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06・最強の天敵現る

カラン、、カランカラン、、、、、


「先生、おはようございます」

身なりの整った上品な若者が、ドアを開けた。


「よお、」男が答えた。


「今日はもう店じまいだが」


「先生を、お一人にしておくわけにはいきませんから。」


「フッ、相変わらず律儀なヤツだ。。。」


「これは今日の収穫です」


「いつもすまねえな」


「いえ、当然のことですから」


若者は獲得してきた戦利品を、ずらりとカウンターの上に並べた。


「ほう、こいつは珍しい。。。」


「先生がお好きだと思いまして」


「こいつはいいことがあった時、記念日なんかに飲む酒だ」


「そうですね、、、私が先生と一緒に開けた時も、、、」


と言いかけて、若者はふと足元に目をやった。見ると何やら赤い塊がうずくまっている。


「何者だ、オマエ?」


ボロボロに泣き尽くした、惨めな女が顔を上げた。


「はっ、、、、この無礼者!貴様こそ何者だ!?余を誰と心得る?  我こそは魔族界最強のスーパーエリート、、、、、」


「はごおぅっっ、、、、、、!!!」


女が言い終わらないうちに、若者の膝蹴りが女の鳩尾を貫いた。


そして間髪入れずに、左右から鋭いエルボースマッシュが、女の両頬を交互からメッタ打ちにする。


「アッ、ぐ、が、、、フグゥッ、、、」


「トドメだ!!!」

若者が女の体を逆さまに持ち上げた。ガッチリと女の体をホールドし、そして軽くしなやかにジャンプした後に、重力に任せて落下する。そのまま、女の脳天は床底に叩きつけられ、女の体はくの字に折れ曲がったまま、そのままBARのオブジェと化している。


「あれは、あの技は、、、」


「知っているのか、影よ?」


どこからともなく現れた声に、爺さんが尋ねた。


「あれはこの世界のものではなく、異世界の格闘技でござる。ダンディー殿が以前いらした世界の殺人術の一つかと。」


「その名を、特殊必殺秘技パイルドライバー!!!つまり脳天杭打ち!相手の体を逆さに抱き抱え、そのまま勢いをつけて宙に飛び、両太ももで相手の頭をロックしたまま、頭部だけを地面に叩きつける荒技でござる。技を食らったものは、ジャンプの加速と自身の体重をモロにあび、首の骨から頭蓋骨までダメージは計り知れない、恐るべし殺人術でござる!」


「さすが影だ、よく知ってるな」


「お前も腕を上げたな。技の流れにキレが増してきているぜ。最後のキメまできちんとくの字に仕上げやがって」男が 若者に声をかけた。


「お褒めに預かり光栄です。ですがまだまだ先生の足元にも及びません」


「その調子で精進しな。ドラゴンへの道は果てしないからな」


「は、心にしかと留めておきます」


「ところで先生、コイツは一体なんですか?』


「そいつは新しいスタッフだ」


「えっ、、、、、、新しい女?、、、、先生、、、、私というものがありながら、、、」


若者は美しい銀髪を振るわせて、切長の美しい目に涙を浮かべながら、うつむいている。少し尖った耳が悲しそうにシュンと下がっている。その深い悲しみを必死に耐えようと唇を強く噛み締めている。


「私では、、、、先生をご満足させることはできないのでしょうか?」

若者は絶望の淵に沈む、異端者尋問の場にでも立たされたように、拳を強く握りしめながら、直立不動でその美しい顔を俯けながら、精一杯に声を振り絞っているようだった。


「しかも、どうして先生に仇なすような女を、、、、、この女は自ら魔族と名乗っているようですが、そういえば襲われたり、お怪我などはされていませんでしょうか?、、、そもそも、魔族と聞いた瞬間、つい反射的に成敗してしまいましたが、この見た目からして、真っ赤な出立ち、魔族の象徴である勇ましいツノ、鋭い爪、八重歯、尖った耳、切長の麗しい目つき、貴族のドレスか騎士の軍服のようなナイスなセンス、華やかで格好のいい膝上3センチ以上のショートスカート、もはや校則違反級の真紅のTバック、まあ、確かによく見ると可愛い顔をしていますが、、、、いや、そもそも魔族は我らの宿敵、発見次第即討伐対象です。それをどうして、、、、、」


若者は動揺のあまり、呂律が回らないのか、意味不明の言葉を並べている。


「そもそも、なぜ魔族が我々の秘密基地に侵入しているのですか!? この砂の吹雪に隠されたバブルの塔に住んでいる特殊能力者でもない限り、この難攻不落の鉄壁の要塞の、ダンジョンの最深央に辿り着くことなど、誰もできないはずです!


この国家プロジェクトは魔族に知られてはいけない人間界の最重要機密事項、このプロジェクトの可否次第で、魔族との戦争が左右されてしまうほどのものではないですか、だからこそ魔族の偵察や侵入を防ぎ、秘密裏にプロジェクトを進めるために、このBARを創ったのではないですか。


そもそも私のかけた防御魔法を抜けるだけでなく、先生の特殊魔法、シークレットキーを解除しない限り、ここには侵入できないどころか、ここにいることすらできないはず、、、、」


「なのに、、、どうして、先生はこんな魔族を、、、ポンコツ女を、、発見次第即討伐どころか、、、ましてやお側に置こうだなんて、、、、信じられません、、、、私と、、、私というものがありながら!!!オオッーーーなんというアンビリーバボーでしょう」


「ウ、うーん、、、」

オブジェの女が息を吹き返したようだった。


「 キサマ!まだ死んでいないのか!今度こそミンチにして鯉の餌にしてやる!」


「やめるのじゃ!」


「御老公」


「しかし、このものは魔族です。我々の宿敵は、発見次第即討伐でしょう?」


「いや、確かに原則はそうじゃが、今回はちと事情が違ってのう、、、」


「複雑な事情があってな、、、まあ話すと長くなるのじゃが、、、このBARに隠された秘密はお前も知っておろう。しかし実はさらに大きな目的がその先にあるのじゃ、このことは我が国でも一部の上層部しか知らぬ、真のトップシークレットじゃ。じゃがダンディの1番の愛弟子であるお前には、もう話しても良いやもしれん。。。」


「御老公、私はそんなトップシークレットよりも、先生の心変わりが辛くてたまらないのです。長年お側にお仕えして、ご奉仕をしてきた私よりも、そこでノビている、突然現れたあのようなマヌケヅラした魔族の女ごときが、先生の新しい女だなんて、、、


この私を差し置いて、、、私というものがありながら、、確かに私を愛さない人はいないなどと尊大なことを宣うMI6のスパイもいましたが、、、私は先生をお慕いし、先生だけを信じて今日まで生きて来れたのです。それなのに、、それなのに、、、」


「やめるんだ」

男が静かにつぶやいた。


「先生、、、、」


「どうもお前は、魔族のことになると、見境なく猛っちまう」


「信じるんだ、爺さんの言葉を、、、。そして俺を、、、、な」


「先生、私は、、、、私はっ、、、、、」


若者が言いかけたところで、くの字に折れ曲がったBARのオブジェが、今度は完全に息を吹き返した。

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