ゾンビ令嬢、自らを婚約破棄した伯爵令息に亡者の群れを率いて復讐する
「パトリシア・マルトー! お前との婚約を破棄する!」
ある日の夜会で、伯爵家子息のジョナス・グリード様からこう宣言された時は頭が真っ白になった。
ジョナス様の隣には、男爵令嬢のヘレン・メディルがしなだれかかっている。
「お前は子爵令嬢という立場を利用して、このヘレンに数々の罵倒、嫌がらせをしたと聞いている。それらは全て公式の証言として記録された。お前のような女と結婚することはできない!」
ヘレンへの嫌がらせなど、まるで身に覚えのないことだった。
むしろ彼女の方こそ私を見るなり遠回しに嫌味を言ってきたことを覚えている。
「あらパトリシア様、どんなおめかしをしても印象が変わらないというのは羨ましいですわ」
「あなたを見ていると、貴族令嬢として自信がつきます」
「あなたがジョナス様と婚約できたことは、全国の女性に希望を与えたでしょうね。自分にもチャンスがある、と」
――こんな具合だった。
しかし、いくら抗弁しても聞いてもらえない。
きっとヘレンから色々吹き込まれている上、ジョナス様自身もヘレンに気がうつっているのだろう。
「パトリシア嬢、最低だな……」
「もう社交界に居場所はないわね……」
「ヘレン嬢がお気の毒だ」
周囲の出席者も私を罵倒し始め、私は夜会から逃げるしかなかった。
事前にヘレンが私の嫌な噂をばら撒いていたに違いない。
その後、私は家族からも罵倒された。
「公衆の面前で婚約破棄されるとはなんという恥さらしだ! お前はマルトー家の名を汚した! 愚か者めが!」
父も私を全くかばってはくれなかった。下手にジョナス様に抗議するより、私を悪者にした方が手っ取り早いと踏んだのだろう。私の他にも有望な息子や娘はいるし、元々さして期待されていなかった。自分は切り捨てられたことが分かった。
婚約者も、第三者も、家族でさえも、味方は一人もいない。
絶望した私は自室に小刀を持ち込み、自分の首に突き刺した。
痛い。
鮮血が流れ出る。これは私の命そのもの。
流れ出ていく命を見ながら、私は考える。
私の人生は一体なんだったのだろう。
みんなに嫌われ、嵌められ、見捨てられ、一人寂しく死んでいく。
悲しいというより悔しかった。
私がいなくなった世界で、生きている人間はみんななるべくひどい死に方をしますように、と呪った。
意識が薄れていくのを感じた。
***
暗い。
どこだろう、ここは。
私は自分の首を小刀で刺したはずじゃ。あれは夢だったのかしら。
自分の状況を確認する。私はどうも狭い箱のようなものに閉じ込められているらしい。それも横たわったまま。
すぐに分かった。私は棺の中にいるんだ。
小刀で首を刺した私はそのまま倒れ、死んだものとして棺の中に入れられてしまったが、蘇生してしまったのだ。
とにかくここから出たい。出なければ。私は横たわったまま手を上に押し上げた。棺の蓋を開けたい。
「んんん……」
力を込める。なかなか蓋は持ち上がらないが、それでも諦めず力を込める。
やがて、蓋が開いた。私ったらこんなに力持ちだったなんて。両手で土を掘ると、数センチほど掘ったぐらいで私は地上に出ることができた。
夜中だった。
棺から出てくるにはおあつらえの時刻といえる。
場所は当然だが墓地。しかし、私が知っている墓地とはまるで雰囲気が異なる。
私が知っている墓地はきちんと通路が整えられ、美しいとさえいえる墓石が並び、霊魂が安らかに眠れそうな場所だった。
だが、目の前に広がる光景は――
ひどく荒れ果てている。墓石や墓標のようなものが乱雑に並んでおり、あちこちにゴミや廃材が散らかっている。
しばらくして私はここがどこか分かった。
「“三等墓地”だ……」
王国の墓地には一等墓地、二等墓地、三等墓地の三種類があり、一等墓地には王侯貴族が眠ることになる。二等墓地は平民たちの墓地。
そして三等墓地は、犯罪者や行き倒れた浮浪者、なんらかの原因で家族と一緒の墓に入れなくなった者たちなどが埋葬される墓地である。ようするに「まともに弔ってやる価値もない者達の墓地」ということ。
私は家族から、そんな墓地に埋葬されていたのである。私の遺体を発見した時の家族のやり取りが目に浮かぶ。
「おい! パトリシアの奴、自殺したぞ!」
「面倒ねえ……三等墓地にでも埋めてしまいましょう」
「恥さらしに、我が家の墓に入る資格はない!」
棺の蓋を簡単に開けられたのも、やけに浅く埋められていたのも、理由が分かった。
私の遺体は安い棺に入れられて、雑に浅く掘った穴に埋められていたのだ。
私は生きてる時も、死んだ後も雑に扱われていた。
「ハハ、ハハハ……私ってなんなの……」
僅かな星明りだけがある暗闇の中、荒んだ墓地をとぼとぼと歩く。
蘇生はしたが、このあとどうやって生きていけばいいというの。家に帰って「生き返りました!」と言ったところで受け入れてもらえるわけがない。
私は適当な大きさの石を見つけて、しばらく座っていた。
すると、手鏡が落ちていることに気づく。誰かが捨てたのだろうか。ふと今の自分がどんな顔をしているか気になり、鏡を覗いてみる。
――私は絶句した。
髪がボサボサなのは当然として、肌は土気色をしており、ところどころひび割れ、まるで生気を感じない。
首には私が自分でつけた傷がエンバーミングさえされず生々しく残っており、そこからは一滴の血も出ない。
そういえば、さっきから肌に感覚がない。今暑いのか寒いのかも分からない。棺から這い出る時はかなりの重労働だったはずなのに全然疲れていない。
「なにこれ……まるで、これは……」
私はある単語を思い浮かべた。
ゾンビ。
王国に流通している小説などに登場する、動く亡者。まるであれではないか。
蘇生したわけじゃなかった。私はもう死んでいたのだ。そして、なぜか蘇ってしまった。ゾンビとして。
婚約破棄され、家族からも見捨てられ、世を呪いつつ自死を選んだ私はゾンビになってしまった。
「これからどうしろというのよ……!」
私は笑った。狂ったように笑い続けた。
ずっと笑っていたら、発狂でもしてくれないかと期待しつつ笑った。しかし、ゾンビのくせに頭ははっきりしている。自分の笑い声が聞こえることから聴覚も健在のようだ。
同時に、何か意味不明な単語の羅列が脳裏に浮かんでくる。それも静かに、重く、強烈に。
何らかの呪文といった印象を受ける。
もしかすると私が目を覚ました時からずっと浮かんでいたが、私が自分をゾンビと認識したことでより鮮明になったのかもしれない。
私は、私が埋まっていた箇所の隣にあった粗末な墓標に目をやる。
そして、“呪文”を唱えてみる。
すると――
土がうごめいた。
不思議と驚きはなかった。なんとなくこうなる気がしていた。
地中から人が這い出してくる。若い男だった。私より腐食は進んでおり、片目は崩れている。しかし生前はハンサムだったと想像がつく顔立ちをしていた。
「おはよう」
私がこう言うと、男もきょとんとした表情で「おはよう」と返してくれた。
なぜかとても嬉しかった。
私は軽く自己紹介をした。名前と身分はもちろん、婚約破棄をきっかけに全てを失い、ゾンビとして蘇ったことを。そして、脳裏に奇妙な呪文が浮かんでそれを唱えたら、あなたもゾンビとして動かすことができたことを。
「感謝すべきことなんだろうか」
「さあ。気に食わないなら私に二度目の死を与えてくれてもかまわないけど」
「不思議とそんな気分にはならないな。自分を蘇らせた主には逆らえないようになってるのかもしれない」
男も身の上を語ってくれた。名前はルドルフ・ミュラー。ある貴族の家に仕える騎士だったが、彼の愛馬に当主の息子が酷いイタズラをして、蹴られて怪我をしてしまった。その責任を取らされ、毒薬で自害させられたという。その後は罪人扱いでこの三等墓地に埋められてしまった。
私が抱える事情と近いものを感じ、同情すると同時に親近感を抱いてしまった。
とはいえ、所詮は出会ったばかりの赤の他人。さして会話も弾まない。
「やることもないし、仲間でも増やしてみようかな。やってもいい?」
「好きにすればいい」
ルドルフも反対はしないので、私は三等墓地に眠る死者に次々と呪文を施した。
死者がゾンビとなって蘇る。
ちなみにルドルフにも呪文を教えてみてやらせてみたが、この呪文を使えるのは私だけらしい。
この力はなんなのだろう。この世を呪いながら死んでいった私を哀れに思った神様が与えてくれたプレゼントなのか、あるいは悪魔が授けてくれた呪いの力なのか。答えは出ないだろうけど、後者の方がそれっぽいかなって思った。
ゾンビを100人ほどにすると、墓地もだいぶ賑やかになった。
私は皆に言った。
「みんな、あとは好きにしていいわよ。自由にしてちょうだい」
しかし、誰も動こうとはしない。ルドルフも同様だ。
やがて、誰かが言った。
「パトリシア嬢、あんたがやりたいことを我々は手伝いたい」
これに皆が同意する。
「俺たちのリーダーはあなただ。俺も騎士のはしくれとして、あなたに従おう」
ルドルフもこう言ってくれた。
私のやりたいこと……考えるまでもなかった。
私が全てを失うきっかけとなった婚約破棄。あれを演出したジョナス様、いやジョナスとヘレンに復讐したい。
奴らに私が味わったような、いやそれ以上の絶望と苦しみを味わわせて地獄に落としたい。
「私は復讐をしたいわ……みんな協力してくれる?」
100人のゾンビたちはうめき声にも似た返事をした。
私はこの瞬間、きっと満面の笑みを浮かべていたに違いない。
***
ゾンビのうち、なるべく生前の姿を保っていた者を使って情報収集をさせた。これにより、私が死んでからのおおよそのことが分かった。
まず、私が死んでだいたい二ヶ月が経ったということ。ジョナスとヘレンは私の死後早くも結婚し、今は夫婦で屋敷を購入し、暮らしているということ。この事実だけで二人がグルだったことが分かる。もはや怒りも湧かない。むしろ復讐に向けての最後のストッパーが吹き飛んだ。
「行きましょう」
横にルドルフ、後ろにゾンビとなった亡者の群れを率いて、私はジョナスたちのいる屋敷に向かった。
王都の中心部からやや外れた場所に、あの二人は居を構えていた。
高い塀に囲まれたお屋敷。ジョナスのことだから、衛兵もそれなりの数を雇っていることだろう。
しかし、もう死んでいる私たちには関係ない。真正面から行くことにした。
屋敷の敷地内に入るための門扉は、二人の兵士が守っている。
「俺が行こう」とルドルフ。
だが、私は言った。
「いいえ、まずは私に行かせて。みんなをゾンビにしたのは私だし、せめて一番槍は務めたいの」
「分かったよ。気をつけてくれ」
ゾンビに気をつけるも何もないと思うが、私はうなずくと、まっすぐ門番の元に歩いていった。
門に近づくと、当然槍を向けられる。
「なんだお前はぁ!」
これでも一応は子爵令嬢だったわけだけど、今の私はきっと薄汚い浮浪者の小娘にしか見えないわよね。
もしかしたら彼らの主人になってた未来もあったかもしれないけど。
私は片割れに近づくと、その首筋に一気に噛みついた。
がぶり。
「いぎっ!?」
もう死んでるから痛みも感じないし、歯や歯茎のことなど気にせず全力で噛み締める。
噛まれていない方の兵士が「何やってんだ!」と私の腹に槍を突き刺したのが分かる。だけどちっとも痛くない。血も出ない。こっちが血をすすってやる。
私はさらに歯に力を込める。なんだか弾力を感じた。もしかしてこれが頸動脈ってやつかも。なら食いちぎろう。
ぶちっ。
「いぎぇええええっ!!!」
頸動脈を食いちぎられた兵士は、パニックを起こし、両手で必死に血を止めようとしている。手で押さえたって止まらないでしょ。
ただ門の前で立っているだけの仕事のはずが、突然やってきた怪しい女に首筋を噛みちぎられるとは夢にも思っていなかっただろう。
「よ、よくも!」
無事な方の兵士がさらに私を攻撃しようとするが、それはかなわなかった。
ルドルフがやってきてその頭を掴み、一瞬で首の骨をへし折った。さすが騎士、鮮やかなものである。
頸動脈を食いちぎられた方が逃げようとするので、私は逃がすまいと追いすがった。そしてさらに血をすする。
味覚は死んでいるので血の味は分からないが、一つ分かったことがあった。血をすすると、力がみなぎってくる。これは大発見だ。
そのままこの兵士も失血で倒れ、絶命してしまった。
門番は片付いた。
門扉を開くと、すぐ屋敷があるわけではなく、庭園が広がっている。
異変を察知した衛兵らが駆けつけてくる。私は後ろに控える100人に命じる。
「じゃあみんな、門の中になだれ込んで邪魔な衛兵や使用人を始末してちょうだい。あと、血をすすると力が湧くから、その体質は利用した方がいいわよ」
ゾンビの群れが了解する。
元々三等墓地には私やルドルフにように理不尽な境遇の者よりも、生粋の荒くれ者や犯罪者の方が多い。どうせ死んでいるし、今更彼らに恐れはなかった。
まもなく屋敷の敷地内は阿鼻叫喚の渦となった。
殴っても斬っても突いても死なないゾンビが我が身を顧みない全力で襲いかかってくる。しかも血をすするとパワーアップする。
「うぎゃあああ……!」
「た、助けて……!」
「なんだこいつらぁ!?」
お屋敷勤めの人間の悲鳴が私の耳にも入ってくる。ふと足が止まる。
立ち止まった私にルドルフが問う。
「少し後悔してるか?」
私は答えた。
「いいえ、何も感じないわ」
嘘だった。ほんのわずか心が痛んだ。だが、この心の痛みもそのうち感じなくなるのだろうという確信があった。
私はジョナスらの元に急いだ。
ゾンビたちを屋外で暴れさせ、私たちは先んじて邸宅内に侵入。
ルドルフは強かった。先ほどの門番から奪った槍で、中を守る衛兵を次々に串刺しにしていく。屋敷内に死体の山が築かれる。こんな優秀な騎士を自害させるなんて、彼の主君はバカなことをしたものだと思う。
やがて、一人のメイドを発見する。
怯えるメイドに私が問いかける。
「この屋敷の主人……ジョナスとヘレンはどこにいるの?」
「に、二階です……。二階の一番奥の部屋に……」
私はうなずくと、
「ありがとう。せめて楽に殺してあげるわね」
メイドの首筋に噛みついて、その温かいであろう血を存分にすすった。彼女が泣き叫ぶ声にほとんど心は痛まなかった。
私はルドルフに言う。
「二階の奥よ。行きましょう」
***
二階の奥は寝室だった。ジョナスとヘレンはベッドの上で二人一緒にいた。
寝間着姿で、二人とも美形といえる顔立ちなのだが、そんな顔も恐怖と混乱ですっかり引きつっている。
「な、なんだお前たちは……!?」
「なによぉ……!?」
歯を鳴らして怯える二人。とても清々しい気持ちだった。
さてメインディッシュはやはりジョナス。ヘレンを先に片付けておきたい。
「ルドルフ、ヘレンを」
「分かった」
ルドルフはヘレンの長く美しい金髪を掴むと、乱暴に引きずる。
「いたっ! な、なにするの! やめて、殺さないで!」
ルドルフは窓を開けると、ヘレンを二階の寝室から放り投げた。
逃がしたわけでもなければ、落下死を狙ったわけでもない。屋敷の外ではまだ大勢のゾンビがうごめいている。衛兵たちの血をすすって元気たっぷりというおまけつきで。
ゾンビの大半は三等墓地に葬られるに相応しい訳ありの罪人。そんな中に若く美しいヘレンを放り込んだらどうなるか。
私は外のゾンビたちに言った。
「好きにしていいわよ」
この後ヘレンがどういう運命を辿るか、興味もないし、想像したくもない。
残るはジョナスただ一人。
ジョナスはまだ私のことが分からないのか、ひたすらに怯えていた。せっかくだからヒントをあげてみる。
「私のこと覚えてない? 無理もないか、もう二ヶ月経ってるっていうし」
するとジョナスもすぐに察した。
「パトリシア!? おま……いや君はパトリシアか!?」
「ええ、見かけはだいぶ変わっちゃったけど」
「そ、そんなことないよ! 俺はすぐに君に気づいていた! いやぁ、相変わらず美しい……!」
よくもまあ、こんな堂々と嘘を吐けるものだと思う。感心すらしてしまう。
いっそ「バカ女が、化けて出たか!」とでも言われた方が見逃す気になれたかもしれない。
「婚約破棄のことは悪かった……。あ、あれは全部ヘレンが計画して……」
見苦しい言い訳を吐き続ける。
私は無言でルドルフに右手を差し出す。ルドルフは無言でハンマーを手渡してくれた。屋敷内で調達したようだ。
そして、ハンマーでジョナスの右膝を殴った。骨の砕ける乾いた音がする。
「うぎゃあああああああっ!!!」
叫んでるうちに、左膝も破壊する。
ベッドの上で涙を流し、悲鳴とも嗚咽とも絶叫ともつかない声を上げるジョナス。
私はさらに一歩踏み込むと、ジョナスの下腹よりさらに下の部分に思い切りハンマーを振り下ろした。
何かが潰れる音がした。
ジョナスは激痛で声も出せない。
「これで万が一あなたが逃げられたとしても、子孫は残せないわね。まあ養子を取るって手もあるし、そもそも万に一つも逃がすつもりはないけど」
ジョナスは体を痙攣させながら、口をパクパク動かす。
「こ……ころさ、ない……で……」
この期に及んで自分の命に執着するジョナスに、私は尊敬すら覚えた。
もう少し苦しめるつもりだったが、元婚約者として褒美を与えたい気分になった。
「ルドルフ、槍を貸して」
私が何をやろうとしているのか察したルドルフは「俺がやろうか?」と言うが、私は首を振った。
「ううん、これは自分の手でやらないと」
私は狙いを定めると、ジョナスの胸めがけて槍を突き刺した。
こうして私のジョナス、ヘレン夫妻への復讐は幕を閉じた。
***
復讐を成し遂げた私はゾンビたちを集めた。
さすがに今さら「好きにして」と言うつもりはなかった。復讐を手伝わせて、それはあまりにも無責任で不義理すぎる。
かといって、次にやるべきことも思いつかない。
私が「次はどうしましょうか」と尋ねると、ゾンビのうちの一人が言った。
「俺も……復讐したい……。俺を捨てた女房に……」
一人が言うと口々に皆が――
「僕も復讐したい!」
「俺もあの野郎に……」
「私も……恨みのある人が……」
中には正当性のない恨みもあるかもしれない。
だが、復讐を正当か正当でないかを論じるかなんてナンセンスだ。恨んでるからやる。復讐ってそういうものだ。
私の復讐だって、「婚約破棄されて自殺した女がなぜか蘇ってゾンビを率いて自分を振った相手を襲った」とまとめてしまえば正当性もあったものじゃない。
「俺も……俺を自害させた主君に復讐したい」
ルドルフも復讐心が煮えたぎってるらしい。
私だってそうだ。私を見捨て、三等墓地なんかに葬った家族にだって復讐したい。
死者は生者を羨み、妬み、恨むもの。復讐に生きるのが一番いいのかもしれない。
「だったら、もっと仲間を増やしましょう。三等墓地にはまだまだ死体が眠ってるだろうし、ジョナスの家で殺した人たちもジョナスとヘレン以外はゾンビにしちゃいましょう」
「そうだな。そうしていけばいずれゾンビの大軍団ができるぞ」
「この王国を亡者の国に作り替えることもできるかもね!」
「決して夢物語じゃないな」
復讐しよう。
生者に死を与えよう。
血をすすって力を得よう。
ゾンビを増やそう。
大軍団を作ってこの国を変えよう。
なんだか楽しくなってきた。まさか死んでからこんな生きがいを手に入れられるとは思わなかった。いや私は死んでいるから“死にがい”か。どっちでもいいか。いずれにせよ、こんなに楽しい気分になれたのは初めてだ。
私は輝ける未来に向かって歩き出した。無数の亡者を率いて――
完
お読み下さりましてありがとうございました。