5.日本の神々は、海外にも派生している。
日本の神々は、海外にも派生している。ハワイやサイパン、ブラジルなどに祀られているのだ。日本人が海外に移民としていく際に同行した彼らは、近世以降に神々になった本当に若い神であるがために、話はとても早かった。
すなわち彼らに仕える神官たちも若いのだ。
「神職ですから!」
などという古い神様的にはよく分からない理由で神官たちもダンジョンに潜っているという。どういう理由なのかを説明するのは、すでに若い神々は諦めた。そういう者なんです、でどうか押し通されて欲しい。
それはそれとして、ダンジョンに潜ったことのあるという若い神職から得られた情報は「この世界のものではない」ということだった。出てくるモンスターが違うのだ。モンスターの本場はヨーロッパで、いや勿論アメリカにも先住民はいて、彼らの物語の中にモンスターはいる。けれどそういう動物由来のものではなく。ガーゴイルなんかの人造のモンスターもまた違うという。
「まあぶっちゃけゲームやコミックに出てくる、自分たちの知っているモンスターと異なりますね。多腕や多足、心臓の位置なんかも、自分たちの常識に当てはめて考えると混乱しました」
ダンジョン攻略にあたったという人間たちから聞き及んだところだとそういうことだと。
さてアメリカ合衆国のワシントンには米国国魂神の神社であるアメリカ椿神社がかつてあった。現在は廃社になっているというが、ご神体などはまだアメリカにある。
確かに米国国魂も主祭神ではあるが、そこには猿田彦も祀られていた。神の権能として己の祀られている神社までは一足飛びに行くことが出来るため、神々は猿田彦に連れられてアメリカの地を踏んだ。たまにこちらを二度見するものもいたが、基本は気が付いていないので気楽なものだ。
『お待ちしておりました』
『ああ、案内を頼む』
迎えたのはジョージ。アメリカにいる小さな土地神だ。彼は猿田彦、角代神、活代神に駆けつけ一杯とばかりに瓶を渡した。蓋はちゃんと開けてある。
お神酒の類ではなく、ここはアメリカ。コーラである。
『おいしーい! あんまり供えて貰えないのよね!』
『そうなんだよなあ』
日本から訪れた神々は頷きあう。社に仕える宮司やその家族が飲んでいるから一口、と頼んでみても、気が付かない場合は仕方がないとして大抵の場合は何を言ってるんですか、と取り合ってももらえない。
例大祭などでは何もわからぬ子どもが供えてくれるから、それを楽しみにしていた。たまに子供が怒られていて、申し訳ない気持ちになるけれど。
大丈夫、日本の神様はドリンクバー供えても多分怒らない。
「一番近いダンジョンはこちらですね」
神々を乗せた車が、するすると走り出す。運転しているのはジョージの神官アーロンだ。ジョージは椿大神社に昔祀られていた神が弱体化したもので、現在社も神官もいないはずである。そのご神体はとある場所に保管されているが、それを示しているのはネット上の百科事典のみである。
それでもジョージにはアーロンがいて、アーロンはジョージに救われたと思っている。自分は狂っていると思っていたけれど、狂っていないとジョージは言ってくれたし、ダンジョンに行くのを止めなかったし、ほら、今日になったらジャパンの神様を三人……三柱? もご案内することになった! とてもクールだ!
『君はダンジョンに潜っているんだっけ』
「はい、何度か。ギルドにも所属しているクレリックです」
『マジか。ゲームかコミックの世界じゃないか』
猿田彦も角代神も驚きを隠さない。
「いや、管理しないと危ないからですよ。管理してるのは国でも地域でもなくて、完全にボランティアですけどね。勝手にそれっぽくギルドって名乗ってるんですよ」
『ああなるほど、模しているのか』
「そうですそうです」
であればそれは儀式になる。
神々は視線だけでそれを確認したが、人間であるアーロンには告げなかった。必要がない、とかそういう話ではない。
人間が、自分の意思で、その儀式を完遂することが必要だからだ。
アーロンの運転する車は観光客の多くいる場所を走り抜け、住宅街も抜け、風光明媚ではあるが、人気のないだろう所に停車した。
とはいえ駐車スペース変わりか、地面には乱雑に線が引かれていた。他の人間の気配もする。
「よう、アーロン! 今2グループ入ってる、ちょっと待ってくれ!」
「ああ、いや」
『こちらは気にせず、いつも通りふるまってくれ。彼等には見えていないんだから』
ギルドを運営して、ダンジョンを管理していることを示すのだろう。揃いの腕章をつけている一人が、アーロンに手を振った。
中に何人も一斉に入ってしまっては、フレンドリーファイアが誘発されかねない。ゲームではないのだから。
代表して猿田彦が、ポン、とアーロンの肩を叩いた。神々はドアを開けずに車から降りて勝手に散策しだす。
アーロンは、彼らを目で追わないようにするのに必死だった。
なぜなら彼らは、他の人間の目には見えていないのだから。また頭がおかしいという扱いをされるのは、たまったもんじゃない。
角代神と活代神は地面に手をつけた。ダンジョンの入り口まで行って、ぐるりと見て回って、少し離れた場所から観測することにしたのだ。
その入り口は下草の生えた場所にいきなりぽっかりと口を開けていた。茶色いはずの土の所に、青い恐らくは岩製の階段が覗いているのだから、不審なことこの上ない。
『地中じゃないですね』
二柱の大地に連なる神々が、己の神気を大地に浸透させた。ここは己の神社ではないし異国だしさっき飲んだのはお神酒じゃなくてコーラだけれど、それでも名のある大神なので特に問題もない。
『薄皮一枚時空がずれてるね。高天原と中つ国がちょっと違うよりは、もう少し違うかな? どうだろうか』
ここではないどこかから、ここに繋げてあるように感じられる。外から中を覗くことは難しい。
やって出来ない事は無いだろうが、これを作った相手に気取られかねない。それでいい場合もあるが、それでは困る場合もあるのだ。
アメリカ旅行を満喫する神々のターン。
酒飲みだってたまにはコーラ飲みたくなる時もあるんだよ。
いや私は酒よりジュース派ですが。果物ジュースでお願いしたい。
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