09・悪夢の奴隷契約書
「お主が、このBARで働きますとの誓約書じゃ。まあ、勤務条件や待遇などはここに簡単に書いてあるから、お主の小さな脳みそでもわかるじゃろうて。それをよく理解して、お主がここにサインをしたら契約成立じゃ。まあ、かと言ってお主に他に選択肢はなかろうて、何せもうすでに三度も死んだのじゃから、、今更失うものなどなかろうて、、フォッ、」
「ああ爺さん、あのロンドンの腕利きスパイですら、、二度しか死んでねえ」
「オマエ、この申し出を断ったら、もはや人間、いや、魔族ではないぞ!?」若者がドスのきいた声を響かせて、キリキリと女を追い詰める。
確かに、自分は何度も負けた、そして死んだ、もはや失うものなどないもない、いや、生きて虜囚の辱めを受けるしかない敗北者でしかない、そんな自分に選択の余地など一切ないはずだ。弱肉強食のルールに従えば、もはや勝者の命令を甘んじて受け入れることは絶対のルールであろう。。。上級魔族の最後の誇りが、女をとうとう観念させた。
「分かった、もうよい、ここまでされたら、余は貴様らに敗北した事実を甘んじて受け入れよう。。。。カクテルを飲んで殺られた時、あの銀髪にボコボコにされた時、そして自ら敗北を受け入れ自死を選んだ時、、、、、確かにもう何度も余は死んでおる、、、、余にはもう望むべきものなどなにもない。。。もう好きにせよ!今更何を失おうものか、今更何に希望をもとうか、もう余の身も心も貴様らのものだ!煮るなり焼くなりどうにでも好きにするがよい!!!」
女は全てを諦めたように、契約書にサインをした。
「よく言った!オマエの言質を確かに確認した。ちなみにサインはVだ」
そしてすかさず、若者は雇用契約書の裏書に
「私は無銭飲食をした卑しい食い逃げ女です。カネが払えないので代わりにカラダで支払います。私は雇用者様の忠実なるしもべで奴隷でございます。ご主人様のお好きなように、煮るなり焼くなり一生私を好きにしてください。身も心も全身全霊を持って私のすべてを差し出し差し上げ、粉骨砕身徹底的に、ご主人様のお気に召すよう死ぬまでご奉仕します。」
とすかさず追記をした。
「き、貴様ああああ、、、、なんという卑怯なことを、、!!余は、そこまでわぁっ、、、、余をそこまでなぶって何が楽しいかあぁ、、、、!!!?」
「フンッ、ただでは殺さん。、、、、フッ」
若者はその美しい目に狂気を浮かべて、勝ち誇った目で女に一瞥を喰らわせる。
「フッ、これでもうオマエは絶対に逃げられない。。。。この契約は絶対だ!一生このBARで最下層のカースト、下僕、奴隷として、仕え、奉仕するのだ!命があっただけでもありがたいと思え!オマエ、楽に死ねると思うなよ、、、、」
「ああ、、、、最強の魔族、魔界のスーパーエリートの末路がこのざまか、、、いっそのこと最初のカクテルを飲んだとき、あのまま死んでおけばよかったか、、、。生きて虜囚の辱めを受けるこの先の人生、、、いや、魔生、、もう夢も希望もない、いや持たぬ。。。人間どもの傀儡となる魔世、それもありか、、、、」
「フォッ、フォッ、、、これで契約成立じゃな。。。。お主はもう今までのお主ではない。今日この時を持って生まれ変わるのじゃ!」
「フッ、もはや余の魔生に未来はない、煮るなり焼くなりどうとでも好きにするがよい。それで、余はこれから何をすればよいのじゃ」
「まずはこのBARに住み込みで働いてもらおう。BARスタッフとしての細かいイロハはダンディか彼女が教えてくれるじゃろうて。それをしっかりと学ぶがよい。」
「なにい?ジジィ、貴様、余に寝ぐらをくれると申すのか?」
「さよう、そして3食昼寝に、賄いもついておるぞ」
「ジジィ、、、、、き、貴様、、正気か!? まさか、、余はこのわずかな一瞬で、宿と食事を確保してしまったのか!!! まるで「極めつけの逆神」でも発動したかのような奇跡というしか、、、」
「オマエの悪運の強さには、呆れてものが言えん」
女から全てを奪った張本人が、投げやりに言い放つ。
「そしてこのBARにはな、色々な客が来る予定じゃ。その時、その客が真に欲している人生最高の一杯を出すのがバーテンダーとして腕の見せ所じゃ。」
「ふふん、そんなことか、なんともたわいもない。。。。」
「フッ、お主はまだまだ人生経験の浅い、ケツの青い小娘じゃ、じゃが、恐るべき才能を持っておるのも確かじゃ、、、その才能を存分に活かすのじゃ!そして世界に愛を!癒しを!さすればお主の真の願いが叶うことじゃろう、、、フォッ」
「よく分からんが、要はこのBARにくる客相手に、酒を作って飲ませればいいということだな。余にとってはたわいもないことよ。実につまらぬ」
「お主ならそういうであろうと思ったわ。そこで、ワシからのサプライズプレゼントじゃ!特別にお主のモチベーションを上げるボーナスポイントをやろう。
実はこのBARにはな、貴様らの宿敵とも言える人間界におけるVIPたちがくる予定なのじゃ。魔族にとって宿敵の最強の戦力たちがこのBARの常客じゃ!お主は、これらのVIPどもを自由に攻撃してもよい!
そもそもお主はこの世界の最高戦力たちを、抹殺暗殺しにきたのじゃろう!?手柄を挙げれば魔界に大手を振って帰れるどころか、勲章をもらえるかも知れぬぞ!」
「なっ、、、、なに!? ジジイ、貴様、正気か!?」
「御老公、さすがにそれはいくらなんでも、、、、そもそもこのBARは国家プロジェクトとして、我が国の優秀な戦力たちを日々の激しい戦闘や疲れから癒し、回復させ、再び再強化して戦地に復活させるための野戦病院のような重要なミッションを帯びていたはずでは、、、それをこのような魔族に知られてしまっては、しかもその戦力を自由に暗殺してもよいなど、全くもってありえませぬ、、、、、」若者が忠言を呈する。
「フッ、、、、なるほどな、、、それが人間界の強さの秘密か、、、道理で一度リタイアした強者がなんども戦場に復帰しては、さらに強くなって我々魔族をぶっ潰してくれた理由が分かったわ。。。。
なるほど、そうであれば、戦場で傷ついた弱った戦力どもが集まるこのBARで、余がその弱った連中にトドメを刺していけば、魔族の勝利は疑いようがない!まさに余にとっての天職ではないか!
どうやらこのBARにたどり着いたのは魔王様の思し召しであったようだな!余にもまだまだ運があるようだ!フッ、、ジジィ、今度という今度は完全に人選をミスりおったな!
余の力を舐めた貴様らには、これから死ぬほど後悔させてやるわ!よかろう、接客は余に任せておけ!
そして見せてもらおうか、人間界の最高戦力とやらの性能を!
ここに来るVIPもろとも、余が全て皆殺しにしてやるわ!あとで吠え面かくなよ!」
女が勝ち誇ったように高笑いした。
「先生、よいのですか?」
「ああ、構わねえ。一方的なゲームなんざ面白くもねえからな。嬢ちゃんにもフェアなルールで勝ってこそのBAR経営だ」
「先生がそこまでおっしゃるのなら」
「それにお前がいるじゃねえか、、、」
「せ、先生!!、、、私のことをそこまで、、、」
「貴様ら!なにをイチャイチャしておるのだ!もっと余をの方を見るのだ!崇めるのだ!千載一遇の最強の人材である余を!それに余のことを可愛いと言った責任を取るのだ!」
「ああ、期待しておるぞ、、、まあ、どこまでお主の思い通りになるかは見ものじゃがのう、、」
意味深な笑いを老人が浮かべている。
「フォッ、フォッ、、、今宵はめでたい、これで役者が揃ったのう!随分と長かったが、、、、ようやく明日から正式に開店じゃ!のう、ダンディよ!!」
「ああ、本当に長かったな、爺さん、、、、、ようやくイッツ・ア・ショータイムの始まりだぜ!」
耐え忍んだ男たちの挽歌のような、熱い思いが滲み出るかのような夜であった。