1話:トリプルコンボ
連載版です!
20XX年――日本国、某都市。
「――ヴラドさんはそんなに強くねえよ!! チート過ぎるだろこれ! 俺にもこんな化け物拳銃使わせろよ!!」
完全に日光を遮断するカーテンを三重にしたアパートの一室。アニメを見ていたのはひとりの青年だった。長い伸ばしっ放しの黒髪に無精髭。日本人らしくない彫りの深い東欧系の顔立ち。
しかし、アイドルアニメがプリントされたTシャツに半パンという姿は、どうみてもオタクのそれだった。部屋もゲームやアニメや漫画、ラノベが散乱されており、なぜか吸血鬼系の物がやたらと多い。
「はあ……俺も褐色金髪眼鏡の素敵ご主人様に仕えたいぜ……」
その青年がそんな世迷い言を吐いていると、インターホンがなった。
「おっと、やっとあれが届いたか!?」
マスクを付けて玄関に出ると、そこには荷物の配達員が立って居た。
「えーっと、ん? う、うらど? とらくる? さん?」
宛名にはこう書かれていた――〝浦戸 虎来〟、と。
「あー、そうそう。はい、はんこね」
本当の読み方は違うけどね……と思いつつ慣れているのか、浦戸はそのまま流れるようにはんこを押して、荷物を受け取った。
「ありがとうございまーす」
ドアを閉めた彼はその場で包装を開け始めた。
「やっと来たぜ、DX鬼殺し刀!! いやあこれでヴラドを倒すシーンは最高だったな!」
それは日曜の朝にやっているアニメの玩具だった。しかし――
「おいおいおい……電池入ってねえじゃん!! しまったああああ!! 一緒にポチるの忘れてた!」
玄関で悩むこと数分。彼は決意する。
「夜だしいけるだろ……」
そうして彼はパーカーを羽織ると、マスクをしたままサンダルをつっかけて、コンビニへと向かったのだった。
しかし――不幸は突然やってきた。
コンビニの帰り。律儀に横断歩道を渡っていた彼だが――目の前を歩いていた老婆が突然倒れてしまった。
「っ! 大丈夫ですか!?」
駆け付けた彼は老婆を抱え起こすが――そのせいでそれの接近に少しだけ気付くのが遅れてしまった。
「へ?」
それは、信号を無視し突っ込んでくる軽トラックだった。その運転席には金髪の若い青年が座っている。
常人ならそのまま激突して死んでいるだろう。だが浦戸は違う。
彼は伊達に五百九十年生きておらず、軽トラックなぞ老婆を抱えながらでも簡単に避けられる――はずだった。
その運転手がクロムハーツと呼ばれる、十字架をモチーフにしたアクセサリーが多いブランドを大量に身に付けてなければ。
結果、浦戸は身体が硬直。彼が本来持つ能力は全て制限され、何とか老婆だけは歩道へと押すと、そのままトラックに跳ね飛ばされてしまう。
だが、不幸は終わらない。そのトラックは、運転手の趣味で派手にカラーリングされていたが、その塗料には銀が大量に含まれていた。
そのせいで本来ならすぐに治るはずの外傷が治らず、浦戸の身体から煙が上がる。
そしてトドメとばかりに、運転手の急ハンドルでトラックが横転。その荷台に積まれていた荷物――これから市場へと運び込まれるはずだった大量のニンニクが、丁度彼が倒れていた位置にばら撒かれた。
「ぎゃあああああ!! そんなトリプルコンボある……かよ……」
それが、享年五百九十歳、浦戸の最後の言葉だった。
☆☆☆
迷宮都市アビスガルド――スラムの小教会。
崩れた天井から満月が覗き、月光が小さな祭壇に優しく降り注いでいた。
「女神様……どうか……私に力を……できればイケメンで格好良くて無敵で私をダンジョンの最深部まで連れていってくれるような……そんな英雄を……」
祭壇にわりと自分勝手な祈りを捧げていたのは、褐色肌に、月光に染められたような銀髪が美しいひとりの少女だった。纏っているのは聖職者特有の聖衣だが、動きやすさを重視しているのか各部が省略されて肌が露出しており、活動的な印象を与えている。
「どうか……英雄様を……お願いします月の女神へカーテ様……」
その少女の願いが、女神に届いたのかどうかは分からない。だが、彼女の望みは――叶うことになる。
なぜなら――
「ぎゃあああああ、そんな死に方は嫌だああああ!!」
そんな悲鳴を上げながら――月が覗く天井からソレが落ちてきたからである。
「え? ま、まさか私の召喚の儀がついに成功した!?」
少女の驚きの声と共に衝撃音。目の前の祭壇が爆発したような勢いで吹き飛び、少女は思わず顔を手で庇った。
そしてもうもうと立ちこめる粉塵がより月光を鮮やかにして――その存在を浮かび上がらせた。
「あ、貴方は――まさか英雄様ですか!?」
そんな少女の声に――ソレは答えた。
「くそ……なんだこれ……夢か? あれ……? どこだここ」
壊れた祭壇で立ち上がったのは、ひとりの青年だった。アイドルアニメがプリントされたTシャツの上にパーカーを羽織り、下半身には半パンとサンダルという姿だが、その立ち姿はまるで彫像のように、様になっていた。
「か、カッコイイ!! きっとさぞかし名のある英雄様なのですよね!?」
少女の黄色い声を聞いて、青年は混乱しつつも、年の功なのか一瞬で状況を把握したのだった。
「あー、なるほど。そういう系の夢ね。ふむ……。あ、君、もっかい名前聞いてくれる?」
「へ? あ、えっと――コホン。あ、貴方はさぞかし名のある英雄とお見受けする! 我が喚び掛けに応えし者よ、告げるが良い、その御名を!」
少女がノリノリでそう叫んだので、青年も嬉しくなっても同じくノリノリでこう答えたのだった。
「我が名はヴラディスラウス・ドラクリヤ、竜の息子、不死の王なり!! 我を喚ぶのは――誰ぞ?」
そう言って、浦戸虎来……いやヴラド・ドラキュラは異世界へと降臨したのだった。
ここから彼の新たな伝説が――始まる。
ヴラドさんの活躍をお楽しみください!
ハイファン新作を投稿しました!
追放された王子が竜王の力で規格外でチートな国作りをするお話です! 良ければ是非読んでみてください!
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ハズレスキルというだけで王家から辺境へと追放された王子はスキル【竜王】の力で規格外の開拓を始める ~今さら戻れと言われても竜の国を作ったので嫌ですし、宣戦布告は部下の竜達が怒り狂うのでやめてください~