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破魔のマキ  作者: すんし
7/12

第7話 一歩ずつ

 教室に入ったカイリとミドリは、机に倒れ伏すマキを見て驚愕する。

「おはようマキ君!」

「おはようなの。」

「お、おはよう……。昨日は運んでくれてありがとな。」

「それはいいんだけど、やっぱりまだ体調悪いんじゃない?大丈夫?」

「平気平気!ただ疲れただけだから……!」


 マキは2人に今朝の魔法制御訓練の話をした。

「でさ、俺何度も爆発して気絶しまくったのよ。あれが難しいのなんのって。」

「「…………?」」

 彼の話を聞いた2人は、無言で目を合わせた。

「ん、どうした?」

「基礎魔法は私達も昨日の授業で習ったの。確かに奥が深いとは思ったけど、そんなに難しいとは思わなかったの。」

「僕も精度や持続時間はともかく、発動自体はそこまで難しくは無かったかな。」

「は?あれ難しくないか!?俺一回も出来なかったんだけど!?」

「話を聞く限りさ、マキ君は多分魔力の【出力】が他の人よりも高いから、体全体に魔力が流れ過ぎてショートを起こしちゃうんじゃないかな?」

「うん。私もそう思うの。マキちゃんが昨日の模擬戦の時に一撃の魔法で気絶しちゃったのもそういう事だと思うの。」

「そういう事か〜!確かにチヅル先生もそんな事言ってたかも。ってかお前ら、今の話でよく分かったな!?凄くねぇか?」

「そ、そうかなぁ?えへへ!」

「それ程でもないの〜!」

 今朝チヅルに言われた事通りに分析するカイリとミドリを見てマキは驚く。一方褒められた2人は、両者共に照れ臭く頬を赤く染めていた。

「ところで、ミユはまだ来てないのか?」

「え、あそこに座ってるよ?」

 カイリの指差す方を見ると、既に自身の席に座り読書をするミユの姿があった。

「あれ、いつの間に!?さっきまで居なかったのに!」

「というか、マキちゃん凄かったの!」

「え、何がだ?」

「昨日の模擬戦なの!あの園崎家に勝っちゃうなんて、あの後驚きすぎて夜しか眠れなかったの!」

「しっかり寝てるなー……。でも、昨日の戦いは僕もびっくりしたよ!」

「…………。」

 2人から褒められる中、マキは照れたり喜んだりする事なく、今朝チヅルから言われた事を思い返していた。



 訓練の最後の時、チヅルは訓練の疲労でぐったりと倒れ込むマキに言う。

「マキ君は暫く模擬戦は見学ね!」

「…え〜なんでだよー!?」

「だってぇ、まだ基礎魔法使えないでしょ〜?基礎魔法が使える者とそうでない者とでは殆ど戦いにすらならないと思った方がいいよ?君の得意な魔力暴走パンチも躱されちゃってたらお話にならないじゃん?」

「う、確かに……。」

「だから暫くの間は模擬戦禁止!後暴走パンチも危ないから禁止!そして毎朝基礎魔法の練習ね?」

「マジ、毎朝!?」

「そう毎朝〜!大丈夫、私も付き合ってあげるからさ!」

 チヅルは笑顔で親指を立てる。実のところ魔力暴走を起こす生徒を1人で訓練させるのは危険なため、彼女の同伴は確定していた。

「くっそぉ!今日こそミユと普通に戦えると思ったのに〜!」

 そう言うとマキは再び魔力切れで気絶した。



 そして現在。

「…………。」

「どうしたのマキ君?」

 カイリが呼びかけにも気づかず、マキは後方に座るミユを見る。

「(今度は対等な実力勝負で勝ってやる…!見てろよ……!)」

 マキは彼女に再び挑む事を夢見て胸を高鳴らせる。


「…ってあれ?メイは?」

 ミユから目を離し、ふと後ろの席を見るも、メイの姿がない。カイリとミドリに聞いてみるが、どちらも「今日はまだ見ていない」という。

 それから数秒後のチャイムと共に教員が入室すると、マキは手を挙げて尋ねる。

「あの!」

「はい?」

「メイは来てないのか……ですか!?」

「メイ……ああ!鴨入さんの事ですね?今朝は体調が優れないため、午後からの出席と聞いてますよ。」

「そうっすかー。」

 風邪でも引いたのだろうか、とマキは考えていたが、結局その日にメイが登校する事は無かった。



 放課後。

 マキは足早に学校を後にすると、軽快に駅に向かって走り出した。何故なら、今日は彼にとって週に一度の特別な日な為である。

 駅へと向かう途中、彼は見慣れた後ろ姿を見つけた。猫背で歩くその少女に後ろから声かける。

「おーい!ハナー!」

 少女は声をかけられて振り返ると、少し下がった眼鏡をかけ直す。そして、こちらに走って来る自身の義弟を見つけた。

「お、マキじゃないか。お前も帰りか?」

「おう!」

「そんなに急いでどうしたんだ?」

「だって、今日は週に一度の“家族の日”だからな!」

「まあ、家族の日と言っても家で3人揃って夜ご飯を食べるだけだがな。というより?それ程私達との時間がお気に入りなようだな〜?私が恋しかったか弟よ!」

 ハナは少し意地悪気に尋ねると、マキは何食わぬ顔で頷く。

「そりゃそうだろ?だって俺達家族なんだし!俺はハナの事、結構好きだぞ?」

「…………っ!?」

 ハナは思わぬ返答に顔を赤くすると、慌ててマキの口を塞いだ。

「むぐ………?」

「馬鹿っ!そんな恥ずかしい事を大きな声で言うな…!周りに変な勘違いされるだろ…!?」

「むぐむぐ……変って何がだ?」

「う、うるさい……!さっさと帰るぞ!?」

 ハナは今にも湯気が出そうな顔を押さえながら、駅へと向かって走り出す。その時、彼女の表情が嬉しさで緩々になっていた事をマキは知らない。



 帰宅後、夕食の準備を終えた2人は料理をテーブルに並べて着席すると、お互いに手を合わせる。

「「いただきます!」」

 鶏の照り焼きを口に頬張ったハナは、余りの美味しさに自然と笑顔が溢れる。

「美味い……!」

「よっしゃ!」

 料理を作ったマキはガッツポーズをする。

 現在、久遠寺家の料理は主にマキの担当となっている。実の所。アラタとハナは料理が絶望的に苦手であり、何故か毎度料理をすると謎の黒い塊が出来てしまうのだ。ちなみにマキの退院祝いの食事は、勿論全てデリバリーである。

 一方、孤児であったマキは環境の為か自身で料理をする機会が多くあり、農場では彼の料理が最も年少組からの人気が高く、いつの間にか炊事係はマキの担当となっていたのだ。

「…ところで、ソファの間に挟まっていた料理本は役に立ったか?」

「げ、知ってたのかよ!?」

「座った時の違和感ですぐに分かったぞ。…だが、こんな美味い料理があるのにアラタは残業か……。」

「あー。おっちゃん今日も帰れないらしいな。」

 ハナはため息を吐いて俯く。アラタはマキのいた郊外地区の徴兵からの帰還後に昇進をしたらしく、現在は帝都本部にある研究部門の一つのリーダーを任されているそうだ。それ以降、彼はこの様に家に帰れない日が増える様になった。

「そんなに寂しいなら会いに行けばいいじゃん。」

「べ、別に寂しくはないっ!それに仕事の邪魔はしたくないな。何時何者であっても、研究を一時中断させられる歯痒さは同じ研究者として理解しているつもりだ。」

「ふーん?」

 目を泳がせるハナを見て、マキはニヤニヤする。その様子を見たハナはむすっとしてマキを睨む。

「…ほーう?食後の身体検査、楽しみにしてろよ?」

「え!?ちょ、悪かったって〜!」

「もう遅い。」

「そんな〜!」



 夕食後、マキはアラタの部屋で身体と魔力検査を行っていた。黒い果実を食べた事による体の異変を調査する為、週に一度、アラタとハナは家にある検査器具で彼の身体検査と魔力測定を行う事になっている。週に一度の団欒の日にはそういった意図も存在しているのである。

 ハナは寝台に寝かしているマキの身体に魔力測定器をあてながら、彼の身体を念入りに確認していく。

「どうだ?何か変わった事はあるか?」

「うーん……、先週と比べて身体の変化は特に見られないな。いつも通りの年齢以上に幼い身体だ。ただ、一つ気になるのは……」

 ハナはマキの赤く染まった前髪を触る。

「髪の赤毛部分が少し広がっているという事だな。」

「え、なんで?」

「……この髪、果実の経口前は完全な黒だったのだな?」

「おう。」

「そうか…。先週も言ったが、人間が果実を食べた後に髪色が変わる事例はよく確認されている。ただ、それは食べて即ではなく、魔法を使った訓練や戦闘の中で全体の色が少しずつ変化するのが通常だ。だからお前の様に一部分が少しずつ変化していくケースは前例がない。……それにこれは私の推測だが、お前に起こっている変化は髪だけの傾向ではない可能性がある。」

「どういう事だ?」

「お前のその身体、以前はもっと身長があって筋肉質であったのだろう?それがその赤い前髪と同じく黒い果実を取り入れた際の変化であるとすると、今後は髪のみならず、身体全体に少しずつ変化が現れる事が考えられる。」

「え、例えばどんな風に?」

 マキの問いかけにハナは首を振る。

「それは分からん。第一まだ変化が進行する要因が不明だからな。これからも定期的な観察が必要だ。」

「そっか……。」

「あ、ちなみに魔力量だが先週より増えていたぞ?」

「マジで!?」

「ああ。」

「よっしゃあ!もしかして今日の訓練が効いたのかな!?」

「魔力量は魔力消費に応じて増える例が多いからな。これからも頑張るといい。これで今日の検査は終わりだ。」

「おうよ!ありがとな!」

「おやすみ。」

「おやすみ!」

 マキがウキウキで検査部屋を出て行った後、ハナは手元にある魔力測定器を見ると、魔力値を表すメーターが先週に比べ1.5倍程伸びていた。

「(おかしい。いくら努力したとはいえ、この1週間で魔力量が1.5倍も増えるものなのか?これも髪の変化と同様、アラタに報告だ。)」

 ハナは今日の検査結果をデータにまとめると、それを通信機でアラタの研究所宛てに送った。



 それから1週間後。

 帝対対魔普通科の第8訓練場。


「なんで出来ないんだよ〜!」

 マキは悪態をつきながら、膝から崩れ落ちる。

「惜しい!…ほら次だ次!まだ始業まで時間あるよー!」

「はぁはぁ……!おっす……!」

 マキは息を整えて立ち上がると、再び訓練を再開する。[拳への魔力溜め→解除]を繰り返し、体全体に魔力を循環させていく。そんなマキの様子を、3日前から付き添いで居るカイリとミドリが遠くから見守っていた。

「(お………?お…!?)」

 ふとした時、マキは体の中に流れる魔力の感覚が今までと異なる事に気づく。いつもはどこかしらで流れが急速に速くなり爆発していた。しかし今回は微弱だがバランスよく、魔力が体全体を駆け巡る感覚を感じたのだ。

 マキは期待を込めてチヅルを見ると、彼女の口角が上がっているのが見えた。

「どうやら出来たみたいね!」

「先生ぇ!おれやったよぉ!」

「偉い偉い!じゃあ、今度はその流れを維持したまま右手に魔力を貯めてみて!」

 マキはチヅルの指示通り右拳に魔力を貯める。すると、今までの暴走パンチと比べ、拳から発せられる炎の波が一定で安定している様に見えた。

「いいねー!さぁ、早速その拳を私に打ち込んでみ?」

「え、いいのか!?」

「大丈夫大丈夫!どんと来な〜?」

「分かった!行くぞ先生!」

 会話の後マキはチヅルに向かって走り出し、右拳を振りかぶると彼女に突き出した。すると、それを見たチヅルも瞬時に左拳に魔力を溜め、マキの拳に合わせる様に繰り出す。その様子からカイリとミドリを含め、4人全員が成功したかと思った矢先である。

「(あ、あれ……?)」

 2人の拳が衝突する直前、マキの基礎魔法が解除される。それは突然の事であったため、チヅルの拳は魔法解除で減速したマキの拳をすり抜け、彼の顔面に直撃した。

「あ、やば……!」

「ぎゃあ!」

 魔力を纏った拳を直に受けたマキはその衝撃で10メートル程吹っ飛びゴロゴロと地面を転がる。チヅルが急いで駆け寄ると、マキはすぐに頬を押さえながら立ち上がった。

「ごめんごめん!マキ君大丈夫!?」

「おーいてて……!大丈夫…!」

「流した魔力の量が微弱過ぎたから、すぐ基礎魔法が終わっちゃったみたいだね。」

「くっそぉ!今の成功する流れだったろうが〜!」

「…うん、私も成功すると思ってた。そんじゃあ医務室行こっか?」

「おう……。」

 そうして4人は訓練場を後にした。



 医務室での治療を終えたマキは、カイリとミドリと共に日組の教室へと向かっている。

「くそ!今日こそ出来ると思ったんだけどな〜!」

「結構惜しかったよね。でも、この調子ならきっとすぐに出来る様になるよ!」

「そうなの!焦らないのが重要だと思うの。」

「そういうお前達はどうなんだよ?」

「基礎魔法発動中の魔法使用は……一応だけど出来るよ?(威力は弱いけど……)」

「私もなの。というよりクラスの皆出来るの。」

「はえ〜。……って事は出来ないの俺だけじゃねぇかぁ!」

 3人は話している内に教室に着くと扉を開け、各々の席に座る。ふとマキは自身の後ろの席を見る。

「メイの奴、今日も来てないのか……?」

 メイは最初の授業の日以降一度も教室に来ておらず、教員達も体調不良というだけで特に気にしている様子は無かった。


 その日の授業が終わった放課後。流石に心配に思ったマキはメイの様子を確認する為、学生寮に向かおうとする。しかし、ある事を思い出して足を止める。

「あ、メイがいるの女子寮だから、俺入れないじゃん!」

 帝対の寮には学生寮と職員寮が存在するが、さらにそれぞれの寮は男子棟と女子棟に分かれている。また学校のルールとして、男子が女子寮に、女子が男子寮に入る事は基本的に禁止されている。その為、マキが女子寮にいるメイに会いに行く事はほぼ不可能に近いのである。

「やっべ〜、すっかり忘れてた!俺風紀委員や生徒会でも無いし入れねぇじゃん。諦めるか……!」

 マキは引き返して教室に戻ろうとすると、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。

「あ、マキちゃん!」

「ん、その声は……!」

 声の主はミドリだった。

「マキちゃん、こんな所で何してるの?」

「……ああ、ちょっと学生寮に用があったんだけど、行けなくなった…というか行けないというか………」

「もしかして、ガールズトークの約束覚えてくれたの!?」

「え?」

 ミドリは目を輝かせると、マキの手を引いてズンズンと歩き出す。

「あ、ちょっと……!」

「レッツゴーなの!」



 マキは半ば強引に女子寮へと連れられる。そして寮の入り口である受付に行くと、メイは受付に「()()は友達なの。」と告げる。警備員と受付に顔ををじっと見つられ、マキは緊張で鼓動が早くなっていく。

「(いやいや、やっぱり無理があるだろ!)」

 しかし、そんなマキの心配は杞憂に終わる。

「……はい。通ってよし!」

「ありがとうなの!」

「(ほぁー通れた〜!?っていうか俺、そんなに女っぽいか……!?)」

 無事に寮へと入れたものの、バレなかった事への安心と落胆でマキは内心複雑な気持ちになっていた。ふと彼は周りを見渡し、ある事に気づく。

「なあ、女子でもスカートじゃない人結構いるんだな?」

「使ってる武器や魔法に合わせて戦いやすい様に、女子はパンツとスカートどっちでもいい事になってるの。」

「そうだったのか!」

「そうなの。うちのクラスの女子はマキちゃん以外全員スカートだから知らないのも無理ないの。」

「だから俺おとk………」

 マキは咄嗟に自身の口を手で押さえる。

「(やべー、今言ったらマズイ!メイに会うまで隠さないと………!)」

「どうかしたなの?」

「い、いやー?確かにお、わたしだけスカートじゃないのは変かもな……なの!」

「なんかマキちゃん、喋り方変なの。」

「いやいや?何もおかしくないだろ……わよ?」

「早く行くなの〜!」

「おう…じゃなくて、ええ!行くわ〜!」



 マキはミドリの部屋の前に行くと、突然にお腹を押さえる。

「アイタタタ………!」

「マキちゃん?」

「ごめん!ちょっとお腹痛くなったからトイレに行ってくる……ますわ!」

「分かったの!」

「(よし、今の内に!……ごめんよミドリ〜!)」

 ミドリが部屋に入るのを見届けたマキは、トイレに行くフリをしてメイの部屋を探し始めた。



「……お、ここか?」

 学生寮は学科・学年・組事にフロアが分けられているため、すぐにメイの部屋を見つける事が出来た。マキはコンコンと扉をノックする。

「おーい!メイいるか?」

「…………。」

 返事は無い。留守だろうか。


 コンコンコン


「メイ。体調大丈夫かー!」

「…………。」

 再びノックするも返事は無い。マキはノックを続ける。


 コンコンコンコン


「メイー!部屋から出ないでご飯はどうしてるんだー!?」

「…………。」

 マキはノックを続ける。


コンコンコンコンコン


「じゃあ小便や大は………いてっ!?」

 突然、マキが話している途中に勢いよくドアが開いた。扉の先には、顔を真っ赤にして慌てふためくメイの姿があった。

「お、メイ!」

「扉の前で永遠と話すのはやめてくださいまし!そしてノックの数を一回ずつ増やし続けるのもやめてくださいまし!!」

「うん、元気そうだな!」

「というよりどうして貴方が女子寮(ここ)に居ますの?確か一般の男子生徒は立ち入り禁止だったはずですわよ?」

「…そう…だよな!?俺男だよな!?」

「…何を言ってるんですの?自己紹介名簿に男って書いてありましたわよ?」

「メイ!お前って奴は!」

「ちょ、いきなり手を掴むのやめてくださいまし!貴方みたいな………いや…その………。」

「ん?どうした?」

 メイは途中で口をつぐむと、手を振り解こうとするのをやめる。

「とりあえず、ここで大きな声出すのはアレですわね……。お上りなさい。」

 そう言うと、メイはそのままマキを自身の部屋に入れた。

 マキは部屋を見回すと、1週間閉じこもっていたとは思えない程部屋が整頓されているのに気づいた。マキは彼女の勧め通り部屋の椅子に腰掛ける。すると突然、メイが頭を下げた。

「その……入学式の日はあんな事を言ってごめんなさい!」

「え、何の事だ?」

「式の後の教室での自己紹介で、貴方の事を差別した発言をしてしまった事ですわ……。」

「ん?別にいいぞ。最後に農場に居た時は違ったけど、その前は山で野草や木の実とったり街のゴミとか漁ってたりしたから、実際ネズミみたいなもんだったしな!」

「…例えそうであったとしてもですわ……。それに私は先程も貴方を……!はぁ………。」

 メイは自身の染みついた思考にため息を吐いた。

「もしかして、ずっと教室に来なかった理由ってそれか?」

「勿論それもありますわ。……後一つは園崎美優に負けた事です。」

「最初の模擬戦か?それだけ?」

 マキの問いにメイは首を振る。

「私は鴨入家の名に恥無い人間でなくてはなりませんの。だから御三家である園崎美優に釣り合い、彼女と対等な関係を築けるのは自分だけだって考えていました。でも、それは愚かな間違いだった…!彼女はあの模擬戦ではなく次の段階を見据えていた。最初から私なんて眼中に無かったのよ……!」

「…………。」

「そう思った時、“対魔隊の頂点を取る”という私の夢がどんなに無謀で能天気なものであったんだろうと考える様になってしまいまして………。そうしたらここで学ぶ意味、というか目的が、…自分の中で分からなくなってしまいましたの………。」

「メイ……。」

「…うぅ………!」

 マキは彼女が鼻を啜り、体を震わせているのに気づく。それからすぐにメイは俯いた顔を上げると、無理に取り繕った様な笑顔見せた。

「……あぁ!私とした事が失礼いたしましたわ!貴方にこんな話をしても仕方がないですものね……!?さあ、そろそろ先生方が見回りに来るから貴方は早く帰りなさい?後1週間したらまた登校いたしますわ……!」

 メイの仄かに赤く腫れた目を見たマキは、立ちあがろうとする彼女の手を掴んだ。

「な、なんですの……?」

「“また”って、それ嘘だろ?」

「………っ!」

「お前、学校やめるつもりか?」

「……結果が全てですわ。私は対魔隊はおろか、養成学校ですら1番にはなれないのですから、ここに居る意味は無いでしょう?」

「たった1回負けたくらいで諦めるのかよ……!?」

「………っ!貴方には分からないでしょう!?物心ついた頃から期待と重圧をかけられて来た私の気持ちなんて………!」

 マキの問いかけにメイは言葉を荒げて答えると同時に彼の手を振り解く。しかし、彼は再び彼女の手を取った。

「ちょっと!?いい加減離してくださいまし!」

「嫌だ!」

「どうしてですの!?私はもう決めましたのっ!!」

「なら、なんで俺にそんな話すんだよ!?」

「………っ!?」

「…まだ決心なんてついてねーんだろ!本当は、まだ諦めたくないんじゃねーのか?」

「いや、そんな…私は………!」

「俺は対魔隊に入るっていう夢、何回も諦めようかと思った。でも、それでも諦めたくなくて、必死足掻いてここまで来たんだ。俺なんかでも前に進めたんだから、お前にだって出来るよ!」

 そう言うと、自然とメイの瞳から涙が溢れ始める。

「でも、どうすれば……」

「またミユと戦って勝つ!」

「無理ですわ……。彼女と私とでは才能が違い過ぎます!」

「はあ……。全くどいつもこいつも才能才能って……!魔法が使えるだけまだマシだろうに……。」

「それってどういう……?」

「まあ、明日朝6時に屋外第2訓練場に集合な?待ってるぞ!じゃ!」

 そう言うと、マキはメイの制止を聞かずに部屋を後にする。それから逃げる様に学校から飛び出すと、ふと学生寮の方に振り返る。

「ま、なんだかんだ元気そうでよかった!…お互い頑張ろうぜ!……ってあれ?でもなんか忘れてる様な………?」

 マキは一瞬立ち止まって考えるが、すぐに脳内を今夜の夕食のメニュー決めに切り替えて歩き出した。

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