清少納言さんと則光くん
平安文学の最高峰のひとつとされる随筆
「枕草子」の著者、清少納言と
その夫、橘則光。
二人が夫婦になる前、
初めて出会ったばかりの頃の若い二人に会って、
話を聞いてきました。
(彼女は「清少納言」という名前で知られていますが、これは「女房名」といって、宮中などで使う通称なのだそうです。
彼女の本名は分からないので、2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」にならって、「ききょう」という名前をつけておきました。)
なお、この作品に登場する清少納言と橘則光は、作者の創作です。
時代考証などもでたらめなので、ご了承ください。
第一部
私が橘則光ですが、私に何の御用でしょうか?
え? 周防守清原元輔どのの娘ごのことを知ってるかって?
ききょうどののことですか?
それはまあ、知っておりますが、それが何か・・・?
え? ききょうとつき合ってるだろうって?
私がですか?
ちょっと待ってくださいよ。
知らないんですか? あの人はね、ききょうどのは、天才ですよ。
あの人と話すると、驚きますよ。
博学才穎というか、博覧強記というか、
とにかく、古今和漢の典籍ことごとく通ぜざるなしって感じで。
それだけじゃない。
頭の回転も早い。
一を聞いて十を知るって、あの人のことですよ。
私のような無学な者は、とても太刀打ちできません。
彼女と話してると、私もガキの頃にもっと勉強しておくべきだったってホントに思いますよ。
私にもう少し学があれば、あの人ともっと話ができる。
だから今からでも基礎から勉強して頑張ってるのに・・・。
うん?何です?
やっぱりお前は、ききょうのことが好きなんじゃないかって?
顔が赤くなってるぞ?
照れてないで正直に白状しろって?
え? あんな可愛げのない女のどこが良いんだって?
頭が良くて美人かもしれないが、
お高くとまって
人を小馬鹿にしてるじゃないか?
あんたね。そりゃ誤解ですよ。
確かに、あの人は一見、キツそうに見えるかもしれませんよ。
でもあれは、彼女の聡明さと真面目さの現れです。
あの人は、あの見た目で随分損してるんですよ。
みんな彼女のことを悪く言いますけどね、
私は彼女の味方ですよ。
第二部
私がききょうですが、私に御用ですか?
え? 橘則光を知ってるかって?
東宮さま(皇太子)にお仕えしている則光どののことですか?
それは、知ってますが・・・。
則光どのと付き合ってるだろうって?
付き合ってるというか、
則光どのが、和歌や学問を教えてくれって言ってくるから、教えてあげることはありますが・・・。
え? あんな脳筋のどこが良いんだって?
脳筋って、脳みそが筋肉でできてるってことですか?
それはまあ、有り体に言えば、
則光どのは、和歌や学問は、あまりお得意なほうではないかも知れませんよ。
彼が読む歌は、はっきり言って下手なほうかも知れませんよ。
でも、私のために一生懸命歌を読んでくれてるって、それは伝わりますからね。
私だって節穴ではないから、それぐらい分かります。
だいたい男の人って、何と言うか、
学問や古典の知識をひけらかして、
俺はこんなに学があるぜアピールして、
マウントを取ろうとするじゃないですか。
そんな付け焼き刃の知識を振り回して、
自分を実際より大きく見せようとしたって、
そんなのすぐに分かるんですよ!
その点、則光どのは素直で正直で、
そこが彼の良いところだと思います。
うん? 何です?
清少納言がアピールとかマウントとか
英語を使うなって?
それを言うなら、あなただってさっき、
「脳筋」って言葉を使ったじゃないですか。
平安時代に脳筋なんて言葉を使わないでください!
(そんなくだらないツッコミを入れても
しょうがないと思ったから、
さっきはスルーしてあげたんですよ!
ていうか私はまだ、「清少納言」って名前をつけてもいないし。)
え? 何です?
則光みたいな脳筋が、学問したいなんて殊勝なこと言うわけない?
私の気を引こうっていう
下心が見え見えじゃないかって?
本当は私の体が目当てなだけだ?
あんな男にだまされるなって?
なんてこと言うんです!
彼をこれ以上悪く言うのは許しませんよ!
帰ってください!!
二人を怒らせてしまったので、これ以上話を聞けませんでした…。