青春
いよいよ本格的にルイスさんのおうちが賑やかになってきた。
ボクたち以外の十数人のF1ドライバーが、広い家の中で思い思いの会話をしている。
「『ナイトプールいえーーーい!!!』」
…一部、家の外にいる人もいる。
結局プールに引きずり込まれた彼も、吹っ切れて一緒に遊んでいるようだ。
…たくましいなぁ。
ボクはルイスさんと一緒に配膳をしながら、そんなみんなを眺める。
「『裕毅くん、皆の方に混ざりたかったら遊んできてもいいぞ?』」
ナイフフォークを並べていたルイスさんが、そう話しかけてくる。
「『いや、ボクはどちらかというと見ている方が楽しいですから!』」
キッチンから皿をたくさん持っていく。
「『裕毅、半分持つぜ』」
ボクが重そうにしていると、グァンちゃんがこちらに気づいて皿を持ってくれる。
なんだかんだ優しいんだよなぁ。
準備に参加している人が、2人から3人へと増えた。
その様子を見ていた窓の外。
ジャンニさんとカレルさんもこちらへ近寄ってくるが…。
「『バカバカバカ、身体拭いてから上がれ!!!』」
ルイスさんの焦った声、初めて聞いたかも。
そりゃそうだよな、水をビタビタ垂らしながら家の中入っちゃだめだよな。
その騒ぎを聞きつけて、他のドライバーたちもなんだなんだと集まってくる。
タオルを持ってくる者、そのタオルでジャンニさんの頭をワシワシする者、ボクたちに気づいて配膳を手伝ってくれる者。
ここには面白い仲間たちがいっぱいいる。
ああ、なんだか楽しいな。
思えばボクは、幼い頃からモータースポーツ漬けでいわゆる『青春』なんてしてこなかった。
でもボクは、今。最高に青春していると感じている。
学生生活だけが青春じゃないんだ。
そのタイミングがいつであれ、かけがえのない楽しい時間が人生を青く彩ってくれるんだ。
来年以降もこんな楽しい時間が続けばいいのにと思う。
いや、きっと続くはずだ。
「チームレンペルに関する制約の内容は、大体目を通しました。ありゃヒドいです」
「キミも、そう思うか。」
誰だって思うだろう。
コツコツと靴の音が辺りにこだましている。
「まずは11月までの段取りを考えましょう。ルイスと周の協力があれば大丈夫だとは思いますが、万が一の時に備えて可偉斗さんにも手回しを依頼してあります。」
「…凄いな。キミがそこまで出来る男だとは、失礼ながら思ってなかったよ」
心外だ。
誰だって必死になる時くらいあるでしょうよ。
「ただ、俺や可偉斗さんがいくら頑張ったところで委員会の世論を動かせなければ意味がありません。」
「本人の結果も必要…というわけか。」
そうだな…でもあのマシンの様子じゃかなり厳しそうではあるんだよな。
「最低でも、表彰台には立っておきたい。3位以内です。」
それに付け加えるのなら…。
「注目度の高い大会で、3位以内を獲れれば更に良いと思います。」
そう、例えば…。
「モナコグランプリ、とか?」
「まさにそれですね。世界三大レースでの表彰台なら、かなり評価にも響くでしょう。」
まあ、これはできればの話だ。
どのグランプリであれ、3位以内を獲れれば注目度も増す。
連中も計画を隠し通すことは困難になるだろう。
「今頃裕毅は、ルイスのホームパーティーですか。」
「ああ、そのくらいの時期だね。」
あれは楽しかったな。
そう、楽しかったんだ。
アイツも楽しくやってるはずだ。
その気持ちは、その気持ちだけは失ってほしくない。
「全力を尽くしましょう。」
「ああ、勿論だよ」
絶対にだ。
裕毅から、青春を奪わせたりはしない。
「『裕毅~、なんか一発ギャグやってよ~。』」
「『歌でもいいぞ~』」
もう大変です。
全員酔っぱらってるもんだから歯止めがききません。
ルイスさんも止めてくれるかと思ったらニコニコしながら見てるだけです。
この人も楽しんでるでしょ。
グァンちゃん、せめてグァンちゃん助けて。
「倒转前滚翻」
グァンちゃーーーん!!!!!
酔っぱらってそんなことしたら吐くよーーー!!!
おもむろに席から立ち上がり、超綺麗なフォームの倒立前転をしだすグァンちゃん。
ジャンニさんが呼吸困難になるまで笑ってます。
文字通り腹抱えて笑ってます。
その赤面は、酒によるものか。
それとも、何か別の要因でのものなのか。
言うてる場合かやかましいわ!!!
あっヤバい、ジャンニさん息止まってる止まってる!!!
吸って!!!息吸って!!!
…なんかアレだな。
上品な立食パーティー的なものかと思ったら違うな。
コレ、本格的に修学旅行だな。
ただし引率のルイス先生は放任主義だから、生徒たちの暴走が止まりません。
いっそのことボクも酔っぱらっちゃおうかしら。
甘い缶チューハイでも買ってこようかしら。
でも、このカオスを俯瞰からシラフで見届けるのも楽しいと思ってしまっている自分がいる。
この家の周り、森でよかった。
市街地だったら流石に苦情が入ります。
バカ騒ぎに次ぐバカ騒ぎ、本当の意味で死ぬほど楽しい時間は過ぎていく。
次第に、夜は更けていった。