大団円
「『裕毅~!今日は何番手獲っちゃったの~???』」
「『2位です!いえ~い☆』」
アブダビグランプリ、レース後。
マイクを向ける仕草をするジャンニさん、それによくわからないテンションで応えるボク。
1位はルイスさんに取られちゃって、初優勝はお預け。
でも、自己最高位を更新した。
表彰台に向かう。
シャンパンを飲むのは二回目だ。
今日の3位はグァンちゃん。
目の前でシャンパンの噴水を見せてくれた。
「『思ったよりも瓶は頑丈だから、思いっきり叩きつけていいぞ』」
やり方も教えてくれた。
二本の噴水、その後ろでミスト状のしぶきをあげるルイスさん。
太陽が落ちたアブダビ、でも辺りには虹がかかる。
煌びやかな照明と万雷の拍手の中、ボクたちは心ゆくまで暴れ回った。
「『ルイスさんたちはこれからどうするんですか?』」
シーズンが終わった。
通年であれば、各ドライバーそれぞれの過ごし方があるはずだ。
「『あれ?聞いてないのか?』」
え?
何を???
「『俺たちは今から、東京に向かう。』」
「『裕毅、携帯見てみな。』」
ジャンニさんに促されて、スマホを開く。
そこには、一件のメッセージが表示されていた。
『運営完全協力!F1ドライバーeモータースポーツ大会!!!』
…なんじゃこりゃ!
そのままスクロールし、全文を読んでみる。
『シーズンを終えた世界最高峰ドライバーたちが集う、真冬の大運動会!』
『都内施設でシミュレーターを使用し、ゲーム大会を開催します!』
『持ち物は熱い気持ちのみ!おやつの価格制限なし!!!』
…面白そうだ。
そして、これを企画した人には心当たりがある。
『主催・実況:伏見瀬名』
やっぱりね。
でも瀬名さん、グッジョブ。
この冬はボクも退屈になりそうだったから。
「『てなわけで、今から空港に向かうぞ。荷物をまとめておけよ。』」
「『了解です!すぐに向かいます!』」
ボクは急いで支度をし、ルイスさんたちと共に飛行機に乗り込んだ。
『『全世界のモータースポーツファンの皆様、おはよう、あるいはこんにちは…もしくはこんばんは。今大会の主催を務めますF1運営委員会委員長、伏見瀬名です。』』
1月11日。
東京都内某所。
『『全世界生配信でお届けしておりますが…配信開始が遅れまして申し訳ありません。えー、招待メールにおやつの価格無制限と書いたところ、本当に大量のおやつを持参したドライバーが何人か居まして…それの対応に奔走しておりました。』』
「『視聴者プレゼントにしたらいいんじゃない?』」
『『張本人のジャンニさんはちょっと黙っててください』』
マイクを握るのは車椅子に座った、今では史上最高と名高い元F1ドライバー。
その周りには、今大会に参加するレーサーたちが立っている。
大量のお菓子が入った袋を抱えているのは、ジャンニ・カレル・裕毅の三人。
本人たちも、止めなかった周りの大人も、その状況を生み出してしまった瀬名も全員悪いと思う。
反省してほしい。
『『えー。私事ですが、先月第一子が生まれまして。妻に『早く帰ってこい』と圧をかけられているのでサクサクと進めていきますよ!』』
「『自分で企画したんでしょ』」
『『ぐうの音も出ませんが、遅れる原因を作ったジャンニさんにそれを言われるとグーが出てしまうかもしれないので気を付けてくださーい』』
片手にマイクを、もう片手に拳を握り、瀬名は会場説明に移る。
『『今回は都内の体育館をお借りして、会場を設営させていただきました。ゲームソフト、モニター、筐体をそれぞれ20台…全員分用意してあります。』』
瀬名は会場の設営にかなり時間をかけたようだ。
体育館床や壁は黒いカーペットで覆われ、重厚感のある雰囲気を醸し出している。
『『さて、それでは始めてまいりましょう!』』
その声に、各ドライバーは自分の名前が刻まれたコックピットへ着席する。
『『リアルで最速のドライバーが、ゲームでも最速とは限りません。また、その逆もしかりです。』』
そう。
この物語は、ただのゲーマー少年がリアルレースに興味を持って一流にまで昇り詰め、数多の運命と共に戦ってきた物語。
その過程で自らを慕う弟子を取り、またその弟子も成長していく。
『『絶対王者と呼ばれた者、天才と呼ばれた者、名もなき者だって沢山います。』』
三人の天才たちが織り成す系譜。
そして、その三人を繋いできたモノ。
会場を実況しながら、車椅子で縦横無尽に駆け巡る。
その最中、瀬名の目には一つの紅いモノが映った。
裕毅のコックピットのすぐ横に置かれたその紅いモノには、この数年間における戦いの歴史が詰まっている。
『『さあ、赤いランプが灯っていきます!』』
一列、また一列と。
始まりを意味する赤いランプ。
だが画面越しのこのランプは、1つの物語…そのピリオドになる存在になる。
凪いでいたモータースポーツ界に起こった、1つの波紋。
その波が、次第に収まっていくのが分かる。
また水面は凪ぎ、次の一滴を待つ。
『『今、ブラックアウトーッ!!!』』
新時代が、始まったのだ。
光速の貴公子外伝『裕度ヲ以テ沈毅トス』・完




