墓場
「『これは…どういうことですか…!?』」
「『どうもこうも、これは運営委員会で決定したことです。あなたのチーム、レンペルの利用方針が、そこに書いてあります。』」
F1グランプリ、企画会議。
優次は手渡された書類に目を通すと、両手をわなつかせた。
その内容とは、以下のとおりである。
・チームレンペル参戦初年度のドライバーは、松田裕毅とする。
・二年目以降は、F1において前年度の成績が最下位の者をチームレンペルへ移籍させる。
・チームレンペルにて一定以上の働きを見せなかったドライバーは、即時F1から撤退させる。
・松田裕毅は、初年度のポイントランキングにおいて周冠英またはルイス・ウィルソンを上回れなかった場合、即時F1から撤退させる。
・また、松田裕毅が周冠英を上回る成績を残した場合、松田裕毅がトヨタに昇格し次年度のチームレンペルは周冠英がドライブする。
チームレンペルは『ドライバーの育成のため』創設された。
今の今まで、優次もそう信じていた。
だが、この書類を見る限り…。
「『僕のチームを、ドライバーの墓場にするつもりですか…!?』」
使えなくなったドライバーを切り捨てるため、最後にワンクッション挟むための墓場。
「『近年、伏見瀬名や周冠英をはじめとしたアジア人ドライバーが台頭してきています。彼らの活躍に便乗して、生半可な実力のアジア人がF1に次々と参戦してくる事態になりかねない。』」
運営委員会の結論はこうだった。
「『F1の品位、品格を保つため松田裕毅には、そうした夢見るアジア人へ失敗例を示してもらいます。』」
モータースポーツは本来、ヨーロッパの白人社会で生まれたものである。
今でもその根底には、黒人やアジア人差別が渦巻いている。
言葉を選ばずに言うのなら、運営側は『F1に黄色人種は2人もいらない』と考えているだろう。
優次はなんとも言えない怒りがこみあげてくるのを感じた。
裕毅と周を争わせ、どちらかを追放しようだなんて。
しかし、ここで歯向かってしまえばチームの参戦自体を取り消されてしまうかもしれない。
可愛い甥の顔を思い浮かべると、立ち尽くすことしか出来なかった。
裕毅、すまない。
何も知らない、ここにはいない甥に、歯を食いしばりながら頭を下げた。
「『ルイスさんルイスさん!何作ってるんですか?』」
キッチンに立つルイスさんに話しかける。
だんだんみなさんと過ごすことにも慣れてきて、楽しく会話をすることができるようになってきた。
…とは言っても愉快な人たちばかりだから、最初からあんまり気は使ってなかったかもしれない。
ルイスさんの手元を覗き込む。
あれっ?
これって…
「『これはな、前に瀬名が教えてくれた料理だ。周も絶賛だったんだぞ?そうだよな、周?』」
リビングにいるグァンちゃんに大声で問いかけるルイスさん。
「『…まあ確かに美味かった。』」
ルイスさんが作っていたのはタケノコの炒め物だった。
ごまと醤油の匂いが最高だ。
それを見届けると、ボクは人口密度の高いリビングの方へ走っていく。
「『そちらは何をしてるんですかー!』」
リビングではジャンニさん、グァンちゃん、カレルさんがノートパソコンの画面をのぞき込んでいる。
3人で1つの画面を見てるわけだから、それはもうぎゅうぎゅう詰めになっている。
両サイドから挟むフェラーリのお二人、そして真ん中で押しつぶされそうになっているグァンちゃん。
なんだかちょっとかわいいと思ってしまった。
「『…これは去年の最終戦、瀬名のオンボード映像だ。』」
「『いやぁ~、速いなぁ…あ、そうそう。この直後に確か…』」
直後に何があるというのか、グァンちゃんは立ち上がろうとする。
その場から逃げようとするが、ジャンニさんとカレルさんに腰をがっちり掴まれて逃がしてもらえない。
「『裕毅も見ておけ、これがチームプレーのお手本だよ』」
ボクもリアルタイムで映像を見ていた。
そして、このシーンは目に焼き付いている。
後方から追いかけてくる瀬名さんを勝たせるため、グァンちゃんがルイスさんの足止めをしていたシーンだ。
「『うわぁぁぁオレはもうこのシーン見たくねえぇぇぇ』」
グァンちゃん、なんでそこまで瀬名さんに協力したことが嫌になってるの?
ボクちょっと悲しいよ?
…ハッ!
これ、ツンデレってやつでは!?
『『周冠英の素晴らしいチームプレイ!伏見瀬名が追い付きました!!!』』
実況さんの声がこだまする。
「『うわぁぁぁぁオレはそんなんじゃねぇぇぇぇ』」
瀬名さんは万物を愛し、万物に愛される。
やっぱり凄い人なんだな、と再確認。
フェラーリのお二人に腰をがっちり固定され、逃げようと顔を真っ赤にしてもがくグァンちゃん。
でも彼も、瀬名さんの魔力に魅了された人の一人なんだろう。
いわば、ボクの…ボクたちの同志だ。
…グァンちゃん、シーズンが始まったら一緒に頑張ろうね!




