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17・憂鬱な聖女 ラブリーン(2)

「なに、、、聖女ラブリーンとな!?」

聖女の名を聞いたデッチが、わなわなと震えている。


「確かあやつは、、、、」

デッチは水晶のペンダントを覗き込み、魔界通信の人間界VIP&戦力抹殺リストを開いた。


「何やら確か聞き覚えのあった名ではあったが、、、フッ、フフフ、、、あのような大物にここで出会えるとはのう。。。あやつは魔界通信抹殺リストに載っておる賞金首ではないか、、、どうやら先ほどの話では、あの聖女が何やら弱気になっておるようだな、、まさに千載一遇のチャンスではいか!飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと、、、、今ならトドメを指すのは容易い!とうとう余にも運が向いてきたようだ!」

デッチの脳裏に狂気が走る。早くも魔族としての本能が目を覚ましたようだった。


「しかし、、、ここにはまだ凄腕のあの男と、倒錯したオトコオンナがおるからして、、さすがに正面から堂々と殺るには、ハードルが高いやも知れぬ。。。機を窺うのだ、焦るな、余よ!、、、、」



「先生、たった今連絡がありました。東の村に魔族が現れたとのことです。、今から向かって討伐してきます。」

メスカルが告げた。


「ああ、任せたぜ、、、」


「おっと、、、オレも野暮用が入ったようだ、、、、あとは見習いに任せるか。。ヘイ、デッチ!イッツ・ア・ショータイムだ!その客に明日への希望をくれてやれ」


「お、おぅ、、、すべて余に任せておけ。安心して地の果てまで行ってくるがよい。なんならもう帰ってこなくても良いぞ。」


「オマエ!まだ懲りないようだな!!!私が帰ってきたら、オマエを細切れにして汚物として流してやる!今度はトイレのオープンドアだけで済むと思うなよ!」


「キ、貴様ァ!!そのような身の毛もよだつ破廉恥なことを!!!!まだ言うかぁッ!!!このドSめぇーーーー!!!」


「それじゃあな、ユーの復活を心から応援してるぜ。あとは気の済むまで飲んでいってくれ」

ダンディがクールに、全身を蝕まれて病みきった、憂鬱な聖女ににエールを送る。


「あなたたちのホスピタリティは忘れません。ではお言葉に甘えて朝まで飲ませていただきます」


「じゃあな、、、、」


「ありがとう、、、、」


聖女とダンディとメスカルは、熱い交流を暗黙のうちに交わして、今宵の宴を後にした。


「な、なんだと、、、こんな展開はありなのか!余は自分の強運を誉めてやりたいわ!

しかもあの男も、あのオトコオンナもいない今、まさに千載一遇のチャンスではないか!たとえかつてのやり手の聖女だろうが、今や弱気で、死にかけの、メンタルの弱ったオンナ一人など、余がこの場で即引導を渡してくれるわ!フッ、ジジイ、余にこのBARを任せたことを、死ぬほど後悔するがよかろう!見せてやろう、余の地獄のフルコースを!酒で意識を飛ばして朦朧としたところに、つまみをたらふく食わせて腹一杯で動けなくして、呪詛攻撃で生きる気力を失くさせて、心身ともにボロボロになって動けなくなった時に、その生き血を吸い尽くしてトドメを刺してくれるわ!」

デッチが勝ち誇ったように高らかに笑う。



「オゥ、貴様、もう一杯酒はどうだ!」

デッチが聖女に声をかけた。


「ん?あなたは誰ですか?」


「たわけ、先ほどからここにおろうが!、貴様の目は節穴か!?」


「あまりに存在感が薄くて、気づきませんでしたが、、、、、、ああ、このBARの見習いでしたか、、、」


「貴様!余を馬鹿にするのか!」


「いえ、あなたの名札に見習いって書いてあるでしょう?見習い、デッチ・ボーコーと」


「クゥッ、、、、貴様、、、、余が見習いだと、、、」


「つまりあなたはこのBARの最下層カーストということでしょうか、、、確かにあのマスターとチーフの足元にも及ばないようですが、、、」


「貴様、、、言わせておけば、、、、」


「まあ、良いでしょう、このBARにはどうやら、もうあなたしかいないようですから、、、しかしよく見れば、あなたは人間ではなく魔族のようですが、、、その容貌だけでなく、その極めて下品な凶悪性からも、魔族の匂いがプンプンいたすのですが、、、」


「当たり前だ!余は魔族の中でも上級も上級、いと高貴なクラスのバンパイアである!ひれ伏すがよい、下等生物どもめ!」



「そのような魔族がなにゆえ、このような辺鄙なBARで、丁稚奉公をしているのです?」


「クゥッ、貴様、痛いところをつくな!、まあこれには色々と訳があるのだ」


「そうでしたか、それではせっかくですから、一杯いただきましょうか。」


「おお、任せておけ、それでは余の悪意を込めた一杯を、思う存分味わうがよい」

デッチが、ダンディのカクテル捌きを思い出しながら、バーテンダーになりきってシェイキングをしたのち、グラスに酒を注いだ。


「なかなかお味がよろしいようで」


「そうか?まあ、と言っても、そこいらにある酒を適当に混ぜて、見様見真似で作っただけなのだが。。」


「わたしの哀しみを癒すには、、、ちょうどいい味加減です」

ラブリーンがつぶやく。


「ところで貴様は、何をそんなに憂いておるのだ?貴様の障気の吸収力が減ったところで、そんなことはなんでもなかろう」


「あなたたちのような魔族には、絶対にわかるはずもありません。人間には、愛があるのです、友情があるのです、契りがあるのです。それが魔族と人間を決定的に分けている、心というものなのです」


「何を貴様は女々しいことを言っておるのだ、そもそも魔族も人間も、死んだらおしまいだろうが、猟犬は相手を殺せなくなれば、それで用無しであろうが?」


「ええ、確かに私ははもう使い物になりません、、もうこれ以上、この国に溢れる障気を吸収する余力などありませんから。それどころか今の私は毒ガスに侵された時限爆弾を体内に抱えている、いつ破裂するかもわからない危険な地雷のようなものです。確かにこの体中に蔓延しきった毒素を排出することができれば、再び第一線で活躍することができるでしょう。。。。しかしそのためには誰かが私の代わりにこの毒素を引き受け、、犠牲にならなければいけないのです。私は生まれながらの特別体質で、それゆえ聖女として生きることになりました。そうしたなかで、あえて自分がこの身を犠牲にして、抱え込んできたのですが、とうとうその許容量に達してしまいました。私にできることは、この恐ろしい毒素を誰にも浴びせることなく、この体に封印したまま、人知れず消えていくことだけなのです。今の私はもう、国民たちに、もう私を頼らないでと伝えるしかない濡れ落ち葉です。だからもう聖女など引退してしまってまって、あとはこの体を蝕んでいく障気とともに枯れてやつれて死んでいくだけなのです」



「オッ、酒がすすんでいるようだな。ならば、つまみはどうだ?」デッチが声をかける。


「ええ、、こんな私に合うつまみがあれば、あなた選んでください。」


「フッ、任せておけ、それでは余の殺意を込めた一品を、思う存分味わうがよい。たらふく食って、満腹で動けなくなるまで食らうのだ」

デッチが、憂鬱な聖女に、つまみを差し出した。


「ところで、貴様は、先ほどの話からして、凄腕の聖女なのであろう?魔族を、我らの仲間をたくさん葬ってきたのであろう?そのような強者が、なぜ、こんな辺鄙なBARで飲んだくれて、愚痴を言っておるのだ?」

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