その18 お祭りの終わり★
町に入り肉屋に取ってきた肉の搬入を無事終えたので、ここでパーティはお開きである。
「みんな今日はありがとうね。お陰でお肉の仕入れができたよ。またムラジルの町に来た時は寄ってね」
「どういたしましてなのです、頑張った甲斐があったのです」
いやミカちゃん寝てただけだし。
ネムネム教の教義の話になりそうなので、アルクルミはつっこみを心の中でだけに留める。
「マリーさんはもうお肉屋協会の会員なのですから、協会員は死ぬも生きるももろともなのです」
「ネムネムの町にも遊びに行くね。そうそう冒険者の町にもまた遊びに行くよ」
「本当? 歓迎するよマリー」
「その時は一緒に、コロッケパン屋台の凶暴売り子を突き止めようね」
「そんな恐ろしい野望はちょっと遠慮したいかな」
「じゃあね、バイバーイ」
肉屋にマリースマルを残し、五人は祭りで賑わう町の中を歩いていく。
ふいにミカルミカと銀髪の少女が立ち止まった。
「では私もそろそろ行くのです。ネムネムの町にはまだ帰らないので、逃亡生活をしばらく続けるのです」
「うむ、わらわもおいとましようかの。祭りの無いこの町にいつまでもおっても仕方無いしな」
「そっか、そうだね、二人にはまた会えるといいな……」
アルクルミは心のどこかで、お祭りが終わったのを感じていた。
楽しいお祭りはいつか終わるのだ。
マリースマルにミカルミカ、銀髪の少女と別れ、サクサク、キスチス、アルクルミのいつもの三人に戻った。
「なあアル。コロッケパン屋台の凶暴売り子ってなんだ?」
「何の話か記憶にございません」
キスチスは特に追求もせず『ふああ』と腕を伸ばすと、そのまま頭の後ろで手を組んだ。
ひと仕事終えた気だるい午後だ。
「ゆっくりできるのも今日までか、それにしてもなんだかんだ言っても楽しかったな」
「なに締めに入るような事言ってるのよキスは。私はまだ一騒動あってもいいかなって思ってるんだけど、と、あれ?」
さっきまで話していたキスチスがいない。
振り向くと、サクサクに小脇に抱えられて急速移動中である。早速一騒動が起きていたのだ。
目的地はその先にある酒屋さんかな、まったくもう……
そう思いながらもアルクルミは二人を追いかけなかった。何故なら話しかけられたからである。
「アルクルミなのだ、何してるのだこんなとこで」
「それはこっちのセリフかな、キルギルスちゃん」
アルクルミを見つけて声をかけてきたのは、なんと魔族の女の子キルギルスではないか。
何故こんな町に魔族がいるのだろうか、これってまずい事になってやしないだろうか。
「ちょっと、大丈夫なの? 魔族だってバレたらパニックに」
「大丈夫なのだ、カーニバルのコスプレだと思って誰も気にしてないのだ」
まあ、空さえ飛ばなければ大丈夫かも知れない。
冒険者の町でもそうだったけど、キルギルスくらいの子だと、小さい子のコスプレだと思われれば案外平気なものなのだ。
「キルギルスちゃんも観光に来たの? お祭り目当て?」
「違うのだ、そうだけど違うのだ。魔王さまを探しているのだ、アルクルミは魔王さまを見なかったか?」
「そんな恐ろしいものに遭遇はしていません。魔王がこの町に来てるの? ま、まさか侵略?」
「ここにいるかはわからない、お祭りに行くと言って出て行ったのだ。ずるいのだ、私も魔王さまと一緒にお祭り行きたいのに~」
お祭りに行く魔王ってなんなんだろう……
とりあえず饅頭を買ってあげて落ち着かせる事にしたが、甘い饅頭を見てキルギルスは一層興奮したらしかった。
ベンチに座って休憩をする。
「はいこれ」
アルクルミが差し出した饅頭をキルギルスは一口で食べた。
手に乗った饅頭が瞬間に消えるマジックショーである。
「んあああああああああ!」
相変わらずである。
食べて叫んだ後、キルギルスはポカンとした顔になった。
「私は何を探しに来たんだっけ? お饅頭だっけ?」
「甘いお菓子で目的を忘れたのね」
「魔王様を探しに来たのですよ、キルギルス」
突然声を掛けられて見上げると、そこには魔族の男が立っている。
びっくりしてアルクルミは椅子から落ちてしまった。
「大丈夫ですかお嬢さん」
魔族の男はアルクルミを助け起こそうと手を差し出した時に、尻餅をついた彼女のスカートの中を見てしまった。
即座に対セクハラ自動反撃スキルが作動して、魔族を蹴り倒すと四の字固めを決める。
良かった――相手が男の人だとちゃんとスキルが作動する。さっきはイザという時に発動しなくてとても困ったから、本当に良かった。
いや良くない――!
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「いえ、見てしまった私も悪かったですから。相変わらずあなたのスキルは恐ろしいですね」
それにしても、ど、どうしてもう一人魔族が――!
まずいまずい、キルギルスちゃんくらいの子なら誤魔化せても、大人の魔族は誤魔化しきれないんじゃないかな――!
「そうだった、魔王さまをモーちゃんと探しに来てたんだった。大丈夫、モーちゃんもコスプレだと思われているので安心なのだ」
よく見ると魔族の男は、胸に『コスプレ』の文字まで書いてある念の入りようだ。
こ、これなら大丈夫かな……まあいいか。
力が抜けたアルクルミは少しアホらしくなってしまった。まあ、なるようになるでしょう。
「騒がれそうになったら、その者を始末してしまえば良いでしょう」
全然大丈夫じゃなかった。魔族はやっぱり超危険物だ。
ジト目で見つめるアルクルミに、魔族の男は深々と頭を下げる。
「いつぞやのお嬢さんですね、キルギルスがお世話になったそうで感謝しています」
「友達になったのだ、これから一緒に魔王さまを探すのだ」
ええ? いつの間にそんな話に?
さっき一騒動あってもいいとは言ったけど、魔王なんて恐ろしい物体を捜索する騒動はさすがに求めてないんですけど――
まだまだお祭りは終わってくれないのか。
「それは助かります、私たちだけでは人間の町は勝手がわからないものですからね」
「は、はい頑張ります」
しまった、おろおろして参加ボタンを押してしまった。アルクルミは諦めて魔族の男を見つめる。
ええっとこの人、モーシャウントさんだっけ。そうだ、上着。
「この前は上着をありがとうございました。とても助かりました」
やっと上着のお礼が言えた、ずっと気になってたのよ。
「いえいえこちらこそ。お美しいお嬢さんのお役に立てて良かったですよ」
美しいお嬢さんだなんてそんな。
ああそうか、私まだちゃんと挨拶してないんだ、これはチャンスだ。いよいよチャンスが到来したのだ。
「挨拶が遅れました、私はアルクルミといいます。冒険者の町でお肉屋をやってます」
アルクルミはにっこりと微笑んで続けた。
「私のフルネームは――」
「アルクルミー! モーちゃん! さっさと行くのだー!」
また言いそびれた。
おしまい
「モンスターはお肉なのです! 異世界のお肉屋の娘さんがモンスター倒してお肉を仕入れて商売繁盛」
これまで読んで頂いた皆様に感謝です!
元々は「女の子になっちゃった~」の服屋さんにいたポニテの子を主人公に、第1話を短編として書き上げたのが始まりでした。
面白くなってもう少しくらい書こうかと思って続けていたら、そのもう少しが数倍になっていました。
自分の中で面白いと思う気持ちはまだまだありますが、ここで締めたいと思います。
そのうちまた書くかもしれません、お肉屋で世界制覇も気になっていますしね。
アルクルミや仲間たち自体は「女の子になっちゃった~」の方でもこれからも出て来ますので、そちらもよろしかったら読んでみて下さい。
それでは皆様ありがとうございました!




