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その10 カーニバルの肉屋を偵察した!


 銀髪の少女が屋台に突撃して行くのを、アルクルミとミカルミカも追いかける。


 その屋台のお菓子は、アルクルミもお祭りでよく見たお菓子だった。

 母親によく買ってもらったものだ。


「あ、これ知ってるよ、リンゴ飴だね。キスリンゴの実に飴をかけて固めたお菓子だよ」


 懐かしいなあ……お父さんに肩車されてお祭りでこれ食べて、お父さんのハゲ頭にこの飴がべったりと張り付いて取れなくなって、残り少ない髪の毛がいっぱい抜けちゃって。


 何で今そんな悲劇を思い出してしまったのだろうか……

 あの時はお母さんにもう一個買ってもらって悲劇は回避されたのだ。


「違うよ嬢ちゃん、これは饅頭に棒を挿して飴でコーティングした饅頭飴だ」


 何故お饅頭に飴をかけちゃったかな。

 とりあえず買ってみることにした、何事もチャレンジが大切なのだ。


「三つ下さい」


 買った饅頭飴を三人で歩きながらかじってみる。

 甘い飴でコーティングされた饅頭の中身は、これまた甘い餡子がぎっしりだ。これは凄まじい。


「ああああ……」


 まおちゃんが言語障害を起こしたみたいだ。ミカちゃんなんか立ったまま寝てる、早く起こさないと。

 二人の状態はとてもよく理解できる、アルクルミ自身も脳の半分を持っていかれそうになったからだ。


 慌ててアルクルミがミカルミカを揺さぶった。


「おはようございます、お母さん」

「お母さんではありません」


 とりあえずミカちゃんは起きたけど、まおちゃんがまだ危険域ね。

 彼女は口に饅頭飴が挟まったままフリーズしているのだ。


「まおちゃん大丈夫、気を確かに」

「ハっ! わらわは何を、うさぎたちはどこじゃ?」


「う、うさぎ?」

「口の中で甘いが爆発したと思ったら、沢山のうさぎたちに囲まれておったのじゃ、子猫や小鳥もおってな、皆普通に喋っとったぞ」


 まおちゃん、夢の国に行ってたんだね。

 と思ってる矢先にまおちゃんがまたフリーズした。


 しまった、口に饅頭飴が挟まったままだった。このままだと気が付いてはフリーズの無限ループだ。


 慌てて銀髪の少女の口から饅頭飴の棒を引っこ抜いて、辺りを見回して震える。

 その先にも続く甘いお菓子の屋台の列が見えるのだ。


 ここはまずい、一刻も早くこの甘いゾーンから脱出しなければ、一生出られなくなってしまうに違いない。

 アルクルミの野生の危機感がそれを知らせていた。


 半分フリーズした銀髪の少女を引きずって甘いゾーンから出たのはいいが、その先は紙芝居だ、人形劇だ、玉乗りだと誘惑が多くて全然前に進めなかったのである。


 ようやくオジサン用の靴だの、上着だのを売っている店が多くなって、三人の娘たちは正気に戻る事ができた。

 オッサン用品なんて少女たちは一ミリも興味が無いのだ。


「ところで、アルさん」


 ようやく一息ついたところでミカルミカが話しかけてきた。


「何? ミカちゃん」

「私たちはどこに向かえばいいのでしょうか、現在位置をすっかり見失ってしまったのです。まあ最初から知りませんでしたけど」


「このまま観光してればその内着くんじゃないかな」


 商店街を探せばいいのだが、アルクルミは面倒くさくなってきたのもある。

 しかし町がお祭り一色で出店も多く、どこが商店街なのかすらわからないのだ。


 現在いるのは目の前に大きな建物が建っていて、少し威圧感すら覚える場所だった。


「うーん、お肉屋さんを探すの無理かもしれないねえ」

「ここじゃないのか?」


「町の人に聞いてみるのですよ」

「もう一度言うぞ、ここじゃないのか?」


 銀髪の少女が指差す目の前の建物、その店をアルクルミとミカルミカがまじまじと見つめる。

 お肉のマークに肉屋の文字、目的地はそこにあったのだ。


「やりました、とうとう見つけたのです。私たちは無事使命をやり遂げたのです。ではそろそろ帰りましょうか」

「ちょっと待ってミカちゃん」


 アルクルミが帰ろうとするミカルミカの手を掴んで引き戻す。

 やっと見つけたのに入らないのはどう言う事か。


「建物が立派すぎて、こんなの気後れしかしないのです。うちのお肉屋の五倍くらいあるのです、こんなの見たら今夜は嫉妬でギギギってなるのです」

「た、確かに大きいね……」


 その店はミカルミカやアルクルミの家の店より、遥かに立派で大きな建物なのだ。

 大きな町の肉屋だけに規模も大きい。入るのが少し気後れしてしまうのだ。


「と、とりあえず外から中の様子を探るのです。いきなり突入しては敵の思う壺なのですよ、私たちがカンニバルされたら目も当てられないのです」

「そ、そうだね」


 カンニバルと聞いて、とりあえず中に入らないのに賛成だ。


「どうしたのじゃ? アルクルとミカミカは入らんのか?」


 銀髪の少女が思いっきりドアを開けて二人を呼んでいる。

 ど、どうしよう、突撃娘の彼女の事をすっかり忘れていた、まおちゃんを置いて逃げるわけにいかないし。


 仕方無しにアルクルミがミカルミカを引き連れてドアまで行った時だ。


「いらっしゃい」


 目つきの悪い巨大な男が、入り口まで出てきて三人の娘たちを見下ろしているではないか。


 カ、カンニバルでた――


 手にはなんと巨大な肉切り包丁というサービス品まで付属している。それは普段アルクルミが腰に下げている肉切り包丁の数倍はあるだろうか、馬でも真っ二つにしそうな得物だ。


 終わった――


 恐ろしい肉屋の話は本当だったんだ。


 完全に人生が終わった。私たちはこの肉切り包丁でスパーンと上半身と下半身が分離して、美味しいお肉としてこのお店で売られちゃうんだ。

 私のステーキは、せめてかっこいい人に食べてもらえますように……


 アルクルミが観念して合掌した時である。


「ちょっとお父さん! そんな物騒なものを握り締めたままお客さんを迎えないでよ!」


 女の子が店の中から現れたのだ。


「さっさと奥に引っ込んでよお父さん、邪魔邪魔!」


 奥から現れた少女は、父親と呼んだその怪物をどかすとアルクルミたちに謝ってきた。

 少女は見た感じ、アルクルミとはあまり年も違わない様子だ。


 セミロングの黒髪で、髪には白いパンツの形の髪飾りを付けていた。

 なんだろうこれ、昨日みのりんもしてたみたいだけど、流行ってるのかな。


 でもよかった、普通の子が出てきてくれた。完全にカンニバルされると人生を諦めたところだったのだ、ここは普通のお肉屋さんに違いない。


「いらっしゃいませ、カンニバルの肉屋へようこそ!」


 少女のその言葉と同時に店主がまた顔を出す。

 白目を剥いたアルクルミと銀髪の少女に、店の少女は少し慌てたようだ。


「ご、ごめんなさい、一文字間違えちゃった! お父さんも引っ込んでてって! この子たち可哀想に、びっくりしてお漏らししそうじゃないの」


 し、してませんから!


 次回 「大変! この店にもコロッケがあった」


 アルクルミ、過去に一発かましてた

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