表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

花灯祭、墜ちる星

 花灯祭は夜になり、賑わいが最高潮に達していた。

金色の灯籠が風に揺れ、甘い蜜菓子の香りが漂う。

紅葉たちは屋台を回りながら、笑い合っていた。


「この団子、美味しい!」紅葉が口いっぱいに頬張る。

「……口に蜜をつけてますわよ、まったく……子供じゃないんですわよ!」そういいながらも紫苑がハンカチで拭ってやる。

「……平和だな」エリカが静かに言った。


 その瞬間、ユグドラシルの枝葉がざわりと震えた。


「……流れ星?」結芽が見上げる。

しかし、それは星ではなかった。

光は尾を引きながら急降下し、轟音と共に広場の外れへ墜ちた。


―地面が揺れ、歓声は悲鳴へと変わった。


土煙の中から現れたのは、黒い外殻に星屑のような紋様を纏った獣。

 背には青白い光を放つ結晶があり、それが脈動するたび空気が震える。

「……星獣!?」

紫苑の声が低くなる。

「班長、指示を!」

猫柳が紅葉を見る。


「紫苑は射撃で牽制! 猫柳、周囲の人を退避させて! エリカは——」

「了解」エリカは既に刀を抜き、煙の中へ消えた。


星獣の尾が唸り、積み木をなぎ倒すように屋台をなぎ払う。

紅葉は急いで大剣でそれを受け止めたが、衝撃で膝が沈む。

(……重い! 花狐とは比べものにならない!)


 結芽は震える手で盾を握りしめていたが、逃げ遅れた子供を見つけると——

「下がって!」

 巨大な盾を重く、地面に叩きつけ、子供と獣の間に立ちはだかった。

 星獣の刃が火花を散らし、結芽を襲うが彼女の背は一歩も退かない。


―一方。紫苑の銃声、猫柳の糸、エリカの斬撃。それぞれが星獣を追い詰める。

だが、獣は苦悶の咆哮と共に背の結晶を光らせた。

瞬間、視界が白く塗りつぶされる。


光が収まった時——広場の一角と、灯籠の一部が跡形もなく消えていた。


「……何だ、今の……?」

紅葉の声は震えていた。


 星獣が消えた広場は、悲鳴と呻き声に満ちていた。

瓦礫の下から引き上げられる負傷者、泣き叫ぶ子供、灯籠の残骸。

紅葉は拳を握りしめ、噛みしめた奥歯から小さく軋む音がした。

(……またやられる。次は、もっと多くが——)


「紅葉、追撃は危険ですわ!」紫苑が腕を掴む。

「でも、逃したらまた来る! 今ならまだ——!」

 紅葉は紫苑の手を振り払い、大剣を握り直した。

「行くよ! 猫柳、エリカ!」

「お、おいマジかよ……!」猫柳が顔をしかめる。

「……」エリカは迷わず刀を抜いた。

星獣は煙の中に姿を消し、祭りの喧噪は虚ろな静寂に変わっていた。


星獣の残した足跡と焦げた草を辿り、紅葉たちは夜の森へ踏み込んだ。

虫の音も聞こえず、ただ遠くで星獣の低い唸りが響く。

「……近い」エリカが刀を構える。

次の瞬間、闇を裂いて尾が薙ぎ払われた。紅葉は大剣で受け止めるが、衝撃が全身を貫き、腕が痺れる。

 紫苑の銃撃、猫柳の糸で星獣の動きを制限。

「今だ——!」紅葉が踏み込み、大剣を振り下ろす。

だが星獣は身を捻り、渾身の跳躍で後方へ飛び退く。


 その先には——避難途中だった一般人の親子。

「——っ!」紅葉の顔から血の気が引く。伸ばした手は空しくも虚を切る。

星獣の尾が親子を薙ぎ、母親が子を庇って倒れた。

「くそっ……!」紅葉は駆け寄り、母親の血に濡れた手を握った。

子供は泣き叫び、母親は意識を失っている。

「紅葉、下がりなさい!」紫苑が叫ぶが、紅葉は動けなかった。

(私が……追撃なんて言わなければ……)


その隙に、星獣は闇の中へと消えた。


静まり返った森に、虫の音が戻る。

紅葉は震える手で大剣を握りしめたまま立ち尽くす。

視界の端で、救助に駆け寄る蓮の姿が揺れて見えた。


「……私、何やってるんだろ」

声が震え、視界が滲む。

次の瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。

「守りたかったのに……! 私、全然……!」


蓮は何も言わず、ただその肩に手を置いた。

その温もりが余計に胸を締めつけ、紅葉は嗚咽をこらえきれなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ