬儀はどうなるのだろう、と可笑しかった。




