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03・疲れた女はBARに行く

「それで、嬢ちゃんはなぜここに来たんだい?」

男が尋ねた。


「フッ、知れたことよ。疲れた女はBARに行くと聞いたものでな」


「お前は疲れているのか?」


「はっ、アホウ!!!そんな訳なかろうが、この下等生物め!貴様の目は節穴か!」


「俺には 悲しい女の遠吠えにしか聞こえねえ」


「くうっ、貴様、余をなぶるか!?」


「淋しい女ほどイキがるもんだ、嬢ちゃんの苦悩の正体はなんだ?」


「余は、余はな、生まれながらのエリートなのだ!しかも上位魔族として最高の強さ、知力、体力、魔力、心技体、美貌、そして、そして、、、そ、し、て、、、、、、青、、、春。。。。。


と、とにかく余は生まれた時から今までずっと完璧超人であったのだ!そしてその栄光はさらに輝きを増す!今回のミッションもスーパーな余であるからこそ成せるわざに違いないのだ!」


「期待されてるんだな」


「えっ!?」

女は耳を疑った。


「そんな大層なミッション、一人じゃ荷が重いものさ」


「おっ、おう、その通りだ。貴様、分かっておるではないか」

女がたじろぎながら、精一杯の強がりを見せた。


「期待されてるんだな」

また男がつぶやいた。


ああ、ああ、この男の言葉が心に染みる。

なんなのだ、このえも言われぬ安堵感は、、、、

魔界では一度も味わったことのない、なんとも言えない、まるで絶対領域に包まれた安心感のような、、、。



「だがしかし、余は、余は、、、、」


「余はなんだ?」


この男の前では、なぜか強がることができない自分がいた。まるで全てを見透かされているようだ。しかしその弱みにつけこんでくるような素振りもない。不思議だ、不思議でたまらない。この世界は弱肉強食ではなかったのか。。。。自分の弱さを他人に見せた時点で負け組ではなかったのか。人生の落伍者を甘んじて受け入れるには心が痛すぎる。


「余は、実はな、、、」


「期待されているとは、思えないのだ」


「なぜだい」


「余の心がそう言っておる。いや、いくら強がっても、うそぶいても、心の深い奥底で、、、、ほんとはそうではないと、聞きたくもない囁きが聞こえてくるのだ、、、」


「もしかしたらもう気づいているのかもしれないのだ。おのれは実は大したものでもなんでもないのではないかと。」


「余は、ずっと頑張ってきた。あの弱肉強食の世界で、最前線で生き残ってきた優秀な遺伝子なのだ。しかし、しかしな、、、気づけば今、余はこんなところで一体何をしておるのだ。魔界のスーパーエリートたるこの余が、何故、貴様のような下等生物に、惨めな身の上話を聞いてもらっているのだ、、、」


男は黙って聞いている。


「今回のミッションもな、よく考えればおかしな点がいくつもある。そもそもなぜ余なのだ。冷静に考えれば合点承知が行かぬ。確かに余は最強レベルの戦闘力を持っておるからして、主要人物を一掃するには相応しいと言えるだろう。しかし人間界の調査に関しては向いていない気がするのだ。昔から余は喧嘩は三度の飯より大好きだったが、勉強はトンと苦手でな。。。。さらには魔族関係も円滑ではなく、友達と呼べるものもおらぬ有様だ。余は他族の心が、気持ちが、情というものがわからぬ、、、欠陥品なのではないか、、、」


「ぼっちってやつだな。。。」

男がグラスを拭きながら、うつむき加減に女の手を見てつぶやいた。


「くうっ、貴様!」


「この、」

腐れポンチが!と言いかけたところで、女は口を詰んだ。


「余の、苦悩を笑うがよい、、、、」

「本当は貴様のいう通り、弱い女なのかも知れぬ」


「笑えねえな」

男は優しくつぶやいた。


「な、なにっ!?」


「誤解するな、嬢ちゃんを笑う気なんざ微塵もねえってことよ」


「貴様、余が哀れではないのか?負け組と嘲笑いはしないのか?」


「いいか、人生には勝ち組も負け組もねえ。ただ日々の生き様があるだけだ。そしてそれは赤の他人にとやかくどうこう言われるものじゃない」


「お、おお、おおっ、、、、、、」


「泣いているのか」


「たわけ!余が泣くわけなどないであろうが、貴様の目は節穴か!」

「これはただの水だ!たまたま水が余の目に雨宿りをしているだけだ。」

「後から来た客が、濡れていて可哀想だから、先客が宿り木を譲ってやったから、、、、涙袋から出て行っただけだ!」


「嬢ちゃん、詩人だな、、、」


「ハウっ、、、、お、おお、クゥ、、、、、、」


「そんな嬢ちゃんは 嫌いじゃないぜ」


「はおっ! き、貴様、余をたばかるか、この無礼者!!!!」


「泣いてもいいんだぜ」


「クッ、くううう、、、、」


「ああ、ああ、そうだ、余は何をやってもダメなのだ、全てがまるでうまくいかぬ、何をやっても裏目に出てしまうのだ!余ほど運の悪い女もそうそうおらぬわ!今回の魔選もな、結局はくじで決まってしまったのだ!余は昔からくじ運だけは悪かった!余はまんまと嵌められたのだ!挙句このざまだ!この世に神はいないのか!」


「嬢ちゃんは、魔族だろ?神は関係ないんじゃないのか?」


「ウゥ、そうであった。貴様、、鋭いツッコミではないか。揚げ足取りは女に嫌われるぞ」


「くじ運だけじゃなく、男運もだろ」


「おのれ!貴様!余を愚弄するつもりか!!!なぜ余の秘密を知っているのだ?!」


「そうなのか?」


「えっ?、いや、それは、、、、」


「辛かったんだな」


「一生懸命頑張ってきたのに、やることなすこと全部裏目に出ちまう」


「救えない人生だな、いや、魔生か」


「貴様、、、、」


「しかもその頑張りが、誰にも認められない。それどころか互いを蹴落とし、足を引っ張り合う人生、やってられないよな」


「ウッ、貴様、、、余の苦しみがわかるのか、、、」


「わかるぜ、その気持ち」


「はぅっ、、、」


「この焼肉定食の世界は、、、」


「弱肉強食だろ」


「貴様、、、」

と言いかけて女は気づいてしまった。この愚かで惨めな女ひとりに、この男はいちいち言葉を返してくれていることに。くだらないツッコミさえ寸分の狂いもなく、しかも的確に、かつクールに、、、、、。


「悪くはねえ。嬢ちゃんは自分の扱い方を 間違ってるだけさ」


「なにっ?」


「どんな人間、魔族にもいいところもあれば悪いところもある。もちろんいい奴も悪い奴もいる。」


「しかしな、自分を理解してない奴は、不幸でしかねえ」


「まるで嬢ちゃんのようにな。。。」


不思議だ。何も言い返せない、、、、女の時間はその場で止まってしまったようだ。


「しかしな、、、」


「嬢ちゃんには、価値があるってことさ」


「自分でも気が付かない、素晴らしい魅力がな」


「そ、そうなのか!?」


「幸せって なんだと思う?」


「それは、先ほども、、、、」


「それを探しにきたんじゃないのか? 嬢ちゃんは」


「そ、そうなのか、、、、それでいいのか、、余は、、余は、、、、、」


「それでいいのさ、それでいいのだって、あの天才もそう言っている」

男は優しくつぶやいた。


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