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その16 奇跡よ起これ――!


 生き残る全ての希望が絶たれた。


 二人の少女は今、絶望を目の前にして立っている。

 武器も持たず、ただの町の少女たちにとって巨大な怪物は、絶望という表現以外では考えられない代物だった。


 モンスターはハンマーを振り上げゆっくりと近づいてきて、アルクルミとキスチスの目の前に立った。

 アルクルミはそれを見上げる。なんて大きなハンマーだろうか、今までも色んなモンスターを一撃で砕いてきたのだろう。


 あの巨大な金槌が二人の頭に振り下ろされて、揃って十六歳の人生の幕を閉じるのだろう。

 多分一瞬の出来事のはずである、痛いという感覚すらわからないかも知れない。一撃で終わらせてくれるのが、唯一の救いかも知れない。


「アル、私も今までアルと一緒にいられて嬉しかったぞ」

「何よさっきの私の呟き聞いてたの? ちょっと恥ずかしい」


「今まで楽しかったなあ。どんな窮地に陥っても、アルが奇跡を起こしてくれてさ。いつだって最後にはアルが倒れたモンスターの前に立ってるんだ」

「うん……でもごめんね、私はもう奇跡は起こせそうに無いよ」


「いいさ、私がアルと一緒に冒険して、一緒にここにいる。これがもう奇跡なんだよ。アルは最高の相棒だ、私はそれでも信じてる」

「あはは、恥ずかしいセリフだよ」


 アルクルミはキスチスを見ない、笑顔の彼女を見たら泣いてしまうから。最期くらいは相棒と一緒に笑って終わりにしたいから。


 モンスターがハンマーを更に高く上げたのが見えた。次の瞬間にはもの凄い力で振り下ろされるのだろう。


 奇跡ってなんだろう――今まで私は偶然に助けられてきた。単なる偶然なのか、それが奇跡の賜物なのかはわからない。

 キスは今でも信じてくれている。その奇跡――そんなものがあるのならこの目で見てみたい、きっとキラキラ光って眩しいものなんだろう。


 でもごめんねキス、もう奇跡は起こらないんだ――


 しかしそれは起きた。


 見上げたアルクルミの目に、その奇跡の光が見えたのだ。青空にキラッと光った奇跡の輝き。

 モンスターのハンマーがアルクルミとキスチスに振り下ろされるよりも前に、上空に飛んで行った折れた肉切り包丁が落ちてきたのだ!


 包丁がモンスターに落ちて来ていたら、モンスターを倒せたかどうかはわからない。

 だが奇跡は確実に怪物を倒す方へと落ちてきた。


『スパーン!』


 アルクルミの目の前に落ちてきた包丁は、彼女のスカートを切り裂いたのだ。

 スカートが切り裂かれて落ち、パンツが丸見えになったのをモンスターは目撃した。


『パチン』


 その瞬間、スイッチが入ったのだ! それは全ての道を切り開く希望のスイッチなのだ!


 対セクハラ自動反撃スキル!


 アルクルミは瞬時に前に移動して、ハンマーを振り下ろしてきた怪物の腕を左手で押し留め、右手でハンマーを奪うと膝でへし折った。


 うろたえて後ずさったモンスターのアゴに飛び蹴りを食らわせると、後ろにまわってバックドロップを一発。

 怪物は何が起きたのかわからなかったに違いない、さっきまで目の前にいたのは確実に仕留められる震えるお肉だったはずなのだ。


 それが瞬時に、絶対に勝つ事の出来ない戦闘マシーンと化したのだ。


 アルクルミは次々と技をくり出していく、飛びながら後頭部に回し蹴りを食らわせた次の瞬間には、足に打撃、よろめいたらすかさず投げ技。

 彼女を捕まえようと巨大な腕を伸ばすとその腕を絡められて関節に痛打、蹴り上げようとすると両腕を膝に当てられて止められ、そのまま縦に回転した娘の蹴りがアゴに炸裂だ。


 先ほど戦った強敵サクサクどころではない、本物のなすすべの無い相手が目の前にいるのだ。

 相手を殴ろうと拳を突き出した次の瞬間には、地面に叩きつけられているのである。


 怪物はワケがわからずめちゃくちゃに暴れたが、全ての攻撃は避けられるどころか弾き飛ばされ、封じ込められ、お返しにあらゆる打撃を食らった。


 最後は後ろから首を固められて、モンスターは遂にカクンとなったのである。


「ふーっ、ふーっ」


 荒く息をするアルクルミの目の前には、完全に沈黙した巨大なモンスターが横たわっていた。


「あはははは! ま、まさか本当にやっちまうとは思わなかったよ! さすがだアル! 私の相棒は凄いよ……うわあああん」

「うわ、泣かないでよキス!」


 何だかんだ言ったって、キスチスも女の子なのだ。アルクルミを最後まで信じていても不安で一杯だったのだろう。

 アルクルミはおろおろするが、今はキスチスに構っている場合じゃない。彼女にはまだやらなくてはいけない事がある。


「近接格闘からのチョークスリーパーだね!」


 サクサクがふらふらと茂みから出てきた、まだぐるぐる目玉でノビているマリースマルに肩を貸している状態だ。


「まだ出てきちゃだめ! もう一体いるから! すぐにそいつもスキルで仕留めるから、離れてて!」


 そう〝まっどなブッチャー〟はもう一体いるのだ!


 アルクルミは泣いているキスチスを後ろに下がらせて、自分たちの退路を絶っていたもう一体の〝まっどなブッチャー〟に立ち向かう。

 怪物の手には巨大な肉切り包丁とハンマー。


 だが大丈夫、スキルに任せておけば大丈夫。

 さっさと倒してみんなを助けて町に帰るんだ!


 だが次の瞬間、とんでもない事態になっているのをアルクルミは知った。

 発動しないのだ。


 彼女の対セクハラ自動反撃スキルが反応しないのだ!


 な、何で――!


 呆然と立ちすくむアルクルミに、モンスターはゆっくりと近づいていった。


 次回 「何でスキルが不発なの!?」


 アルクルミ、サクサクに襲われる

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