表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

1.負けた負けた。魔王が負けた。

そんなに長く無く終わる予定の、しばらく前に流行った日本にダンジョンができたら、って奴です。

しばらくよりもっと前だったりまだ流行っていた入りしても多めに見てください。

その辺はちょっと自信ないです。

負けた負けた。魔王が負けた。

負けた負けた。勇者に負けた。






 勇者アグネスの振りかぶった両手剣が、魔王の体に吸い込まれていくのは何度目だろうか。この攻撃は有効打になっておらず、ただ闇雲に振り回しているだけなのではないか。

 そんな疑心暗鬼が、常にずっと、アグネスの頭の片隅にあった。それでも振りかぶって、振り下ろして、突いて、払った。いつかは有効打になって、それが積み重なれば魔王と言えど倒せるはずなのである。


っぐぅ、っがあああぁぁぁぁぁ!!


 アグネスは愚直に剣をふるい続けた。アグネスだけではない。

 魔法使いのベネディクトはアグネスにかけた補強魔法が切れないようにと気を付けつつ、随時攻撃魔法を放っては魔王の気を引いていた。

 格闘家のオーサは魔王の死角を見つけては攻撃を繰り返したし、魔王が時折眷属を呼び出した時はそれらの対応を一手に引き受けていた。

 僧侶のベッティルは全員の状態を常に見守っていた。怪我を放置してはならない。毒を放置してもならない。補助魔法を切らしてもならない。

 斥候のボルグヒルドの姿はいつも隠れていてよくわからなかった。窓床扉に仕掛けられている罠を外して回っていたのだ。彼女の仕事の大半は、この魔王の間に到着するまでで終わっているけれど、勇者が毒の床を踏んだせいで負けたとあっては斥候の名折れであると、忙しなく立ち動いていた。


 魔王の断末魔の悲鳴を聞いて、勇者アグネスが剣を取り落とす。すぐに拾って構えるが、息が上がって肩も上下に動いている。剣は刃こぼれも酷く、使い物にはもうならないだろう。防具だってボロボロだ。人の街まで安全に戻れるかどうか、心配になるほど。

 それはオーサも同じで、本来手甲で守られているはずの拳には血がにじんでいた。ベネディクトとベッティルの魔力ももう底が見えていた。回復薬もそうだ。もう残りは、大した回復量がないものばかり。


 だから勇者一行は、魔王にとどめを刺しそびれた。


 ゆっくりと、魔王の体が闇に還っていく。魔物を殺した時も同じようにほころびていくから、勇者一行は魔王が死んだのだと誤解した。

 魔王は勇者たちが追撃してこないのを横目に見つつ、少しずつ、少しずつ。その身を時空のはざまへと転移させていった。

 それは、何代か前の魔王ビャルネがとある魔術の儀式に失敗して作られた空間だった。魔王ビャルネはそれを恥としたが、当代の魔王ドグラスはそれを利用することにこだわりはなかった。だって儀式失敗したの、自分じゃないし。


(おや、魔王様も負けましたか)

(今回の勇者は強いですな)


 その時空のはざま、世界の薄皮をぺりっと剥がした先には、六曜(ろくよう)と呼ばれる魔王の手下たちが先に揺蕩(たゆた)っていた。勿論ここに呼び込んだのは魔王である。彼等もまた勇者に殺される寸前であった。だから腕が欠け、足が欠け、目玉が無く。誰もが満身創痍であり、命があるだけ儲けものであった。

 誰も声は出していない。空気は震えていない。それでも、彼らは言葉をかわすことができた。


(さて、どうしたものかな)


 ゆっくりと、六曜の一人であるカイサが魔王のそばへと揺蕩ってくる。彼女は六曜の中で唯一回復の術に長けており、この空間で仲間たちを癒していた。自身を含め七人もの、それも魔王とその直属の配架クラスの魔族を一度に癒すのは無理であるため、誰もが最初はほぼ闇であった。


(恐れながら)

(申してみよ)


 六曜の一人、五つ目のアーベルが声を上げた。目はまだ二つしか回復していなかった。


(ここではないどこかにダンジョンを送り出し、回復に努めるのがよろしいかと)

(ここではないどこかに?)

(そうです。アールクヴィストには古来から魔王がいて、勇者がいた。それに皆、慣れてしまっています)

(そうだなぁ)

(民草は戦うことに慣れている。幸いここは時と世界のはざま。探せば、戦いに慣れていない平和な世界もありましょう)


 確かに。

 魔王たちには時間がある。

 今しばらくここで無意味に揺蕩うのも悪くはないが、どこか新天地を求めて揺蕩うのも悪くはないだろう。


(誰か探せるものはいるか)

(まだ無理です)

(今しばらくお時間を)


 皆、体のほとんどは闇であった。カイサは体の大部分は戻ってきているように見えるが、内部はまだないだろう。その証拠に、魔力の出力が高くはない。アーベルも顔は輪郭を取り戻しているが、肩から下はまだ闇の中だ。


(カイサ)

(はい、魔王様)

(皆はどれほど戻っておる? すぐには死なぬな?)

(すぐに亡くなりそうなのは魔王様だけです)

(うむ。それもそうよな。では我の命をつなぎとめることが出来たなら、まずはシーラとボルイェを治せ。二人には調べ物をしてもらわねばならぬ)

(承知いたしました)


 そう。新天地を。

 皆で過ごすことのできる、平和な新天地を探して貰わなければならないのだ。


(我はしばし眠る。その方がカイサの負担にもならなかろう。新天地の探査、並びにその後についてはアーベルに任せてもよかろうな?)

(承りました。まずはごゆるり、お休みください)


 魔王にすでに目はないが、どのみちここは闇ばかりがあふれる場所である。六曜たちも順に目を閉じた。

 カイサはまず、魔王の体を構成していた闇に触れた。お労しいと思いながら、そこに己の魔力を注ぎ込み、回復を促していく。同時に魔王の闇を自分に受け入れて、自身の体の回復にも努めた。

 六曜の誰よりも強いから魔王なのであり、その身を構成する闇も誰よりも深い。魔王を回復させるのであれば、カイサ自身が回復している必要があった。

 だからまずは、魔王の命が零れ落ちないようにして、それと同時に己を回復させて。魔王様の容態が安定したら、シーラとボルイェを六割がた回復させれば外に出ていけるだろう。

 そんな算段を立てながら、カイサも目を閉じる。カイサに元々目はない。不要だからだ。

なんで現代日本にダンジョンができたのか、って考えるとまあこうなりますよね。


評価ブクマいいね感想下さい。

どうぞよろしくお願いいたします。


※6/26追記

セリフにカッコついてないの読みづれえ!ととても正しいツッコミをいただいたのでつけました。

「」じゃなくて()な理由は本文に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ