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破魔のマキ  作者: すんし
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第4話 入学

 時は少し経過し、西暦2044年4月6日。

 帝都東京は新学期の時期となり、街中は多くの学生で溢れかえっている。

 その中でも一際目立つのは【国立帝都対魔学園】の制服である。帝都には民間も合わせていくつかの対魔隊員の養成学校があるが、特に【()()】は国家直属の施設であり、世界最高峰の養成学校と称されている。特殊な素材で作られた制服は、正式隊員に引けを取らない防護性と機能性を備えている。帝対では識別の為に学年毎に制服が色分けされており、今年は3年が赤、2年が緑、1年が青となっている。



 登校時間のピークが過ぎ、街から学生が消え始めた頃。帝対の最寄り駅を勢いよく飛び出していく者がいた。

「やべぇ電車乗り過ごしちまった!駅から何分だこりゃぁ!?…っていうかどっちに行けばいいんだ!?」

 青色の制服に身を包み、赤い前髪をたなびかせた小柄な少年は、手に持った地図を睨みながら、キョロキョロと辺りを見回す。すると、同じく駅を出て学校へと向かう、眼鏡をかけた青色の制服の者を見つけ、少年はその者の後を追いかけた。

「おーいお前!」

「ひゃ、ひゃい…!?」

 突然声をかけられた茶髪の少年は、身を震わせながら恐る恐る振り返る。

「学校ってこっち!?」

「…お、恐らく……。」

「お〜サンキュー!丁度迷ってたから助かったわ!早く行こうぜ!」

「わわ……!ま、待ってくださーい!」



 2人は何とか定刻前に校門を潜り抜ける。

「よし!到着ぅ!!」

「はぁ…!はぁ……!…え、あんなに走ったのに何でそんなに元気なの……?」

 両膝に手を置き息を切らす茶髪の少年に比べ、もう1人の少年は気持ち良さそうに体を伸ばしていた。

「お、そうだ。お前名前は?」

「…え、僕はカイリ。【工藤凱里(くどうかいり)】…。」

「カイリか!俺はマキ!森羅……じゃなくて"久遠寺"真希。ほら、早く会場に行くぞ!」

 マキはカイリの手を取り式典会場へと向かった。


 

 一方式典会場では式が始まっており、既に学園長が挨拶を行なっていた。

 「…ですので、諸君らは我が国の、果ては世界の希望なのです。ここは世界最高峰の養成学校。諸君らには将来の……」

 

 バタンッ!!


 突然大きな音と共に入退場の大扉が開かれ、学園長の言葉が止まるのと同時に参加者全員が大扉の方を向く。扉からは2人の青い制服の生徒が現れ、辺りを見回し自身の席を探し始めた。

「……ええっと?【普通科日組】は………お、ここか!」

 2人は空いている2つの席を見つけ腰を掛ける。

「ふう……。なんとか間に合ったみたいで良かったな!」

「う、うん……。(え…これ本当に間に合ってるの!?)」

 悪びれる事なく入って来た2人に唖然としながらも、学園長は挨拶を再開した。



 入学式後、新入生達は自分達の教室に移動していた。

 帝対は普通科・後方支援科・開発技術科・研究科・対魔学科の5つの学科が存在し、それぞれで教室の棟が異なっている。

 普通科の棟に入ると、移動中の話題は式に途中参加した2人の事で持ちきりだった。

「(なぁ、あいつらだろ?途中で入って来た奴ら。)」

「(あんないい加減な奴らとクラスが同じじゃなくて良かった〜。)」

「(というか2人とも背ぇ小っさ……!ちょっと可愛いかも…。)」

 前後左右からの視線と噂でカイリは徐々に縮こまりつつあった。

(なんか凄い目立ってる……!)

「カイリ。これから【にち組】同士、よろしくな!」

「あ、うん…よろしく!」

 カイリは視線や噂を全く気にしない様子のマキに戸惑いつつ、日組の教室に入った。


 帝対でのクラスは学科ごとに数が違うが、クラスの名称と、1クラス30人という定員は統一されている。今年の普通科は5クラスで、教室の手前から順に、【にちつきほしうみけもの】となっている。


 教室に入り、偶然席が前後であったマキとカイリは席に着きながらお互いの持ち物をチェックしていると、1人の生徒が2人に向かって歩きだした。

「ちょっと貴方達!?」

「へ?」

 2人が顔を上げると、そこには既に人が立っていた。黒髪のストレートなロングヘアをたなびかせるその女子生徒は2人を睨みつける。

「あれはどういう事なのかしら?」

「"あれ"とは?」

「とぼけないで!入学式に遅れて入って来た事に決まっているじゃない!?」

「ご、ごめんなさい!僕はこっそり裏口から入ろうとしたんですけど…そのー……。」

「フン…!じゃあこっちのおかしな髪色した方が首謀者ね?…貴方、厳粛な入学式に遅れて入って来るだけでなく、表口の大扉から入ってくるなんて非常識にも程があるでしょう?1人のおかしな行動が日組全体の品位にも関わってくる事なのですわよ!?」

 カイリは彼女の鋭い視線に体を震わせている一方、マキは口をぽかんと開けていた。

「何ですのその顔は!?」

「……なぁ、一つ聞いていいか?」

「…何ですの?」

「もしかして、俺達が入って来た時、入学式って始まってた?」

「…は………?」

「悪い悪い!余りにも静かだったんもんだから、まだ始まってないのかと思ってたわ〜!」

 反省した様子も無く笑うマキにその少女は唖然とする。そしてやがて顔を真っ赤にしてマキの額を指さした。

「今日はこのくらいにしておきます!次の行事や式ではしっかりやって貰いますわよ!いいです事!?」

「おう!任しとけ!」

「……では、ごきげんよう!」

 そう言うと少女はマキの前の席に座り、持参していた本を読み始めた。

「あれ、学校着いた時には時間間に合ってたよな?」

「ギリギリね。でもあの後マキ君トイレに行ったから……。」

「…あ、そっか。それで間に合わなかったのか!」

 「「「(あいつ、アホだ………!)」」」

 それが3人の会話を聞いていたクラスメイトの、マキに対する初印象であった。しかし、彼らはすぐに別の問題に気づく。先程からチャイムの鐘が鳴っているが、教員が誰も教室に入って来ないのだ。



 それから15分後、ようやく教室の扉が開いた。

 入って来たのは赤髪の女性で、教壇の前に立つと彼女は大きく欠伸をした。

 「ふ〜……。皆いるー?…うん、いるねー。はい皆入学おめでとー。私は【天原千鶴(あまはらちづる)】。日組担任ですよろしくー。」

 あまりの声の覇気の無さに戸惑う生徒達だが、彼女の名前を聞き忽ちにザワつき始める

「え、天原千鶴って……あの「疾風烈火」の!?」

「【上級1位】の天原千鶴!?引退してたの!?」

 多くの生徒の動揺具合にマキは首を傾げる。

「カイリ。あの人そんなに有名なの?」

「きっと有名なんてもんじゃないと思うよ…。傑物揃いの上級隊員の中でも数少ない最上位の階級で、世界有数と言われる【特別上級】隊員に最も近いと言われてる人だよ。」

「へー。…あ、そういえばエレナって階級幾つなんだろ……?」

「ん、エレナって?」

「いや、昔会った知り合いの人。」

 そんな話をしていると、1人の生徒がチヅルに尋ねた。

「どうして先生になったんですか?」

「え、それは……」

「「「(それは……?)」」」

「…暇だったから。」

「「「(嘘つけ!!)」」」

 すると、先程マキとカイリを問い詰めた少女が手を挙げて質問した。

「私もよろしいですか?」

「はい、お好きにどうぞー。」

「既にチャイムから15分経っていたのですが、遅れて来たのにはきっと訳があるのでしょう。ですが、先程の入学式に堂々と遅れて入って来た2人の生徒には如何なる処罰がくだされますか?」

「え、誰誰?」

「この後ろの2人ですわ!」

 少女は力強くマキとカイリを指差すと、チヅルは2人を見る。目が合ったマキは、彼女がニヤリと笑みを浮かべている事に気づき身震いした。

「…まあ、今回は不問って事で。」

「は?」

「まあ最初だし大目に見ましょうや。さ、今度は皆から自己紹介をしてもらいまーす。出身地と名前と能力、後は好きに趣味だったり目標だったり言ってってー。はいまずは廊下側から!」



 そして黒髪の少女の番になると彼女は勢いよく立ち上がった。

「帝都内縁部【シナガワ】出身、【鴨入芽依(かもいりめい)】ですわ!能力は火属性で細剣術を使います。将来は対魔隊の頂点に立つ事ですわ!どうぞ宜しく。」

「へー、【鴨入グループ】の会長さんに一人娘がいるって聞いてたけど君の事かー。じゃあ次の人ー。」

 「来た。」そう言ってマキは笑顔で席から立ち上がった。

「帝都外縁西部【27区】出身……って事になってるのかな?とにかく俺は久遠寺真希!能力は火属性で、今の所素手!夢は対魔隊員になって魔物を全員倒し、世界を平和にする事!皆よろしくー!」

「素手かー、面白いね!はいよろしくー。」

 すると、マキの自己紹介を聞いたメイが高笑いをした。

「なんだ?」

「アッハッハ!貴方、外縁部出身ですのね!どおりで時間にルーズな筈だわ!…それに何ですの素手って。品位の欠片も無いですわね!こんな『ネズミ』と一緒の部屋で学ぶなんて私耐えられないですわー!先生、せめて今すぐに席替えを要求します!」

 メイの言葉と同時に、周りの生徒もマキに冷たい視線を送り始める。実際はマキは内縁部出身である。しかし、「とある理由」で内縁部の戸籍が見つからず、実際に徴兵された外縁部のデータしか存在しない為、入学手続きの際に形式上外縁部出身となっているのだ。

 マキは予めアラタやハナに「学校では外縁部差別があるかもしれない」という話を聞いていた。その為特に驚く事は無く、「やっぱりか〜」と呟き小さくため息を吐いた。

 すると、チヅルは不敵な笑みを浮かべてマキのいる方を見た。

「はい、じゃあ退室してくださーい。」

「ほら聞きましたか?さっさとネズミは出て行きなさい。」

「いやいや、君に言ってるの。」

 そう言ってチヅルは指を差す。しかし、その指の先はマキではなくメイに向いていた。

「……は?どうして私ですの?」

「だって、彼と一緒に学びたくないんでしょー。じゃあ出て行くしかないじゃん?」

「であれば、後ろの者が……」


「え、それ本気(マジ)で言ってんの?」


 チヅルのメイへの返答に、教室内の空気が一瞬凍りついたのを全員が感じた。

「いいかい、鴨入の箱入り娘様?なんで私が自己紹介の時に出身地を名乗る様に言ったか分かる?別に差別して欲しいからじゃない。この学校は生まれも育ちも関係なく、本当に優秀な才能が集まっているって事を一人一人が自覚して欲しかったからだよ。」

「…ですが先生……」

 次の瞬間、チヅルの顔から笑みが消える。

「まだ分からない?外面からでしか人を判断出来ないような、薄っぺらい差別主義者は要らないっつってんだよ!」

「………っ!」

「因みに、私の学生時代の友人にも外縁部出身が居たから、これ以上言うと私の友人への侮辱にもなるからね〜?そこんとこよろしく。…どう?退室するー?」

「……いえ、残ります………。」

 メイの言葉を聞いたチヅルは表情を緩ませる。

「よろしい!…というより前提として、私がチャイムに遅れて来たのは単純に入学式の眠気を引き摺って昼寝してただけだから、あんまり気にしなくていいよ〜。はい、じゃあ次の人。自己紹介よろしくー。」



 それから暫くして、ある生徒の番になった。チヅルは名簿を見ながら面倒そうに頭を掻く。

「このクラス、五十音順上の方に名前固まりすぎじゃね?…はいじゃあ次の人ー!」

 チヅルの声を聞き、少女が静かに立ち上がる。すると、全員が注目していたのか、彼女の方に顔を向けた。

「…帝都内縁部【シンジュク】出身、【園崎美優(そのざきみゆ)】。能力は氷属性、双剣術。以上。」

「ちょっとお待ち、将来の夢とかないの?」

 席に座ろうとしたミユをチヅルは呼び止める。すると、ミユは座るのをやめた。

「夢ですか……?夢というより、目標ならあります。……私の兄を殺した、『一本角の人型魔物』を仕留める事です。終わります……。」

 そう言い残し静かに席に座り目を閉じた。


 全員が注目していたのには理由がある。この世界の大日本帝国は【皇帝】制である。しかし実態は合議制で、特に有力な一族である三家が取り仕切っている。1つは政治権力の強い【國神家】。2つ目に国内産業を取りまとめる【一文字家】。そして、3つ目が軍事的権力の強い【園崎家】であり、これら【御三家】の中で1番強い権力を持っているのがミユの家の園崎であった。園崎家は生まれながらに果実への適性が高く、優れた対魔隊員の数多くが彼女の一族である。


「なあ、カイリ。あいつそんなに有名なの?」

「今日そのやり取り2回目だね……。彼女は御三家である園崎家の人間でさ、あの家の人って皆優秀って話だよ?」

「ふーん……。」

 マキは目を瞑って座り込むミユを見る。すると、マキは彼女の持つ独特な「何か」を感じ取り、目を離さずにはいられなかった。

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