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その8 まおちゃんとミカちゃん


「今日は別視点でカーニバルを探求したいと思います!」


 これ以上ないというくらいの全身の笑顔でそう宣言したサクサクの小脇には、キスチスともう片方に『カーニバルで飲もうマップ』と書かれた本が挟まっていた。


 別視点の探求も何も、単にお祭りで飲むというだけの話っぽい。

 だが美味い酒の探求という意味では、間違っていないのかも知れない。


 カレンたちは重要な用事があると出かけたので、残ったのはいつもの三人だ。

 まあ、こうなるのはわかってたけどね、とアルクルミが苦笑してサクサクのお酒に付き合って三十分後である。


 温泉の時と同じように、またもやサクサクとキスチスの二人を見失ったのだ。

 別にわざとではない。ちょっと気になる屋台があったので、そちらに気を取られている間にキスチスを抱えたサクサクが消えたのだ。


 どーせその辺のお店に入ってお酒を飲んでいるのだろう。

 アルクルミは特に探そうともせず単独行動に移ることにした、そう彼女は自由を得たのだ。


 とりあえずその見失った原因になった屋台を覗く事にする。

 それはなんの変哲も無い、どこにでもあるような饅頭の屋台である。


 アルクルミが気になった問題は饅頭ではない。その店主に絡んでいる客なのだ。


「おい店主、このカーニバルまんじゅうというのは一体何じゃ? 〝魔王もびっくり!〟と書いてあるが、いつの間に魔王がびっくりしたのじゃ? 確かにこのキャッチフレーズにびっくりしているがな。許可は得たのか? 当然甘いんじゃろうな?」

「へ、へいらっしゃい」


 怒涛の如く質問攻めにして店主を困惑させているのは、この前温泉の町ネムネムで偶然知り合った銀髪の少女である。


「まおちゃんこんにちは、あなたもこの町に来ていたのね」

「おう、お前はこの前の親切な人間の娘ではないか」


 相変わらずへんな言い方の子である。


「オジサン、お饅頭を二つ下さいな」

「まいどあり」


 買った饅頭を一つ銀髪の少女に渡して、近くのベンチに座って食べる事になった。


「毎度すまんな親切な娘アルクル」

「そこまで言うのなら〝ミ〟も付けて欲しい所だけど、どういたしましてまおちゃん」


「アルクルもこの町に来ていたのか、確か冒険者の町の肉屋じゃろお前」


 呼び方を直す気はないようだ。


「うん、友達の誘いで遊びに来たのよ」

「そうか友達か。わらわも友達を探しにこの町に来たのじゃ。祭りをやっておるというからこの町に来たのだが、どこにも盆踊りをやっていないのじゃ。肩透かしもいいところじゃった、すっかり騙されたわ」


「ぼんおどり?」


 ちょっと楽しそうな響きだ。


「そうじゃ、祭りと言ったら盆踊りじゃろうが、笛に太鼓に音頭じゃ。だがこの町には全然それがない、カンニバルとかいう恐ろしげなものをやってると聞いて、震え上がっておった所じゃ」


 ひ、そんな恐ろしい事が行われてるのこの町。そういえば武闘大会も血祭りがどうしたこうしたと言っていたし、ここって怖い所なのかな。

 アルクルミも震え上がる。


「ところでまおちゃんは友達を探しに来た――」


 銀髪の少女は、アルクルミの質問の途中で饅頭をパクリと食べて、そして叫んだ。


「あっまあああひゃあああああ!」


 更に饅頭屋台に突撃して行った。


「おい店主! 確かに甘かったぞ、間違いなくびっくりした! お前の〝思い〟確かに受け取ったぞ、そのキャッチフレーズを使う事をわらわが直々に許してやろう!」

「ま、まいど」


 なんだか不思議な事を言っているが、いつもの事か。

 とアルクルミも饅頭を一口食べてみる。


 これは黒糖ね。

 確かに冒険者の町のお饅頭屋さんの甘さにも引けを取らない商品で、美味しい。


 肉屋の娘も屋台まで歩いていくと、店主に親指を立てる。


「オジサン、私からもグッジョブを進呈します」

「ま、まいど。足がエロ可愛いお嬢ちゃんたち」


 即座にアルクルミの両足のかかとが店主の脳天に炸裂。

 店主の目から何か光が出た気がした。


「おお! 更に甘い饅頭のレシピを思いついたぞ、ありがとうお嬢ちゃん!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


「凄いな今の。直立不動から回転して攻撃して行ったぞ。あんな技、魔族でも出せんと思う。今のはなんという名前の技なのじゃ?」


 え? 名前?

 勝手に出る技の名前なんか聞かれてもわからない、サクサクがいてくれたら技名を言ってくれるのに。


「お、お饅頭キック……かな?」

「ほほーすばらしい。で、それは甘いのか?」


 甘いの聞かれても困るんですけど。


 銀髪の少女はアルクルミの技に感心しながら饅頭の包み紙を綺麗に折り畳むと、大事そうにポーチに仕舞う。

 そして『宝物じゃ』といって幸せそうに笑った。


「オジサンもう一つ下さい」


 涙をハンカチで拭きながら新たに買った饅頭を銀髪の少女に手渡すと、彼女は目を輝かせた。


「いいのか? お前本当にいいやつじゃな」

「どういたしまして。まおちゃんがお饅頭をとても美味しそうに食べるから、見ていてこっちも嬉しくなっちゃう」


 そう言いながら屋台から離れようとした時だ。


 むぎゅ。


 何か踏んだ。


 アルクルミが足元を確認すると、自分が女の子を踏みつけているので慌てて下がった。

 女の子が作っていた鼻ちょうちんが割れ、それで目覚めた彼女はむくっと起き上がる。


「おはようございます、お母さん」

「お母さんではありません」


 ちょっと懐かしいこのやり取りは、数日前にやったばかりである。


「こんな場所で何をやってるのミカちゃん」


 そう、それはネムネムの町の肉屋の娘、ミカルミカなのだ。


 次回 「お肉屋協会結成と紅白饅頭」


 アルクルミ、なんだかよくわからないけど世界をお肉屋で制覇する事になった

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