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その2 町の外で魚を釣ってみよう


「で、早速来たのかよ。さっき分かれて十分も経ってねえぞ」


 アルクルミを呆れたように出迎えたキスチスは、さっき捕ってきた魚を客のカゴに入れていた所だ。

 店に並んだ魚は二尾。凄いもう半分売ってる……と肉屋の娘は感心する。


「うん、帰って早々ごめんね、私他に頼める人がいなくて」


「しょうがねえなあ、約束だし手伝ってやるよ、私は約束を守る義理堅い女だ。今まで約束を破った事なんか一度も無いだろ?」


「何度もあるわよ。直近で言うと今朝、商店街の清掃当番をすっぽかされた」

「そ、そんな大昔の事は覚えていない。そら行くぞ」


 キスチスはそう言うと、よいしょっと先ほどの道具を担ぐ。


「どうして釣り道具を持っていくの?」

「森の近くにちょっと大きい池あるだろ、あそこ行こうぜ」


 なるほど目的は釣りか……アルクルミは呆れるが、それでも一人で行くより全然いいのだ。



 町の門でパーティになる宣言をして、二人は門の外に出た。宣言をする事でパーティの契約が結ばれ、町に帰るまで仲間となるのだ。


 さて、ここから先はモンスターの領域である。アルクルミは怖いと思うのだが、傍らのキスチスは平気そうに歩いていく。

 子供の頃は何も考えずに幼馴染たちと出かけて遊んでいたものだが、あの頃とは違い今は怖いのだ。


「キスは怖くないの?」

「私は今でもたまに出てきてっからな、池にも何回通ったかわからない」


 歩きながらカカカと笑うキスチスを見てアルクルミは思うのだ、本当に男の子みたいだと。


 実際スカート姿でポニーテールのアルクルミと比べ、少年みたいなショートパンツ姿で栗毛のショートカットのキスチスのせいで、一見少年少女のパーティに見える。


 門でのパーティ契約の時に、勘違いした見物人に『お、カップルだ、仲がいいね!』とやられて、キスチスが『私は女だ!』と怒ったくらいである。


 因みにアルクルミは、前回カレンと仕入れに来た時の反省から、動きやすい膝上のミニスカートを穿いて来ていた。


「もういっその事、キスもカレンみたいに冒険者をやればいいのに」

「最近でもカレンと森で遊んだ事も何回かあるぜ」


 何それずるい、誘われてないアルクルミは不満そうだ。


「ごめん、アル忙しそうだったから。でもなあ、私は普通の町の凡人娘だからさ、冒険者なんてとても無理だよ」


 ふくれたアルクルミのほっぺたをキスチスが押すと、『ぷー』と空気が漏れる。


「アルはまだいいよ、一応戦闘系のスキルだから。私のスキルなんか〝モンスターの気持ちがわかる〟だぜ」

「いいじゃんそれ便利そう、私なんかオジサンのセクハラにしか対応できないスキルなのよ」


 モンスターの気持ちがわかったら楽しそう、などとアルクルミは考えてしまうのだが。


「あいつらの気持ちなんて、『こいつを襲ってやろう』くらいしかねえから意味無いんだよ。後は『腹減った』くらいだな」


「そうなんだ、がっかり。もっと楽しそうな事考えてればいいのに。モンスター界隈の恋愛状況とか、まあ全然興味ないけど」


 この辺りを闊歩しているモンスターなんてそんなものなのだ。

 殆ど何も考えていない。


「あと町のオヤジ共の気持ちもわかる」

「え? モンスターじゃないのに?」


 思わず目を丸くして聞き返すアルクルミ。


「私ら娘っ子からしたら、あいつらも町でエンカウントするモンスターみたいなもんだろ? 倒したって経験値増えないけどさ」


 確かにそうだ、娘二人は思わず苦笑いだ。


「あいつらの頭の中の半分は、お姉ちゃんの太モモとお尻でできてると思う。これまで私の足見てエロい事言ったオヤジには、容赦なく拳を叩き込んできたぜ」


「残りの半分は?」

「胸」


「〝言った〟とか〝思う〟とか本当に心を見てるわけじゃないのね。キスが人間の心を読み取る超人じゃなくて良かった」


 アルクルミは笑った。

 こっそりキスチスの事を、実はポンコツだと思ってたのはバレていない、しめしめ。


「なんか悪い顔になってんぞアル。私の心がちょっと傷ついてるんだけど」


 ポンコツのくせに無駄に感だけはいい。


「セ、セクハラされたら反撃してる部分は、キスも私も変わらないね。私の場合は反撃したくはないんだけどさ」


「おうよ! 今度カレンと三人で、町のオヤジ共を討伐しようぜ。あいつら一回〆とかないと後々この町の為にならないと思うんだ、ネギ屋のオヤジが第一候補だな」


「真っ先に討伐する候補は肉屋の店主がいい」

「よし、ネギ屋、肉屋、魚屋を中心に成敗してくか」


 町の外でこっそり自分たちの暗殺計画が立てられていようとは、店にいるオッサンたちは知る由もない。


「でもなあ、あいつら私に成敗されて嬉しそうなんだよな、なんなんだあいつら全く。何でやられたら身体の不具合が次々治るんだよ」

「そうだよね……とてもよくわかる」


 セクハラをしてボッコボコにされたのに、満面の笑みで元気はつらつで帰っていくオジサンたちの姿が脳裏に浮かぶ。本当に意味がわからない。

 謎の生命体なのである。


 ワケのわからない謎の生物は町の為にも根絶した方がいいのだろうか、とアルクルミが考え始めた頃に目的地に到着だ。


 池がもう少し遠かったらアルクルミの考えがまとまってしまう所だった、正に危機一髪だ。

 救いの池としてオッサン達が拝む日も近いだろう。


「さー着いた着いた、この池には主がいるって話だけど、今まで出くわした事なしだ。今日こそ釣るぞ、釣れっかなあ、釣れたらいいなあ。釣れますように」


 オッサンたちより先に池に拝み始めたのはキスチスだった。時代の先取りである。


 いそいそと道具を準備しだしたパーティ相棒に、アルクルミは手持ち無沙汰だ。

 見ているとキスチスはテキパキと釣り竿を組み立てていく、知識の無いアルクルミでは手伝いようがないのだ。


「私はどうしようかな……さっきまで何考えてたんだっけ……」


 ここまで来たものの、キスチスに言われた目的地というだけでここに来たかったわけでもなく、特に着いてから何か予定があったわけでもない。


 このままではまた、アルクルミがオッサン討伐の考えをまとめてしまいそうだ。一難去ってまた一難、オッサンの危機は回避されていなかったのだ。


「待ってなアル、すぐそこに洞窟があるんだよ、釣った魚をエサにしてそこにいるカエルのモンスター釣ろうぜ。カエルの肉でもいいんだろ?」

「まあ、いいんだけど」


 うへーカエルかあ、と肉屋の娘はちょっとうんざりした様子、カエルは苦手なのだ。


 だがとりあえず目的ができた、その点は少し安心したアルクルミであった。アルクルミの頭の中がカエルで一杯になったのだ。


 オッサンたちによる〝カエル同好会〟が発足したのはこの時の事である。



 しばらくの間二人の少女は、池のほとりに座ってプカプカ浮いたアヒルのオモチャを眺めていた。


 キスチスが浮き代わりに使ったそれは、お風呂で浮かべて遊ぶアヒルのオモチャなのだが、野外の池に浮かぶ姿はなんともシュールなものだ。


「釣れないねー」

「んー」

「眠いねー」

「んー」

「しりとりでもしよっか」

「んー、ふとん」

「そっちの負け、じゃ次は私からだね」

「んー」

「ふとん」


「「ふあぁ」」


 二人揃ってあくびをする。

 一時間近く成果無しなのだ。


 カフェや自分達の部屋ではあんなにおしゃべりする事があるのに、釣りの時には黙ってしまうのはどうしてだろう。

 魚が逃げるからもあるが、テンションの問題なのだろうか。アルクルミとキスチスはもう一度あくびをした。

 

 その時、アルクルミは水面の異変に気付いた。

 それまでと違って、何か違和感があるのだ。


「アヒルがいない」


 次回 「二匹のモンスターに襲われて絶体絶命!」


 キスチス、魚のモンスターにパクパクされる

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