04・老賢者の企み
「お主、何を迷うことがあるのじゃ?」
突然、ずしりと響く重い声が聞こえてきた。
よく見ると、カウンターの奥の端に、老人が座っている。
「き、貴様、誰だ! というか、一体いつからそこにいるのだ!」
いつの間にか、気付かぬうちに背後を取られたような戦慄を覚え、女は思わず身構えた。この距離に人影があれば、無論気付かぬ訳などない、しかし、、、、。
「フォッ、フォッ、、、先程からおるぞ。ここにな、ずっと、、、、」
「なんだと!? ジジィ!貴様は一体何者だ!?」
女は動揺を隠すように吠えた。この老人、存在感が薄いだけではなく、気配すら一切悟らせないとは、、、きっと只者ではないはずだ。殺るか?殺られる前に。
「お主をずっと待っておった。ずっとな。。。。」
「えっ、」
「余、余をか、、、?]
「そうじゃ、お主が必要じゃ。アイウォンチューじゃ」
「な、なぜ、それほどまでに余のことを、、、、、」
「聞いていなかったのか?ダンディの言葉を?」
「う、それは、、、余には価値があると、素晴らしい魅力があると、、、いうことか?」
「よせ、余は、余はな、そんな大した者ではないのだ。強がってはいるが、先程あの男に看破されたように、本当はちっぽけな魔族なのだ。。。。余はな、生まれてこのかた自分の願いなど叶ったことがほとんどないのだ、何をやっても望みとは逆に、全ての結果が裏目に出てしまう、生きる不遇なのだ。もはやここまでくると、ある種のチートスキルのようなものだな、、、」
「恐るべし能力ではないか」
「笑うがよい、余の滑稽さを、見下すがよい、余の哀れさを。軽蔑するがよい、余の能力を、ハッ、まるで「極めつけの逆神」ではないか。。。。」
「お主はまだ青い、ケツの青い小娘でしかない、、、しかしな、どんな欠点も完璧な欠点などないのじゃ。」
「ジジィ どういう意味だ?」
「森羅万象、すべての物事には裏表がある。そして両極には対極がある。しかしてどちらの極も全ては同じものでできておるのだ」
「ジジィ、難しすぎてよく分からぬのだが?」
「ならば、サルでもわかるように 教えてやろう。」
「短所と長所は裏返しなのじゃ、人によっては短所かも知れぬが、他人から見ればそれは素晴らしい長所に見えることもあるのじゃ。つまり何が長所かを決めるのは、その人物次第ということじゃ。そしてどんなものにも、等しくなんらかの価値があるということじゃ」
「つまり、余にすらも、なんらかの価値があると、、、?」
「お主に足りないのは、、、、、足りなすぎてノータリンじゃが、、、」
「うぬう、言わせておけば、、、このジジィ!!!」
「美点凝視じゃ!!!」
「なんだそれは?」
「一言で言えば、闇の中に光を見る、ない中にあるを見る、つまりどんな状況においても良きことを見つければ、必ずそれは見つかるのじゃ!!!!」
「ガビーーーーーン!!!」
「ほ、本当なのか、それは、、、、その真理を、、、余も信じてよいのか?」
「ああ、信じるものは救われるのじゃ」
「余は、余は、、、どうすれば、、、、」
「ある偉大な経営者の名言を教えてやろう、まずは、やってみなはれ、じゃ。やってみなわかりまへん、ということじゃ」
「失敗を恐れぬことじゃ、トラウマがあることは分かる、しかしそれではいつまで経っても前には進めぬのじゃ。一歩踏みだす勇気がお主にはあるか!?」
「くぅ、、、、」
「それにお主がここに来ることは、ワシもダンディもすでに知っておったのじゃ。」
「なんだと?」
「このBARをオープンするにあたり、経営理念、そして核となるコンセプトを定めたのじゃ!心を病み、孤独に疲れた哀しい人間を癒す時と場所、明日への希望が未来の夢となる原動力となろうと、、、、、だからこそ、一人一人の客にあった最高のおもてなしをするためにはな、 人材こそ最高の資源ということに気づいたのじゃ!」
「かの大名も言っておる。人は石垣、人は城、つまりは人財こそが、全てのシークレットを解く鍵なのじゃ!」
「お主にこの世界の秘密を教えてやろう。よいか、いわゆる迷宮と一括りにされるダンジョンとは、決して未知なる世界や場所にあるのではないのじゃ。階層とも表現される、奥への深掘りこそは、進むほどに難儀な障害が現れてくるものじゃ。だからこそ、その障害のリスクに見合った報酬が用意されておるのじゃ。人は見えないその宝の魅力に惑わされ、迷い、時には命さえ落とすものじゃ。
しかしな、真のダンジョンとはな、人の心にすでにある、複雑怪奇な心の動きや感情の中にこそ隠されているものじゃ。つまり人間という存在自体がすでに究極のダンジョンであり、その心奥に鎮座する精神、心、魂の真の願いこそが、その人それぞれによっての財宝なのじゃ!!!お主は自分自身という複雑怪奇なダンジョンを、限界の階層まで掘り下げたことはあるのか?自己分析を極めようとしたことはあるのか?」
「余には、、、難しすぎて、、ジジイが何を寝ぼけておるのか、分からぬのだが、、、」
「それはお主が、まだケツの青い小娘じゃからじゃ。お主がいい女になった時に、初めてわしの言っておった、真の意味に気づくであろう」
「つまりな、BARには人が必要なのじゃ。しかもただの凡人ではダメなのじゃ。ある種の特殊能力とも言えるチートスキルを持つもの、選ばれし戦士でなければダメなのじゃ!そこでそのような稀有なハートとスキルを持つ特殊人材を獲得するために、国家プロジェクトとして、非常にハイレベルな召喚魔法を行使したのじゃ!」
「名付けて、第1級召喚魔法 ハローワーク!!!」
「、、、、、、、」