関係者?
「『…来たか。』」
「『遅かったねぇ瀬名。』」
「『お前、このままお開きになってたらどうするつもりだったんだ?』」
ドライバーたちが口々に瀬名さんへ言葉を浴びせる。
えっ?みんな知ってたの?
瀬名さんが来る事を?
「『タクマくん、ご苦労様。代わるよ』」
ルイスさんが琢磨さんから車椅子の押し手を代わる。
「『あとは頼みます。オレは本当に部外者なので離席させてもらいますから』」
そう言って琢磨さんは部屋を後にした。
ルイスさんが車椅子を押し、瀬名さんをテーブルの方へに移動させる。
だが、そこに司会の人が待ったをかけた。
『『伏見瀬名さん。貴方は既に現役のドライバーではない…この場所は関係者以外立ち入り禁止ですので速やかにご退室いただきたいのですが。』』
その声は冷たく、高圧的だった。
そうですよ。
なぜ、ここに来てしまったんですか…?
瀬名さん、これはあなたの今後の評価にも関わる一大事だと思うんですけど…?
「『確かに、あなたの言う通り。ここに出席できるのは現役のドライバーだけです。だが、同時に『委員会』の人間も出席できるはず。』」
瀬名さんは抱えていた鞄から書類を取り出し、机に叩きつけた。
「『事の顛末を、お話ししましょうか。』」
「瀬名くん、急な呼び出し申し訳ない。」
「いえいえ。裕毅の応援ついでですから。」
4月12日。
日本、三重県鈴鹿市。
「悪いんだが、瀬名。これは『ついで』で済む案件じゃなさそうなんだ。」
瀬名は優次と可偉斗に呼び出され、ピット裏に来ていた。
「詳しくはこの書類に全て書いてある。目を通すのは時間が空いたときでいい。」
優次から渡された書類を、瀬名はパラパラとめくってみる。
「…なにやら問題がありそうですね」
その文面をチラ見しただけでも、明らかな違和感があった。
「その件に関して、キミに協力をお願いしたい。…というか、キミにしか頼めないんだ。」
瀬名に断る選択肢はなかった。
優次に受けた恩は、いつか返さねばと思っていた。
そして何より、在りし日の憧れに頼まれて拒否するほど、瀬名のこの界隈や優次への熱は冷めていなかった。
「もちろん、お受けしましょう。」
瀬名ははっきりと口にする。
「この状況を打破する策が、1つだけある。」
「分かってます、可偉斗さん。」
「ルイスと周に協力を要請します。」
『グァンちゃんはいつだって、親身になって話を聞いてくれたんだよ…!』
裕毅の声が壁越しに聞こえてくる。
「『なあ、周。』」
「『なんだ。』」
瀬名と周はその場を後にし、廊下を進む。
「『まずは…『ありがとう』かな?』」
「『なんだ今更気持ちのわりぃ…』」
裕毅に目をかけてくれて。
そして、我々の計画に協力してくれて。
「『お前への借りは二つどころじゃねぇみたいだな。』」
「『気づいてんならさっさと返すことだな。利子はたっぷり貰うぞ』」
「『ああ、返すさ。この計画はお前も助けることになるんだぜ』」
周は舌打ちし、苦笑い。
「『まぁ、文句を言うやつは居ねえさ。少なくともドライバー側としてはな。』」
「『そう上手くいくといいがね』」
「『ルイスやジャンニ、カレルを味方につけた時点で勝ち確みたいなモンだろ。『表のF1界』はアイツらが仕切ってるんだからよ』」
瀬名はそのラインナップに周自身の名前を挙げなかったことに驚いた。
コイツにも謙虚さってものがあったのだなと。
まあそれは冗談として。
「『俺が今から行くのは『裏のF1界』だ。』」
「『魔界に行くのか。死なんようにな』」
コイツのジョークも中々笑えるようになってきた。
「『運営委員長選挙が先日行われたのはご存知ですか?』」
『『?。はい。私も委員ですからね』』
瀬名さんが司会の委員さんと会話をしている。
「『大きな世代交代などがない限りは、現職が再選することが通例となっている。これは、全体票率の60%を占めるドライバー票が現職に集まるからなんです。』」
ボクは育成枠ということで、初年度の投票権はなかった。
そんなことがあるんだなぁ…くらいに考えていたが…。
「『ドライバーの皆さんは、こう言っちゃ悪いですが運営側に関する知識・関心があまり高くない。そりゃレースが大変ですから、そこは悪い事ではないのです。だからこそ信頼のある現職に投票するケースが高くなるわけですが…』」
瀬名さんはピンと人差し指を立て、司会さんに問いかける。
「『もし、ドライバーたち全員が結託。もしくは『絶対にこの人にF1界を任せたい』と思えるような人が出てきた場合、どうなると思いますか?』」
そりゃあもちろん、60%の票率を持ったドライバーたちが投票した人になる…。
…。
えっ。
ちょっと待って。
「『今年度のドライバー票は、19名全てのドライバーがある1人に投票しました。…満票ということになります。』」
もしかして。
「『そう。俺が…いえ。』」
もしかすると…!
「『私が、次期運営委員長・伏見瀬名です。』」




