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「裕毅、この2人は来年度からトヨタF1で戦う。裕毅が入るチームレンペルの、姉妹チームだ。」
ルイス・ウィルソンさんと周冠英さん。
2人とも既にF1のトップランカーとして戦っている、超一流ドライバーだ。
「『良いジャケットだね。どこのブランド?』」
「『アッ…中学の制服です…身長が伸びないので入るんです…』」
さっきからやたら距離が近いルイスさん。
指輪やピアス、アクセサリーを沢山つけてるけど、ゴテゴテしてたり嫌な感じはしない。
上品な風格がある。
一方で。
「『グァンちゃん…グァンちゃんねぇ…』」
うわごとのようにぶつぶつと呟き続けるグァンちゃん。
なにかを傷つけてしまったかもしれない。
申し訳ない。
「『さ、顔合わせも済んだことだ。今日は楽しくパーティーといこうじゃないか』」
ルイスさんはボクの手を取り立ち上がる。
「『裕毅くん、お酒は飲める?』」
「『いや~、ちょっと苦手で…』」
ボクが断ると、気まずい空気になるかと思ったが。
「『そう思って。…カレル!』」
「『…呼んだか?』」
「うわぁ!?」
背後から声がしたと思ったら、マスクをした男性が立っていた。
そしてなにやら、ボクに紙パックの飲み物を手渡してくる。
「『…私の地元、スペインのオレンジジュースだ。美味いぞ。…では。』」
そう言って、その場から消えた。
忍者ってスペインにもいるんだな…。
「『…ほら、グラスだ。』」
「『あ、ありがとうございますグァンちゃん。』」
「『フゥ…もうそれでいいよ…。』」
憔悴した様子のグァンちゃん。
なんだかんだ優しい人みたいで良かった。
「『ルイスさんもグァンちゃんも、瀬名さんと話さなくていいんですか?貴重な時間ですよ?』」
「『彼とは昨日話してね。『俺のことより弟子を頼む』と言われたもんで。』」
瀬名さん…!
「『アイツ、この頃嫁との惚気しか話さねえから嫌気が差してんだ』」
瀬名さん…?
「『彼はもう、自分が注目されたりちやほやされることには飽き飽きしてるんだと思うよ。』」
「『『光速の貴公子』だなんて大層な二つ名を付けられて、もう走ることもできないのに話題に上がり続ける。オレだったら絶対にイヤだね』」
そうか。
ボクは自分のことで必死だったけれど、瀬名さんは思ったよりも遠い所にいたみたいだ。
彼に対する憧れが、また一段大きくなった気がした。
「『裕毅くん、注目度の話ではキミも例外ではないぞ。』」
はい。
…え?
「『なんせ、あの瀬名の一番弟子だからね。そりゃあ結果も求められるさ。』」
「『初年度でのワールドチャンピオンって偉業を成し遂げたヤツの教えを受けた男がどんなもんか、世界中のファンが来年を待ちわびてる。』」
じわじわと動悸が上がってくる。
えっ、ボクそんなアレなんですか?
注目株なんですか?
育成枠ですよ?
これボクも初年度チャンピオン狙わないといけないヤツですか?
涙目になっていると、ルイスさんに頭を撫でられた。
「『ごめんごめん、また怖がらせちゃったかな。F1は楽しいことも沢山あるから、安心しなよ。』」
「『…どうだかな?』」
「『周!コラ!』」
もうどっちが真実を語ってるのか分かんないです!
助けて!
震える手でグラスを手に取り、ジュースを一口飲む。
…美味しい。
さっきのカレルさん?って人も誰なんだ…。
もう分かんないことだらけ、シーズンが始まったらちゃんと情報を処理できるのだろうか。
「『そうだ。恐らくもう一人、キミに話しかけてくる人がいると思う。瀬名とも仲良くしていたよ』」
「『そうそう、陽気でつかみどころがない、あとやたら顔が良くて腹が立つ。』」
属性が多すぎるでしょ。
これ以上頭に何かを詰め込もうとするとオーバーヒートします。
マシンのエンジンは毎分15000回転まで許容するけど、ボクの頭はそこまで頑丈じゃないんですよ!!!
多分あれでしょ?
瀬名さんが一世一代の大ボケをしたときにヤジを飛ばしてた人でしょ?
仲良くはできると思うけど!
けどね!ボクの頭の処理能力がついていかないのよ!!!
多分このままだとルイスさんに『グァンちゃん』って話しかけちゃうから!
…そうだ、メモ、取ろう。
ボクは駅に貼ってある広告のノリで、懐からメモを取り出した。




