第5話 落ちこぼれ
入学式の翌日。帝対では本格的な授業が始まった。普通科では学科の通常科目の他に、他学科の基礎科目も受ける事となっている。通常科目は主に各クラスの担任が担当し、他学科の科目はそれぞれ専門の教師が担当する。
日組の初日の一限目は「能力基礎」で、担当は担任のチヅルである。案の定チャイムの数分後に半目で教室に入って来たチヅルは、未だ眠気の覚めぬままに板書を始めた。
「まー、初っ端は能力の基礎知識から始めますか。果実を取り込んだ人間は特殊な力、通称【魔法】に目覚める訳だけど、その属性は様々あります。まずは多くの人間に現れやすい【基本属性】から、火、水、土、風、雷の5つで、これらの基本属性の内一属性は必ず発現すると言われています。」
チヅルは人差し指を立て、小さな火を出して見せる。すると、今度は黒い霧の様な小さなモヤを指から放出した。
「次に、【特殊属性】が泥、影、氷、植、光、闇の6つ。私が今使ってるのは影属性ねー。これらは基本属性の強弱、もしくは基本属性同士の適性比率が関係していると言われていて、生まれながら使えるのは一部の人間のみです。ここまでで何か質問ある人ー?」
「では、特殊属性は全員使える訳ではないのですか?」
1人の生徒の質問に対し、チヅルは「待ってました」と言わんばかりに得意気な笑みを浮かべる。
「はい、良い質問頂きました!確かに、生まれつき特殊属性を扱える人はごく僅かだけど、実は、全員が後天的に使える様になる可能性がありまーす!それは〜…」
「(((それは……?)))」
「……今はまだ教えませーん!」
「(((言わないんかい!……というか勿体ぶるの好きだなこの人……!!)))」
「ごめんごめん、皆そんな恨めしそうな顔しないで〜!まずはもっと基礎知識を学ばないと理解が難しいから、また今度ね!」
それからチヅルは再び授業を始める。その後3つの授業が終わると、ようやく昼食の時間となった。クラスメイト達が食堂に向かって行く中、弁当を持参したマキとカイリは2人で机を並べて昼食を取っていた。突然マキは頭を抱える。
「どうしよう。どの授業も全っ然分かんなかったー!」
「確かに、初日してはレベル高かったかも。」
「対魔隊になるのってこんな大変なのかよー……。」
「…でも、1限のチヅル先生の授業は凄い分かりやすかったよね?」
「そうだっけ?1限ってどんな事やったっけ?」
「じゃあちょっと復習してみよっか?能力者の実力を測る基準として、大きな3つの要素があったけど、それはなんだったでしょう?」
「えーっと〜…何だったっけ……?」
「……正解は、【魔力量】・【出力】・【回復力】だね。でも、確かこれって学力試験にも出なかったっけ?」
「ギク……ッ!」
「…え……?」
「実は……。」
マキはカイリから目を逸らす。しかし、次第に腹の居所が悪くなり小声で事情を話し始めた。
時期は入学前に遡る。
マキの久遠寺家歓迎パーティーから3日後、入院時に話した養子縁組承諾の話をマキ自身からアラタに伝え、正式に久遠寺の性を名乗る事が決まった。
それから翌日。3人が朝食をとっている中、アラタがマキに告げる。
「マキ君。5日後、学校に行くよ。」
「え?」
「ほら、対魔隊に入るための養成学校だよ。来年より今年度の方がいいだろう?そう思って、マキ君が入院中に入学手続き終わらせておいたから!」
「おお!でも、確か入学って4月の頭だろ?こんなギリギリで手続きしても間に合うものなのか?」
「ま、十中八九遅いだろうな。」
マキの質問に対し、横に座るハナが答える。
「通常、入学手続きなんかは昨年の末までには終わっていて、能力測定以外に何か特別な試験が課される事はない。だが、一部様々な理由で手続きの遅れた者のために追加人員を取っている事があって、恐らくその枠だろう?」
ハナの言葉にアラタは「その通り」と言わん様に頷く。
「ハナの言う通り、追加枠でギリギリの手続きになっちゃったから、特別に試験が課せられるんだ。」
「試験?」
「そう。試験は主に学力試験と測定試験、そして実技試験の3つで構成されている。その試験の点数次第で入れる学科が変わってくるから、非常に重要になるんだ。あの時のマキ君の活躍振りを見るに、測定試験と実技試験は問題無いと思うけど、問題は……」
「学力試験……!」
「その通り。君は5歳の頃から孤児で初等教育を一切受けていない。……その為、これからの5日間は僕とハナで……」
「みっちり扱いてやる。覚悟しろよ?」
「……おっす!任せろ!」
それから2日後。
「……つまりだな?世界崩壊以前の文献は殆ど残っておらず、崩壊以前から生存していた人間の証言は非常に貴重な歴史資料であるため………て、聞いてるかー?」
「…………。」
ハナは先程からフリーズしているマキの耳元で叫ぶ。
「おーい!」
「おわ!?」
「『おわ!?』じゃない!先程からノートを書く手が止まってるぞ!」
「……まずい、意識飛んでた……!」
「何?……はぁ……もう一回話してやるからどこからか言え。」
「えーっと……『大樹がいきなり生えたー』、くらいから……?」
「よし……、って殆ど序盤からじゃないか!?ふざけてるのかお前は!?」
「そ、そんな事言われても頭に一つも入って来ないんだから仕方ないだろ!?」
「なんだ!?私の教え方が駄目だって言いたいのか!?」
「そうじゃないけど……ひゃ!?」
マキは鬼の形相で睨むハナにたじろいでいると、突然背後から両肩を掴まれた事に驚き体を跳ね上がらせた。肩を掴んだのはアラタで、何やら怪しげな笑みを浮かべて座るマキを見下ろしていた。
「お、おっちゃん……?」
「マキ君。こうなれば最後の手段だ。」
アラタの不気味な表情に、マキは身震いした。
試験当日、受付をしていた試験監督員が何やら呪文の様なものを唱えながら教室に入っていく奇妙な受験生を見たという噂が入学前の職員会議で話題になったとか……。
時は現在に戻る。
「……えーっと、つまり当日は、短期記憶の連想ゲーム感覚で単語を覚えて行った…てことかな?」
「うん、恐らく。」
「恐らく?」
「俺、不思議な事に試験前後の記憶が一切無くてだな……!」
「あ〜……。」
「…そういう事……。」
マキの話を聞いたカイリは唖然とする。
それから暫く沈黙の時間が流れた後、先に口を開いたのはカイリだった。
「僕もマキ君と同じ様に直前の入学手続きで、学力試験の勉強沢山したからちょっと気持ち分かるんだ……。も、もし授業で分からない事があったら、僕でよければいつでも聞いてよ。…と、友達だし……!」
「お!本当か、助かるー!」
「…ふふ……!」
カイリは目を輝かせながら感謝するマキを見てマキは微笑んだ。
昼食後、日組の生徒は「能力基礎:演習」の授業のため屋外の訓練場に来ていた。案の定遅れてやって来たチヅルは生徒を一箇所に集める。
「はいはーい。第一回目の演習は何人かに模擬戦をして貰おうかな。…て事で、この中で魔法や戦闘に自信のある人ー?………まあ、皆戦闘経験なんてないだろうし、多分誰も手挙げないだろうから……」
「はい!」
誰も手を挙げない中、唯一挙げたのはメイだった。メイは昨日の事から名誉挽回を図っており、声に気合いが入っている。
「お、積極的だねー。…うん。メイは【魔力量】・【出力】・【回復力】ともにバランス良くて優秀だし、元々参加してもらおうと思ってたから助かるよ。じゃあ、後はこっちが参加して欲しい人を呼んでいくからよろしくねー。」
それからチヅルに呼ばれた数人が模擬戦場に行き、呼ばれなかった者は少し離れた場所で見学する事となった。マキは勿論見学組である。
カイリは隣に座るマキの様子を横目で窺うと、マキは魂が抜けた様に項垂れていた。
「マキ君、大丈夫?」
「……まあ分かっちゃいたけどな!そう言うカイリは戦闘苦手なのか?」
「うん。僕は皆と比べて“三力”全部が並以下だし体も強くないから、正面からの戦闘には不向きなんだって。マキ君はどうなの?」
「なんか【出力】と【回復力】……だかがとびきり良いらしいんだけど、【魔力量】が低いんだってさー。」
「そうなんだ。でも出力と回復力が高いんだったら戦闘得意そうなのに、どうして呼ばれなかったんだろ?」
「まあ、それにも色々理由がありましてー……。」
「…そっか……。でも、まだ授業初日だよ!?帝対に入れたって事は、マキ君にも才能があるって事だからさ、これから一緒に頑張ろう!」
「うぅ〜!お前良いやつだなぁ、ありがと〜……!」
カイリの励ましの言葉に感激したマキは涙を流す。そうしているとすぐに、選出された生徒達よる模擬戦が始まった。ルールは一対一の決闘形式で、勝敗は降参、もしくはどちらかが戦闘続行不可能だとチヅルが判断した場合に決まる。
模擬戦の様子はというと、魔法主体で戦う者、剣や刀といった武器主体の者、またそれらをバランスよく扱う者といった様に、戦闘スタイルは生徒によって様々であった。
マキとカイリは、クラスメイトの白熱した戦いを目の当たりにして唖然とする。
「ちょい待て!皆昨日入学して来たばっかだよな!?」
「うん……!でも、多分彼らは帝対附属の学校に通っていた人達だよ。養成学校に入る前に、魔法や戦闘の訓練をしていたんだと思う…!」
「ほー、そんな所があるのか。お前は行ってなかったのか?」
「うん。…あそこ学費が凄い高いから……!」
「じゃあつまり……」
「つまり模擬戦している奴らは金持ちのボンボン達って事なの。」
突然2人の会話に、マキのもう片側の席に座る少女が参加して来た。
「お前確か、淵野翠だったっけ?」
「ミドリでいいの、よろしく。……話によると、魔法能力は3〜4歳の幼少期に発現させて訓練する事で、平均よりも高い能力値になるらしいの。で、幼い時期から果実を手に入れられるのは内縁部の中央地区だけだから、一部の富豪と軍属家の子供は生まれながらに勝ち組なの。」
「へー、だからあんなに戦えるって事かー!」
「そうなの。…だから、彼らは私達とは住む世界が違うの……。」
「“住む世界が違う”って、どういう事だよ?」
「遅れて能力を得た私達落ちこぼれと彼らでは、入学時の土俵が違うの。特に最近徴兵された、私みたいな外縁部出身の“ネズミ”は、生まれた時から一生追いつけないし見下される運命なの。」
そう呟いたミドリは暗い顔をして俯いた。それを見たマキは首を傾げる。
「うーん……。じゃあ、“追いつけない”、“見下される”って分かってて、どうしてお前は帝対に入ったんだ?……あ、確か自己紹介の時に言ってたな。“対魔隊員になって戦果を上げて、家族と内縁部で暮らす”だったっけ?」
マキの問いかけにミドリはこくりと頷いた。
ミドリは外縁南部の内縁部間際の地区の出身だった。ドームの境界で育った彼女は、内縁部の人々による見下す様な視線を直に浴びてきた。そんな彼女が帝対に来たのは、優秀な対魔隊員になって家族を内縁部に移住させるためであった。
「中級上位以上の優秀な対魔隊員の特権の中に、内縁部の移住権があるの。…入学して、例え私が惨めな思いをしたとしても、もう二度と同じ様な思いを家族にさせたくないの!」
「…そっか……。」
マキはミドリの訴えを聞き、過去の自分を思い返していた。果実を食べ能力が発現しなかった自身に対し、“不気味だ”、“呪いだ”などと言い、蔑んで来た人々。物心がつき始めであったが、未だにマキの脳裏には彼らの見下した様な顔が鮮烈に刻まれている。ミドリはそんな彼らの顔を幼少期から今まで何度見てきたのだろうか。マキは想像すらしたくなかった。しかし彼は同時に、それでも、何とか自身の現状を変えようと彼女が必死に努力し続けて来た事を先程の言葉からひしひしと感じ取っていた。そして、頑張って来たのが自分だけではない事に気づき、マキは自然と心が奮い立つ様な気持ちになった。
マキはニッと笑い、ミドリの肩を力強く叩いた。
「……いいじゃん!」
「え……?」
マキは闘技場を指差す。
「だって、あいつら天才なんだろ?こんな高レベルな環境で学べるなんて願ってもない事だぞ。燃えてくるだろ!……ミドリ、絶対にあいつら追い越すぞ!」
「だから無理なの…!」
「やってみなきゃ分からないだろ!…そんなに疑うんだったら、俺がクラスで1番になって、落ちこぼれでも天才に勝てるって事を証明してやるよ!」
「…そんなの出来る訳……。……っ!?」
ミドリはマキの自信に溢れた顔を見て、その後の言葉を止める。そして、彼は自身がいつの間にか忘れていた、あるいは向き合う事をやめた“何か”を持っている様な気がしたのだった。そしてまた不思議と、「この人なら出来るかもしれない」と思わせる力をマキに感じたミドリの表情には、自然と微笑みが生まれていた。
「……分かったの。そんなに言うなら見せてもらうの。マキ“ちゃん”。」
「おっす!………ん?“ちゃん”?」
「うん。マキちゃん、今度私の寮の部屋に来てなの。ガールズトークしようなの。」
マキはミドリに背を向けて頭を抱える。
「だ〜か〜ら〜!俺は男だって〜!!」
「マキ君……。」
「おい、まさかカイリまで俺を女だと思ってたのか……!?」
「いやいや!僕は最初から男の子だと思ってたよ……!」
「おぉ!よかった〜!」
マキは涙目でカイリの両手を握った。カイリは笑いながら目を逸らす。
「あはは……!(危ない…っ!今まで同性だと思って話してはいたけど、「実は女の子だったらどうしよう」ってちょっと考えてた事は内緒にしとこう……!)」
3人が仲良く話していると、模擬戦場からチヅルの手を叩く音が聞こえる。
「はいはーい!そこの君達うるさいぞー。静かに見学しろーい!」
彼女の言葉を聞いた3人は背筋を伸ばし、視線を模擬戦へと戻した。どうやら今日最後の模擬戦らしく、見学者全員が注目している。
「早くも汚名挽回の時が来ましたわね!」
最後の試合を任されたメイは、訓練用のレイピアを鞘から勢いよく抜いた。そんな張り切るメイを他所に、彼女の対戦相手である少女は非常に落ち着いており、静かに両腰の短剣を抜いて構えている。
「あ、あいつは……!」
マキは対戦相手に目をやる。メイの相手は帝国御三家の一つである園崎家の娘、ミユであった。
「恐らくあの2人がクラスの二強なの。」
「あ、始まるみたいだよ!」
カイリの言葉通り、チヅルの「始め」の声とともに戦いが始まる。メイはレイピアの剣先の方向をミユに定める。
「さあ、園崎家より鴨入家の私の方が上って事を証明して差し上げますわ!さあ、来なさい!」
「………。」
メイの挑発にミユは眉一つ動かさず相手を見つめ続ける。
「さあ、どうしましたの?来ないなら私から行きますわよ!?」
「……るさい。」
「何ですの?」
ミユはため息を吐いた。
「うるさいって言ったの……。そんなに言うなら貴女から来たら?」
ミユの返しの挑発に対して、メイは眉を顰める。
「ならお望み通り!!」
言葉と共に走り出したメイは、高速でミユの側まで接近しレイピアを突き出す。するとミユはレイピアが当たる直前に双剣で受け流すと、体勢を低くしてメイの懐に潜り込んだ。
「そのカウンターは読んでましたわ!」
メイはそう言うと、魔法で足に風を纏わせ跳躍する。そのまま宙返りでミユの背後を取ると、空中からミユの首を狙いレイピアを構えた。
「(挙動と軌道の読みにくい風魔法での跳躍……。もし躱されたとしても、足にはまだ風魔法を纏ったまま。空中機動からの2連突きでチェックメイトですわ!)」
勝ちを確信したメイは口角を上げながら、剣先をミユに突き出す。
しかしだった。自信よく突き出したレイピアはミユに触れる事なく停止する。
「………っ!?」
メイは最初何が起こっているのか分からずにいたが、すぐさま状況を理解する。なんと、剣先が地面から生えてきた氷に覆われていたのだ。厳密にはミユの足元から出ている氷である。
「氷魔法!?……ぐふっ!」
すると突然、メイは下腹部の激しい痛みを感じるともに、仰向けで地面に体を打ちつける。自身が攻撃された事に気付いたメイはすぐさま起きあがろうとした。しかし、同時にそれが不可能な事にも気付く。既に自身の上にはミユが居り、首元に短剣を突きつけられているためである。
メイは悔しさで唇を噛み締めたた後、「参りました……。」と降参を告げた。
「はい、勝者は園崎美優ー!」
チヅルはそう言って拍手すると、それにつられた他の生徒も拍手を始めた。
「いやー、良い試合だったよ!2人とも1年生でこんなに戦えるなんてさ。先生びっくりだよー!」
メイとミユは戦闘態勢を解き、両者武器をしまうと、メイは悔しそうにミユを指差す。
「園崎美優!次は絶対勝ちますわ!これからは私のライバルよ!」
しかし、ミユはそんなメイを気にも留めずにチヅルに話しかけた。
「先生。」
「ん、どしたー?」
「私を飛び級させてください!」
ミユの突然の提案にチヅルは目を丸くする。
「どうしたんいきなり?」
「私は早く実戦経験を積みたいんです!こんなレベルの低い人達と過ごす時間なんて私にはない。せめて、2年生の実戦訓練に参加させてください!」
「んー、無理。」
チヅルの即答にミユは眉を顰める。
「……何故ですか?」
「だって〜、私教員一年目だし。新任のクラスの飛び級申請なんてまず通らないよー。」
ミユは笑って返答するチヅルに睨みを利かせ、ため息を吐く。
「それにさ……」
「もういいです……。直接教務課に言いに行きます……!」
ミユはそう言って頭を下げ、訓練場を後にしようとする。そんなミユを見たメイは、急いで走り彼女の前に行き行手を阻む。
「待ちなさい!“レベルの低い人達”って、私の事は眼中に無いとでも仰りたいのかしら!?」
彼女の言葉にミユは再び深いため息を吐く。
「はぁ……。どいてくれるかしら……?」
「まだ勝負はこれからですわよ!」
「うざい……。」
「………!?」
「貴女とこれ以上一緒に居ても、私には何のメリットも無いの。…それに確か貴女、“対魔隊の頂点に立つ”とか自己紹介で言っていたわよね?」
「それが何かおかしいかしら!?」
「いえ?高い志の割には、器の低い人だなって思っただけよ……。」
「何ですって!?」
「どいて。貴女の様な程度の低い人とライバルなんて死んでもごめんだわ……。」
「この………!」
怒ったメイはミユの襟を掴む。すると、すぐさまその手は払いのけられ逆に襟を掴まれると、メイは地面に勢いよく投げつけられた。
「か……は…………っ!!」
メイは背中を強打し、その場でうずくまり震え始める。そんな彼女の様子を気にかける事なく、ミユは無言で訓練場の出口に歩き始めた。
「おーい、大丈夫か?」
「ぅ……ぐす………っ!」
チヅルは涙を流し震えるメイを起き上がらせて介抱する中、ミユを呼び止める。
「ちょいとお待ち。申請が難しいのは私が新任だからって言ったけど、全然それだけじゃないからね。」
チヅルの声にミユは退出する足を止め、振り返る。
「悪いけど、もし私が教務課だったらあんたの申請は通さないかなー。」
「は……?」
「流石に入学翌日に飛び級申請なんて通す訳無いっしょ〜。まだまだ経験が浅すぎるもん。そんなんじゃただの足手纏いになるだけだからやめときな?」
「……戦闘能力は申し分ない筈ですが。」
チヅルは頷く。
「うん。戦闘だけだったら間違いなく【下級一位】……いや、【中級】の下位はあるよ。…でもそれだけ。まだあんたが対魔隊の規則の下、チームでやっていけるのかどうかとか分からんし。」
「そんなの、実戦の中で覚えていけばいいだけの話ではないですか……!?」
「…うん、分かるよその気持ち。“1番大切なのは自分自身の強さ”・“他は後からついてくる”って……、私も昔は思ってたよ。…でもどんなに才能や実力があっても、人ってね……死ぬ時は一瞬なんだよ……。」
「…………!」
チヅルの曇った瞳を見たミユはたじろぎ、唾を飲み込む。しかし、チヅルはすぐに先程の明るい表情に戻った。
「……ま、という訳だから、この話は一旦保留って形で、前期の期末試験後にまた相談しようや!」
「…分かりました。今は我慢します……。」
「“我慢”かー……。あんた、さっきこのクラスの他の生徒は“レベルが低い”って言ってたよね?」
「はい。」
ミユの返答に、チヅルはニッと口角を上げる。
「うーん。それはどうかなー?結構有望揃いだと私は思うけどね?……お、噂をすれば……!」
ミユはチヅルの目線を追い、その方向に顔を向ける。すると、観客席からこちらに全速力で走ってくる者がいた。その者はミユの前で急停止して叫ぶ。
「園崎美優!!」
「………!?」
余りの迫力に驚いたミユは一歩後退りする。
「(何、このちんちくりんな子…!女…いや、男……?)」
「お前強いな〜!俺とも勝負してくれ!」
「はぁ……!?」
ミユは少年(?)の突然の申し出に思わず驚きの声をあげた。