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後継者

空気が張り詰める。

耳に入ってくるのは濁流のような脈動の音。


息と唾を飲み、指先に神経を集中する。


これで…全てが決まる。

汗が一粒落ちる。

次の一手で、終わらせるんだ…!


「『裕毅、ウノって言ってねえぞ』」


えっ。

…あっ!

そうじゃん!!!


「『はい、カード二枚引いてねー』」


ボクたちはルイスさんを待つ間、4人でUNOをして遊んでいた。

世の学生さんたちは修学旅行なんかでこうして遊ぶらしい。


ボクはモータースポーツをするために、義務教育以降学校には通っていない。

だから、こうして友達と頭を突き合わせて遊ぶことがすごく新鮮なのだ。


「『…ルイス遅いねぇ』」


「『もうすぐ来るだろ。…ほらな』」


グァンちゃんの声に合わせるかのように、玄関から物音がしだした。


「『すまんすまん、色々探し回ってたら思ったよりも遅くなってな…』」


外は夕陽で紅く染まりだしている。


「『おかえりなさいルイスさん、お邪魔してます』」


「『お!裕毅くんウェルカム!ごめんな、人いっぱい居てびっくりしただろ』」


まぁ、それは確かに。

最初は何事かと思いましたけど。


「『今シーズンのオフはこのメンツで過ごそうと思うんだ。ウチなら大人数でも窮屈じゃないだろう?』」


サラッと豪邸自慢をするルイスさん。

でも不快じゃないです。


「『ハイ!ルイス先生、部屋割りはどうしますか!』」


ジャンニさんが挙手。

腕がめっちゃ真っすぐ上に挙がっている。


ルイスさんの家はとても広く、1人1部屋使えるだけの部屋数はある。

だがルイスさんは多趣味だそうで、ほとんどの部屋は物が沢山置いてあって生活には適さないのだとか。


音楽器材が並んだ場所や筋トレのジムで寝るのは、流石に身体に良くなさそう。


「『そうだな…今使える部屋は2つあるから、2:3に分かれることになる。』」


それを聞くと、ジャンニさんは迷いなく。


「『じゃあぼく、裕毅と一緒がいいな!』」


なんと。

ちょっとだけ、ときめいちゃいました。


「『じゃあ、裕毅さえ良ければその2人で部屋を使うといい。』」


「『いやもうボクは全く問題ありません。身に余る僥倖です』」


ジャンニさんに『よろしくお願いします』とあいさつをしようとすると。


「『どうする?一緒に寝る?』」


添い寝ですか!?!?


「『キングサイズのベッド、あるぞ?』」


ルイスさんもマジで言ってるんですか!?!?







拝啓叔父さんへ。

F1ドライバーの人たちは何から何まで規格外です。


もう今日だけで色んなことがありすぎてわけわかんないです。

でも、叔父さんの提案を受けて良かったと思います。


いきなり開幕直前に日本を出たら、頭がおかしくなってレースどころじゃなかったと思います。


そう考えると瀬名さんはやっぱり凄いんだなって。


何はともあれ、愉快な1年になりそうです。

だって、周りの人がみんな愉快なんだもの。


ルイスさんは申し訳ないくらいに世話を焼いてくれるし。

グァンちゃんは最初は怖かったけど、芯は優しい人だし。

カレルさんは口数少ないけどすごく気が回るし、何より面白いし。

ジャンニさんは…なんていうの?すごく愉快。あとイケメン。


彼はルイスさん以上にボクのことを気にかけてくれていると思います。

というか、ボクを笑わせようとしてくれているのかな。


なんでかは分からない。

分からないけど、裏がある人のようには思えません。


そして、ボクがここまで気にかけてもらえるのは叔父さん、そして瀬名さんのおかげだと思います。

お二人には感謝してもしきれません。


瀬名さんが、今ボクが一緒に暮らしている4人と交流を深めていなかったら、こうはなっていなかったと思います。

瀬名さんの人柄が彼らの魅力を引き出して、結果ボクにも優しくしてもらえている。

そう考えています。


グァンちゃんも最初はトゲトゲした人だったと聞いているけど、次第に角が削り取られて。

今ではかわいいあだ名で呼ばれるようになってます。


まぁ、つけたのボクなんですけど。


とにかく、ボクは今とても幸せです。

こんな幸せが、シーズンが始まっても。


ゆくゆくは、ボクが引退するような歳になるまで続けばいいなと思います。


「『裕毅。』」


「『はい?なんですか?』」


頭の後ろで腕を組んで横になっていたジャンニさんが、話しかけてきた。


「『キミの師匠は…とても偉大な人だった。』」


「『…はい。それは一番、理解しているつもりです。』」


全世界のモータースポーツファンが、伏見瀬名の現役続行を望んだ。


「『もはや彼に注がれていた期待は、全てキミに鞍替えされたと思っていい。』」


そう。

ボクは、『光速の貴公子』の後継者なんだ。


「『辛いことがあったら、ぼくたちにいつでも相談するんだ。絶対に抱え込まないこと。いいね?』」


昼間のおちゃらけた雰囲気とは違うジャンニさんのその言葉に、ボクは静かに頷いた。


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― 新着の感想 ―
たしかに裕毅くんがこんなふうに温かく迎え入れてもらえたのも、瀬名くんが土壌をつくってくれていたからだと思います(*'ω'*) 瀬名くんの後継者として期待をもたれるのは当然だと思うけど、できればあまりプ…
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