結婚式
瀬名と亜紀の結婚式に招待された裕毅。
そこでとある人物と出会うことになる…。
『それでは、新郎新婦の入場です』
琢磨さんのその声が聞こえたと思ったら、会場の入り口の扉が『バン!!!』と音がする勢いで開いた。
「「はいどーもーーー!!!」」
『待て待て待て待て待て待て』
漫才コンビみたいな登場の仕方をする2人。
会場はあっけに取られて思ったほどウケてない。
多分このボケを企画したのは、ボクの自慢のお師匠さんだろう。
奥さんもノリがいいからやっちゃうんだ、こういうこと。
歯止め役の琢磨さんがちゃんと噛まないとこういうことになるんだ。
瀬名さん、『俺、やりたいことあるから。この瞬間だけは命削って自分の脚で歩いて見せる』って言ってたのはこれやるためですか。
ボクの感動を返してください。
『瀬名、あとでお説教な』
「なんでだよ!一世一代の大ボケだぞ、笑えよ」
『場をわきまえろや』
あれ、奥さんとコンビなのかと思ったら琢磨さんと漫才始めるの?
琢磨さんはマイクを持ったまま、疾風のように登場してきた瀬名さんと喋っている。
「『大丈夫!面白かったよ瀬名!!!』」
『急に英語で喋らないでくださいジャンニさん!!!聞き取れない!!!』
「『なんて???』」
なんていうか…司会って大変ね。
その後はなんとか琢磨さんが神父さんに引継ぎ、式を何とか成立させようと必死だった。
司会に選ばれなくてよかった、ホントに。
机に置かれた白ワインを一口飲んでみる。
…何が美味しいのかわからない。
去年の10月、ボクはハタチになった。
興味本位でお酒は飲んでみたけど、なんかよくわかんない。
渋くて苦いだけじゃないのこれ。
まだ子供舌なんだろーなー。
早くカッコいい大人になりたいわ。
そんなことを考えていると、後ろから聞きなじみのある声がする。
「裕毅、ちょっといいか」
「あ、叔父さん。どうしたの…ヒッ」
身体を声がした方に向けると、確かに叔父の姿が。
だけど、その後ろにいたのは。
「その人たちだれぇ…?どう見ても2人ともカタギじゃないでしょぉ…」
もうなんかすっごい目つきが悪いの。
マフィア?海外マフィア?
一人は浅黒い肌で、ドレッドヘアーを後ろで結んでる。
首が太くて筋肉質だけど、全体的にはスマートな体系。
もう一人はアジア系の人。
多分中国人だと思う。
髪を七三で分けて、ワックスでチリチリにしてる。
何?いつの間にか叔父さんそういう人たちとつるんでるの?
脅されてたりしないよね?
「こら!失礼なこと言わないの!これから裕毅もお世話になる人たちだぞ」
え、お世話にってボクもマフィアに?
なんで?
コンクリで固められて海に沈められるの?
「裕毅、英語は勉強してるよな?」
「う、うん。一応喋れるようにはなったよ」
ハッ。
喋れないって言っておいた方がよかったかな!?
「『かなり勘違いしちゃって怖がってるけど…自己紹介お願いします』」
叔父さんのその声を聞くと、マフィアの片方が口を開いた。
「『初めまして裕毅くん、ルイス・ウィルソンだ。俺、初見の人には毎回怖がられるの。慣れてるから大丈夫だよ』」
…ルイス?
瀬名さんとチャンピオン争いしてた、あのルイスさん?
確かに顔を見たことはなかったけど…。
ルイスさんはボクを睨みつけるような表情を柔らかく崩すと、手を差し出してきた。
ルイスさんと握手しながら、もう一人のマフィア(じゃないかも)に目線を移動させる。
もしかしたらこっちの人も優しいお兄さんかもしれないし…。
「『こんにちは…?』」
「『…。』」
一切喋らないんですけど。
一直線にボクの顔を睨みつけてくるんですけど。
「『…瀬名の弟子ってのは、アンタか?』」
確実に優しい人の声色じゃないよねぇ!?
「『ごめんね裕毅くん、彼は瀬名と仲が悪かったんだ。』」
「『えっ、じゃあなんで結婚式に呼ばれてるんですか』」
「『なー。不思議だよなー。』」
「『…アイツが勝手に呼んだだけだァ』」
彼はばつが悪そうに横を向きながら、頭を掻きむしる。
あっ、せっかく髪の毛カッコよく決まってたのに…。
「『とにかく自己紹介くらいはしておけ、周。』」
「『チッ…ああ。周冠英だ』」
これ、仲良くできるのかな…。
周冠英さん…グァンイン…。
「『…グァンちゃん…』」
「『…は?』」
周さん改めグァンちゃんは、時間が止まったかのように固まっている。
一呼吸置いて、ルイスさんが爆笑し始めた。
「『ハハハッ!裕毅くん、キミサイコーだよ。』」
でしょ。
ニックネームつける才能はあるんです。ボク。
やっぱり仲良くなりたいときは、あだ名をつけ合うのがいいですよね。