第6話 魔法制御訓練
時は遡る事数分前。同じ新入生とは思えないミユとメイの戦いをマキとカイリ、ミドリは無言で見入っていた。
試合後、カイリとミドリは一斉に驚きの声を上げる。
「あれがクラストップの戦い……!」
「僕、何が起こったのかよく見えなかったよ!」
「………。」
マキはそんな2人に対し、試合が終わってもなお一言も喋らずに呆然としていた。
「ほら、分かったのマキちゃん。マキちゃんが超えようとしているのは、ああいう化け物達なの……!」
「………。」
「マキ君…?」
カイリはマキの肩を叩くと、マキは突然意識を取り戻したかの様に勢いよく立ち上がった。
「…すっげぇ!」
「わ、びっくりしたなの……!」
「おれ、ちょっと行ってくる!」
「「マキ君・ちゃん!?」」
するとそのまま、マキは2人が制止の声を発する前に観戦席を飛び出し、訓練場の方へ走った。
そして現在。
「お前強いな〜!俺とも勝負してくれ!」
「はぁ………!?」
驚くミユを横目に、チヅルは観戦席の方を見る。そこにはマキの突然の行動に驚き、困惑するカイリとミドリの姿が見えた。
「(ふーん。クラスメイトに唆されたって感じではなさそうね。ならいっか。…それに、私も彼の力が気になるし!)」
チヅルはマキとミユの元に寄る。
「いいじゃん、やりなよ2人とも!まだ授業の時間余ってるからさ。」
「おぉ!」
「はい…?」
「まあ、余ってるって言っても後10分くらいだから、ここで一つ提案!正面からお互いの全力の魔法をぶつけ合うっていうのはどう?」
「一撃必殺って事だな!」
「ちょっと待ってください!まだ私はやるとは……」
「まあまあそう言いなさんなって。ミユもやって損は無いと思うよ?」
そう言ってチヅルから肩を叩かれたミユは、嫌そうに彼女の手を払い除けた。
「…分かりました!…あなた、確か名前はマキって言ったかしら?早くやるわよ。」
「よっしゃ、そう来なくっちゃ!」
そうして準備を終えた2人はお互いに向き合う。
「始まったらすぐに避けなさい。当たっても知らないから。」
「おっす!ご忠告どうもー!」
「…ちっ……!」
マキの間の抜けた明るい返答に、ミユは小さく舌を鳴らした。
「(何なのあいつ!人の警告を大して聞きもしないで……!)」
ミユは腹を立てる。人は努力や情熱だけでは何も成し遂げられない。その様に考える彼女にとって、気概と根性だけで何とかなると思っているマキの様なタイプの人間は心底嫌いなのである。
「一撃で終わらせてあげる。」
「じゃあ行くよー?よーい、始め!」
チヅルの合図の直後、ミユは双剣を引き抜き得物に魔法を収束させる。そうして、力を貯め終わったミユはその場で双剣を振ると、その2撃は青白い光となって飛んでいった。すると、その光は次第に集合していき、やがて大きな氷の斬撃となった。
ミユの魔法にチヅルは目を見開く。何故なら、彼女の放ったそれは中級の氷魔法で、新入生であるマキが対処できるものではなかったためである。
「(これ止めるべきかなー?でも全力でって言っちゃったし〜、それを止めるのもなー………。)」
チヅルは刃が放たれる僅かな瞬間で思考した。
「(ま、いざとなったらギリギリで止めるか!…それに彼ならきっと………!)」
チヅルはマキの方見ると、彼もミユの魔法の射出と同時に迎撃の構えを取っているのが分かった。
入学前の実技試験振りに魔法を使うマキは、右手に魔力を集め始めた。
「(アラタの言う通りに、体の中の血を一箇所に集めるイメージで………!)」
魔力が集中する彼の右拳から、次第に火花が放たれ始める。
マキは嬉しかった。今まで魔法の使えなかった自分が帝都一の学校に入り、実際に授業を受けているという事に加えて、今までの苦労、そしてアラタ、ハナという新たな家族の存在への感謝といった様々な思いから、彼の心臓は今までにない程の高鳴りをあげていた。そして今、マキはクラス1番の実力者と相対している。彼に初めから勝算なんてものは無い。あるのは強者への羨望と、今自分がどこまで出来るのかという好奇心だけである。
「(俺はここから始まる…いや、始めるんだ!)」
やがてマキの拳は真っ赤な炎を放ち始める。そして、彼は自身に向かってくる氷の刃に向かって拳を構えた。
「おらぁ!!」
刃が当たる直前、マキは炎を纏った拳を前方に繰り出した。
氷の刃と炎の拳が触れ合った瞬間、周囲には激しい轟音と熱波が広がる。チヅルは衝撃を避けるため、メイを連れて瞬時に後ろへと退がる。
一方、ミユは自身の魔法がマキに直撃したのを見て焦燥する。
「ちょ…!?躱せって言ったのに直で受けるなんて、何考えてんのよ……っ!!」
しかしその直後。
ミユは何かを感じ咄嗟に双剣を構える。するとその瞬間、前方から来た熱波による激しい衝撃が彼女を襲った。
チヅルは2人の様子を確かめようとするも、炎と氷のぶつかり合いで発生した蒸気でよく前が確認できずにいた。数秒経つと次第に蒸気が晴れ、目前が確認できる様になっていく。その中をチヅルが目をよく凝らしていると、ぼんやりとしたシルエットが見え始めた。
「………お、見えて来た!……ふーん。これは面白い事になってるじゃん!」
その光景にチヅルはニヤリと笑みを浮かべた。蒸気が完全に晴れると、そこには、拳を繰り出した状態で立っているマキと、熱波で体と武器を飛ばされ、地面に尻餅をつくミユの姿があった。
「はい、勝者は久遠寺真希ー!」
チヅルは笑顔で模擬戦終了の合図を告げた。
観戦席にいたカイリとミドリは、チヅルの勝者を決める声を聞き驚きの声を上げた。
「えーーーー!?マキ君勝っちゃったよ!!」
「…驚きなの……!何が落ちこぼれなの!?才能の塊なの!!」
「なんだ。自信無さげだったのに、やっぱり戦闘得意だったんだ。すごいや、マキ君は!」
カイリはミユを打ち倒したマキの姿を見て自然と笑みを浮かべる。しかし、それと同時にマキの異変にも気がついた。
「私が負けた……?こんな、私と同じ新入生に………!?」
一方、ミユは魔法の撃ち合いで自分が敗北したという事実に驚愕し、未だ起き上がれずにいた。そうしていると、近づいて来たチヅルに手を差し出される。
「ね、だから言ったでしょう?今年の新入生…あんたの同期は有望揃いだってさ!」
「………。」
ミユは無言で目を逸らすと、差し出された手を無視して自身で立ち上がった。
「……貴方、こうなる事を分かっててあんなルールにしたでしょ?」
「さあどうかな〜?」
「(うざ……!)…まあ分かりました。進級の件、前期の期末試験までは保留にしておきます。」
「うん、それがよろしい!……ところで〜、マキ君はいつまでそのポーズでいるつもりなのー?」
チヅルはマキの方を振り返ると、彼は未だに拳を振り抜いた状態で静止していた。しかし、チヅルとミユはすぐに彼の状態に気づいた。
「あれ?気絶してません……?」
「…うん。してるね………。」
直後、マキの体は崩れ落ち、地面に倒れ伏した。
[だっはっはっ!相変わらず、お主の魔法はいつ見ても面白いのう!]
マキはどこからか聞こえて来る声に気づいて目を開ける。そして、彼は周囲が暗闇でどちらが前か後ろ、上か下かも分からない不思議な空間に漂っている事に気が付いた。
[お?お主もこの空間に来れるのか!これは驚きじゃ。]
「誰だ!?」
マキは辺り見渡すも人影らしきものは何一つ見えない。しかし、それが聞いた事のない不思議な口調の少女の様な声である事が分かった。
[声だけとはいえ、我も知覚出来るとは!……これは一筋縄では行かないようじゃな。]
「何の話だ!?隠れてないで出て来やがれ!」
何処からともなく聞こえるその少女(?)の声に不気味さを感じたマキは周囲を警戒する。しかし、やはりその声の主の姿は確認出来ない。
するとその時だった。突然はマキは背後から両肩を掴まれる。
[ばぁっ!!]
「…………っ!?」
驚いたマキは声を発しようするも、口が動かなかった。また、口だけでなく体全体が金縛りにでもあったかの様にびくともせず、振り返る事すら出来なかった。
[フヒヒ……!まあそう怖がるでない。今の儂はお主で、お主は儂でもあるのだから。]
「(何を言ってるんだこいつは!?…というかここは何処だ……!?)」
[安心せい。じきにお主は目覚める。まだお主は主のままじゃ。今の所は、のう………?]
耳元で聞こえたその声に恐怖が最大に達したマキは、なんとか体動かそうと体全体に力を入れた。すると、自然の目の前が明るくなっていくのを感じた。
「おわぁ!?」
マキは体を勢いよく起き上がらせると、すぐに自分が知らない場所にいる事が分かる。そこはベッドの上であった。それから急いで辺り見渡そうと顔を左向けると、ベッドの横に誰かが立っている事に気づいた。顔を上げると、そこにはチヅルの姿があった。
「やぁ、嫌な夢でも見たかい?」
「おぉ、先生!あれ、なんで俺ベッドの上にいるんだ?」
「覚えてない?ミユとの模擬戦で気を失っちゃってたからさ、あの後カイリとミドリが医務室に運んでくれたんだよ?」
「あー、そうだったんだ……。2人は教室?」
「う〜ん、もう帰っちゃったんじゃないかな?今放課後だし。」
「え、俺そんなに気失ってたの!?前は1時間で起きれたんだけどな〜。」
「……“前”っていうのは、実技試験の時の事?」
「そうそう。試験の時も同じ魔法使ったんだけど、その時は使ってる時の意識があったのに、今回は使った瞬間から全く覚えてないんだよな〜。」
「ふーん。私も入学前の名簿を見た時はびっくりしたよー?魔法の威力は上級隊員並みなのに、一度使うと魔力切れになる生徒がいるってさ。いやー、実際見たけど半端ないね〜!…色んな意味で。」
チヅルはマキの魔法を思い出して笑みを浮かべている一方、マキは浮かない顔をしていた。
「ん、何か納得いってないって顔だね?」
「んー、まあな。いくら強くたって、その後すぐに気絶してちゃ話にならないだろ?どうしたらいいかなってさ……。」
「(ほー、単純そうな奴だと思ったけど、実は繊細な子なのかな……?)」
マキの返答を聞いたチヅルは、意外そうに感心する。そして、彼女は明るい表情でマキの顔を覗き込むと、一つ提案をした。
「よし、マキ君。明日の授業前の朝だけど、学校来れそう?」
「え……?」
「もしよかったら、あの演習の後に授業でやった事を特別にマンツーマンで教えてあげよっか?」
「え、いいのか!?」
「……やるぅ?」
「やる!」
「よろしい!」
そう言うと、チヅルはマキの側から顔を離し、医務室のドアへと向かって行った。彼女は退室際に「歩けそうになったらいつでも帰ってもいいからね!」、「明日、授業の2時間前に第四訓練場に集合で!」と言い残して部屋を出た。
翌日。
マキは言いつけ通りに始業前の7時に帝対の第四訓練場に入った。するとそこには既にチヅルがおり、こちらに気づいて手を振っているのが見えた。マキは彼女の側まで走って行き、彼女の目の前で停止した。
「偉いねー、時間ピッタリだよ!」
「おはよっす先生!それで、今日は何するんだ?」
マキの質問に対し、チヅルは得意げな顔で答える。
「ふふん〜!ズバリ、“魔法制御訓練”!!」
「おー!…って、何だそれ?」
「うーん、とりあえずやってみせた方が早いかな?じゃあここから向こうの壁まで競争でもしてみる?……そうだな〜、ハンデとして、マキ君がスタートしてから、私はその5秒後にスタートするっていうのはどうかな?」
「え、俺結構足の速さには自信あるぜ?ハンデで5秒はちょっとやり過ぎじゃねーか?」
「まあまあ、やってみれば分かるよ!さ、お好きなタイミングてどうぞ〜!」
マキは怪訝な顔をしながらも、すぐにスタートの姿勢を取り全力で走り出した。すると、マキは前々から感じていたある異変に気づく。
「(あれ、なんか前より体が動かしやすい……というか俺、足めっちゃ速くなってね………っ!?)」
そうしてマキは更なる自信をつけ、一歩地面を踏む度に走る速度を上げていく。一方、チヅルはそんなマキの走力に目を見開いていた。
「おぉ!【基礎魔法】無しであそこまで速いとはやるね〜!……お、とっくに5秒過ぎてるわ。じゃあ、そろそろ………」
そう言うと、チヅルは軽く足首を回し、スタートの構え無しで走り出す。すると、彼女はあっという間にマキを追い越したかと思えば、その1秒後には既に向かい側の壁に手をついていた。マキはチヅルの驚くべき速さに驚嘆の声を上げる。
「……え!?は!?」
「ど〜ぉ〜?ハンデあっても充分だったでしょ?」
そして気づくと既に壁にはおらず、彼女はマキの背後に立っていた。
「ひゃ!?いつの間に!?」
「これが魔法制御訓練の初歩、【基礎魔法】でーす!」
「すげぇ!今のどうやったんだ!?」
「それを今から説明しますよん。昨日の午前中の授業の中で、果実を食べた人間はそれぞれの属性を持ってるって話はしたけど、この【基礎魔法】は属性関係なく【魔力】があれば誰でも出来る魔法だね。この魔法は発動中、使用者の運動能力を一時的に底上げするのと同時に、視覚や聴覚といった五感も多少強化されるの。」
「ほう!」
「そんでさらに!この基礎魔法発動中は他の魔法の威力を上げたり、発動時間の短縮にも使えるから、対魔隊員になるなら必須の魔法の1つとなってまーす!」
「おー!便利だな、基礎魔法!」
「そうなの〜!だから昨日、基礎魔法の使えないマキ君がミユに魔法で打ち勝った時、私がどれだけびっくりしたか分かる?」
「なるほど、あの時ミユは基礎魔法を使ってたのか〜。……って、え、俺昨日ミユに勝ったの!?」
「あれ、言ってなかったっけ………?」
「今初めて知ったんだけど!?」
「…………。」
「…………!?」
それから2人に数秒沈黙の時間が流れた後、チヅルは気を取り直して話し始める。
「……ま、まあ?私が言いたかったのは、昨日普通の模擬戦のルールだったら、マキ君は間違いなく彼女に負けてたって事っ!」
「…あ、確かに…!」
「だから本当の意味でミユに勝ちたいなら、まずは彼女と同じ基礎魔法を覚える必要があるって訳よ。」
「ほうほう、で、どうやるんだ?」
「実はそんなに難しくないよ?マキ君、昨日みたいに魔力を拳に溜めてみ?」
マキは頷くと、チヅルに言われた通り右手に魔力を溜めた。
「よし、出来たぞ!」
「お、早いねー?」
「まあな。俺これしか出来ないし。」
「最初は皆そんなもんだよー。じゃあ次のステップ。その魔法を解除してみて。」
「こ、こう?」
マキは右手の力を緩め、魔法を解除した。その際、彼は体の中に魔力が戻っていく感覚を覚える。
「………!」
「感じた?その魔力が体中で動く感覚を掴めるかが大切になるんだけど、君要領いいね〜!……そして最後のステップは、その体に感じる魔力の流れをどんどん速くしていきまーす。」
「速くって、どうやって?」
「さっきの魔力溜めと解除を交互にやって、少しずつ魔力の流し方を体に覚えさせるの。こればっかりは練習あるのみだね。やってく内に魔力の制御の仕方も分かってくると思うよ?」
「おっしゃ!どんどんやるぜぇ!」
「あ、でも最初はやり過ぎると危ないからねー。君みたいな【出力】お化けがやると………」
チヅルが忠告する中で溜めと解除を繰り返すマキは、次第に体全体が赤く発光していく。嫌な予感がしたマキは、恐る恐るチヅルを見る。そして、いつの間にか距離をとっていた彼女は笑顔で答えた。
「…魔力が暴走して爆発するから〜。」
「せ、先生……?……っ!?ぎゃあ〜〜っ!?」
チヅルの言葉通り、マキは全身から強烈な炎を放ち、即刻意識を失った。
「……お、目が覚めた。今度は1時間で起きれるなんて、やっぱり凄い【回復力】だね!」
マキは先程と同じ訓練場で意識を取り戻し、辺りを見回した。
「…あれ、先生?…俺はなんでこんな所に……ってそうだ!訓練中に爆発したんだった。
「そう、君が爆弾になってね。」
「くっそー、なんでこんなすぐに気絶しちまうんだ?」
「その疑問、お答えしましょう!まずは昨日のおさらいから!対魔隊員の魔法の強さを調べる際に必要な三大要素があったと思うんだけど覚えてるー?」
マキは最初は悩んだものの、すぐに昨日のカイリとの昼休憩の時間を思い出した。
「【魔力量】、【出力】、【回復力】だったっけ?」
「正解!【魔力量】は単純に個人が体内に保有出来る魔力の容量の事で、人によって一回の戦闘で使える魔法の回数が決まるものだね。そして本命である二つ目の【出力】は、個人が扱える“一度の魔法の規模”の事。」
「規模?」
「端的に言えば、【出力】は一度に放出可能な魔力量を指す言葉ね。水で例えれば分かりやすいかな?【魔力量】が貯水タンクだとすると、【出力】はそのタンクに入った水を放出する為の蛇口ともいえる。蛇口は口の太さや圧力によって、放水出来る水の量と強さも変わってくるでしょ?」
「…ほう!」
「魔法も同じで、出力が高い人ほど魔力を放出する為の蛇口が太く、圧力が強いの。だから、範囲が広くて強力な魔法を使いたい場合、この【出力】が高くなければ、どんなに【魔力量】が多くても、【出力】次第じゃ発動すら出来ないのよね〜!」
「…つまり………?」
「あれ〜?」
チヅルは分かりやすいか説明したつもりであったが、呆然とし首を傾げるマキを見て微妙な面立ちになった。
「つまり、強い魔法を使う為には、【魔力量】、【出力】の両方が高くないといけないって事!そして【魔力量】の少ない君は、その高すぎる【出力】を抑える訓練も大事って事っ!!」
すると、マキはピンと来たのか手を叩く。
「……お〜、何となく分かって来たぜ……!畑に水を撒く時、皆は沢山の水をバケツに入れてホースを使って撒いてるけど、俺は少ない水をでかいバケツに入れて、そのまま勢いよくぶち撒けてる感じだ!だから今度はそのバケツの水を少しずつ優しく撒いていくといいって事だな!?」
「……うん、まあそんな感じ!(結局水の話伝わってるんかい!!畑で例えればよかったのか……!)」
あまりの独特な理解に、チヅルは今後の教え方に見直しが必要であると気づく。
「魔力量と出力についてはある程度分かったけど、三つ目の【回復力】ってのは?」
「【回復力】は魔力の自然回復の度合いを示す言葉だね。水が少なくなって、……バケツ(だったっけ?)…に水を補給すると思うけど、それが1時間にどれぐらいの水を補給出来るのかによって値が変わって来ます!」
「あー、なるほどな〜!」
「(よし、今度はいい感じだ!)……エヘン!普通の人は魔力切れの場合、全ての魔力が回復するまで丸一日かかるのが普通なんよ。マキ君の場合は元々の魔力量が少ないのもあるけど、ほんの数時間でほぼ全ての魔力を回復出来るから、【回復力】はめっちゃ優秀って事になる。【回復力】が高くても特にデメリットとかは無いから、これは単純なアドバンテージって言えるかな!」
「よっしゃ!」
「……って訳だから、始業までここで魔法制御訓練をやりまくるって訳よ!今度は魔力の溜めを少なめに抑えつつ、体全体に流す訓練も重ねてやってくよ〜!」
「おっす!」
こうしてマキはチヅルの監督の下、授業までの時間で魔法制御訓練を続ける事となった。その際、何度か魔力暴走による爆発があった事は記すまでもない事である。