3.一柱、また一柱と出雲大社に続々と神々が集まってくる。
一柱、また一柱と出雲大社に続々と神々が集まってくる。祭神である大国主命は毎年のことであるからして泰然自若の様子であったが、それに仕える兎達は毎年のこととはいえ大わらわであった。
かつて素戔嗚尊を祀っていたことがあるからか、素戔嗚尊も大国主命のそばに座り込んで勝手に手酌で持参した酒をあおっている始末だ。こっちは忙しいというのに。
本殿端垣外にある十九社は、八百万の神々を祀るお社である。これから約十日の間にわたって行われる神在祭の間、それぞれの場所からやってきた神々の宿舎であるのと同時に、ここは出入り口でもあった。
青白橡達も無事に出雲大社へとやってきた。足元を忙しなく駆けずり回っている兎たちを踏まないように気をつけながら、歩く。荒垣の外にある上宮を覗いて、そこにいる兎に手土産を渡した。会議の間のお茶菓子としてふるまわれるだろう。一柱一柱が持ってきたものはそれほど多くなくても数多の神々が集まっているから、会期の間のおやつには事欠かなかった。隣に座っている神とおやつが違って交換したり分けっこしたりというのも、会期の間の楽しみの一つだ。
会議開催数日前から神々は集まってはあっちとお喋りをしたり、こっちと情報交換をしたりと大忙しだ。兎たちにとってはゆったりしているようにしか見えないが。
『最近の話題といえば、ダンジョンよな』
『ああ、ああ。うちのちび助も潜りたがっておるな』
『ゲームとは違うと思うのだがなあ』
三柱もよれば、世界情勢の話にもなる。
このところ、国外ではダンジョンなるものが散見されていた。魔物がダンジョンの内部から外に溢れてくることはないようだが、どうにも危険性は高いらしい。と、ニュースでやっていた。まだちょっと、対岸の火事は否めない。
すでに大人になっている宮司たちは大変だね、とかそういった感想であるが、やはりその子供らはまだ子供であるが故に、ゲームや物語のように活躍する自分を夢想するものである。気持ちは分かる、とは、人から神になった者たちの言葉であった。何柱かはそっと俯き、何柱かはそっとあらぬ方を向き、何柱かはそっと胸を押さえた。身に覚えがあるのだろう。だから今、ここにいるのであろうが。
『わらわも、考えたのだけれどな』
会議も終盤。天照大御神がお神酒の注がれた盃を傾けながら、口火を切った。大体の報告は終えているし、会議の大体も終わっている。縁結びも終わった。
『あのダンジョンとやら、まだ由来も来歴も判明しておらぬであろ?』
『そうですなぁ』
『ということは、だ。単にたまたま、未だこの日の本の国に、出来ておらぬだけ、と考えるのが筋よの』
何柱かの天津神と国津神が、天照大御神のその言葉にそっと身を引いた。だから逃げられる、というわけではないのだが。
『事代主はどう思うかの?』
『そうですなぁ。……見に行ってみるのが、良いかもしれませぬな』
『異国に?』
『ええ、現地に』
『となると猿田彦かの』
まるで宴席での雑談のように、天照大御神は託宣を司る事代主に声をかけた。青白橡たち末端の神々は、それを息をのんで耳を済ませることしかできない。いや実際の所は、彼等も大国主命が用意した酒を飲んで、兎たちが作ったつまみをつついて、持ち寄った手土産について話をしながら、聞いていただけなのだけれど。
しばし考えた結果、事代主は託宣の結果を天照大御神に差し出した。神々が多くいて、主神である天照大御神までいるというのに、その結果は何ともはや、といったものだ。やはり距離がありすぎるのがいけないのか。
『ふむ、一柱だけはなく、鳥之石楠船や意富斗能地や大斗乃弁、国狭槌尊なんかの、ほら、大地の状態が分かるものも共にした方がよいかもしれませぬ』
『ああ、ダンジョンは地中にあると聞くものな』
行くだけなら、猿田彦一柱で十分であろう。シュッと行ってシュッと帰ってくるのは得意なので。
ただ、目的は視察である。
それを踏まえて、三柱の神が選出され、彼等は神在祭の後に出立することとなった。
神様の宴会シーンです。
なんとなくメインの神様たちと青白橡たちは会場が分かれているような気がしなくもない。
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※6/26追記
セリフが読みづらいと友人からごもっともなご指摘をいただいたので『』つけました。
本当にそう。
今回神様しか喋ってないので「」でいいかなとも思ったんですが人間が「」、神様が『』と分けたほうがわかりやすい気がするので『』です。
言わないと貰えないって前に何かで見たのでお願いしていこうね。