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競合他社


A社のトラックの中に置かれた鉄の薄い板に座りながら、少女は落ちる時に備えて心を落ち着けようと息を整えます。


少女の周りには彼女と同じ年頃のたくさんの少女たちが、同じようにそれぞれの鉄の薄い板に座ってじっとしています。怯えた表情をしているもの、吐き気を必死に堪えているもの、恐怖で震える体を強く抑えようとするもの、たくさんの少女たちがいます。


彼女達は皆、各自の座る鉄の薄い板からは決してはみだそうとはしません。はみ出たならば大人たちに叱られてしまうからです。彼女達は皆、一切言葉を発しようとはしません。発したならば大人たちに叱られてしまうからです。

ただ大人しく、逆らわず、このトラックの中の鉄の板に座り、彼女達はじっとしているしかないのです。


やがて、トラックの動きが止まり、後ろの扉が開かれます。大人たちが手際よく、少女達を鉄板ごと持ち上げては夜空に向かって思い切り投げます。


少女の座る鉄板も大人に持ち上げてられました。トラックの外は夜で、涼しい風が吹いています。大人が、少女を投げようと鉄板を構えます。


「これから私はどうすればいいの」


少女は思わず大人に聞いてしまいました。ここはもうトラックの中ではないから声を発してもいいからです。


「お嬢ちゃん始めてか!!がんばれよ!!!」


大人は思い切り少女を投げます。


少女は薄い板の板ごと投げ飛ばされ、夜空から落下します。下には大きな銀色のA社の工場があり、皆上手く鉄板を使い着地してるのです。少女はなんとか鉄板を下にして、ガシャンと着地しました。

工場の人たちは手慣れた様子で少女たちの数を数えます。


少女は作業服を着た大人に鉄板ごと運ばれます。


「ここで私は何をしたらいいの」


大人は答えず、にこにこしながら少女にパンを投げました。

少女は頭に投げられたパンを食べます。

とてもお腹が空いていたからです。


それから。

工場で少女は毎日1杯の水と1個のパンを与えられました。

工場の大人たちはにこにこしながら少女を見ます。


「そろそろ出荷だな」


そうして、少女はA社から出荷されました。


少女が出荷されたのは小さな惑星でした。

惑星には少女の他にも、もう一人出荷されたと思われる同じ年頃の少年が居ました。少年はB社の出荷品です。

少女と少年は惑星の王様に挨拶をしました。

王様は二人を歓迎しました。


数ヶ月たった頃、王様が少女に囁くように言いました。


「あいつを気に入った。お前をそろそろ返品しよう。」


王様は二人を比べてみて、気に入った方を仲間に、気に入らなかった方を工場に返品する気でした。


少女は工場に戻りたくはありません。


少女はこの惑星に来て理解してしまったのです。


黒く濁ってどろりとした苦味のあの液体がほんとうは「水」などではないという事を。

黒くぬめぬめして時々苦しげに蠢くあの物体がほんとうは「パン」などではないという事を。

この惑星のほんものの水やパンがどれほど美味なのかを。


そしてあの10本の触手を青白く発光させながら黒い粘膜を地面に垂らして歩く彼らが、トラックの大人たち、工場の人たちがほんとうは「人間」ではないという事を。


知ってしまった少女は返品されたくありません。


少女は王様の心臓を突き刺しました。


王様はびくんびくんと痙攣してから、動かなくなりました。少女は触手を器用に使い、王様の中から臓物をズモモモモモモと引き摺り出します。そして王様の中に入り、王様の皮膚をぴたりと身体に纏います。どこからどうみても、少女は完璧に王様になりました。地球の王様の臓物となった少女はA社に電話をかけます。


「地球に選ばれたのは私たちA社です」


引き摺り出した王様の臓物はB社の少年の形をしていました。



End.


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