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その7 武闘大会、どうして私は参加してるの?


 たこ焼きのようなものを食べた次の日は、更に酷い目に遭った。

 サクサクが町の武闘大会にエントリーしていたからだ。


 最初は皆が参加したがらなかったように見えたが、みのりんが参加に食いついて、カレンたちも参加に張り切りだした。

 やっぱり冒険者としては、武闘大会は外してはいけないイベントなのだろう。


 サクサクやカレンやみのりんたちが参加するのはわかる。

 何故なら彼女たちは最強の冒険者なのだから。


 しかし何故肉屋の娘と魚屋の娘がそんなものに出て、巨大な戦闘怪物と戦わなくてはいけないのか。


 なんてこった。私は何故ここに立ってるんだろう……


「どうしてこうなった」


 アルクルミは闘技場の上で、ポカーンとそれを呟く以外なかったのである。


 最初は速攻で棄権するつもりだった。

 だが大会開始前にとてとてと走ってきたみのりんが。


「いっしょに……がんばろ……」


 などと萌えまくる言葉を投げかけてきたので、つい奮い立ってしまったのだ。


 よっしゃ! いっちょ肉屋のお姉さんがいい所を見せてあげますか!

 と、柄にもなく出てきてしまったのである。


 旅行で気分が開放的になっていたのだろう、普段のアルクルミだと絶対にありえないような事が平気で起きてしまったのだ。


 一瞬自分のキャラがブレたのかと、アルクルミは思ってしまった。

 旅というのは本当に恐ろしいと、肉屋の娘はしみじみと感じたのである。


 対する相手は、優勝候補の一角と目されている隣町の格闘組合理事長のボンバボンバという男で、山のような格闘家だった。

 上半身裸の、その盛り上がったガッチガチの鋼のような筋肉を見た時、アルクルミは眩暈がしたほどだ。


 歩く度に筋肉が『バキッ』『バキッ』と鳴っているのは何の冗談だろうか。

 いや、自分がここに立っているのが一体何の冗談だろうか。


 目の前の相手はその辺のモンスターよりも凶暴そうで、司会者によると〝数多くの対戦者を血祭りに上げてきた格闘家〟という事らしい。

 そして、今回〝血祭りに上げられる対戦者〟が自分らしいのだ。


 これはダメなヤツだ――!


 肉屋の単なる娘に、こんな怪物を一匹丸投げされてどうしろというんだ。

 あの筋肉で締め上げるだけで、恐らくモンスターなんか二つに折られているだろう。


 戦えるわけがない……ここは大人しく不戦敗にしよう。


「棄権しま……」

「おーっと棄権は許さないぜ? 闘技場に上がってからの棄権はルール違反だ姉ちゃん。楽しませてくれよ」


 残忍そうな男の笑みにアルクルミは顔面蒼白になる。

 棄権できない? それじゃ、ここで死ぬしかないんじゃん――!


 この大きな闘技場が私の墓標になるのか……どうせなら柱も立てて神殿みたいにしてくれると嬉しいな。


 アルクルミは静かに自分に手を合わせた、合掌の時間だ。


「げっへっへ、なんだこの姉ちゃん。色っぽい体つきしやがって、いいのか触っていいんだな。羽交い絞めにしてあちこちモミモミ……」


 筋肉格闘家ボンバボンバが言えたのはそこまでである。


 迂闊な彼は自分の目の前にいるのが、魔王の側近の魔族ですらボッコボコのガッタガタにした少女だと知らなかったのだ。

 この少女に絶対やってはいけない行為をしてしまったのである。


 セクハラ行為は破滅への直行便なのだ。〝見ない、言わない、触らない〟これが鉄の掟なのである。


 気持ちよく喋ってる最中に、瞬時に目の前に移動してきたアルクルミに驚く暇もなく、アゴに膝打ちを食らって盛大に舌を噛む。


「へぶぶぶぶ?」


 身体を逆さまにされたかと思うと、もの凄い力と速度で床に叩きつけられたのだ。

 本来なら相手が格闘家程度なら即座に対応できるスピードを備えているボンバボンバ、しかしその対応が全く間に合わない!


 格闘家には何が起きたのかわからなかった、全てがスローモーションに思えた。

 頭がぐらんぐらんになって揺れているその身体をひっくり返されて、後頭部にトドメの一撃!


 容赦のない仕留め技だ。

 ボーゼンと立ちすくむアルクルミの足元には、完全にノビた筋肉が転がっていたのである。


『気が付いたら、川の向こうでご先祖様が手を振っているのが見えた。人生で最も危ない瞬間だった。あれから恐ろしくてセクハラ行為は封印した』


 後に自叙伝でボンバボンバはこう書き記している。



「勝者アルクルミ嬢!」


『うおおおおおおおおお!』


 割れんばかりの拍手喝采の中、肉屋の娘は幼馴染みを見つけて半泣きになりながらその後ろに隠れた。


「カーレーンー」

「よしよし。アルはきっと今、女の子が筋肉を吹き飛ばした伝説を作ったんだよ」


 いいこいいこしてくれる幼馴染みカレンには悪いけど、そんな伝説、微塵も作りたくありません!


 カレンの隣にいたみのりんが、あごでも外れたかのように大口をあけて自分を見つめているのが恥ずかしかった。



 やめるやめる、もう絶対やめる!


 二回戦が始まる前だ、アルクルミは棄権を決意していた。

 それでも出てみようかと考え直したのは、次の対戦相手が誰かを確認したからである。


 次の相手はみのりんだったのだ。


 いくらなんでもプロの冒険者のみのりんが、知り合いの素人娘の自分相手に無茶はしないだろうし。

 優しく遊んでくれそうな気がしたのだ。


 そう、アルクルミは美少女みのりんと、少しじゃれ合ってみたくなったのである。


 わくわくして待っていると、まずみのりんがステージに呼ばれた。


「この大会が生んだ華麗なる青い花! ダンス木の棒クイーン青い髪の少女だ!」


 な、なんなのこの呼び名は。そういえばこの一つ前の試合でもカレンが〝伝説を刻む戦姫カレンティア嬢〟なんて呼ばれてたっけ。


 という事は、まさか自分も……?


「そして対戦相手は、やはりこの大会が生んだ麗しの格闘ミート! 肉体マスターアルクルミ嬢だ! 筋肉殺しの登場だ!」


 名前を呼ばれたアルクルミはスーっと大会委員の所に行き、速やかに棄権を告げるとそのまま観客席へと移動。

 この後は観客に紛れて仲間を応援するのみだ。


 大会委員会は頭がおかしいのかな、こんな名前で呼ばれて出て行けるわけが無いじゃない。




「アル、おいアル。起きろって」


 観客席で仲間を応援する予定だったアルクルミだったが、結局その後の試合経過を知らない。

 キスチスに起こされるまで彼女はぐっすりと眠りこけていたからだ。


 最終的に優勝したのは、なんとみのりんだった。

 でもアルクルミは驚いたりしない。


 なにしろ青い髪の少女みのりんは、モンスターを倒すのに剣すら必要の無い、木の棒で十分な圧倒的強さを誇る冒険者なのだから。


 結局二位の選手に優勝を譲った事も驚かなかった。奥ゆかしいお嬢様なのだ、武闘大会の優勝などそんなに興味を示さないのだ。


 やっぱりすごいなあ冒険者は。肉屋の娘なんかの戦闘力なんてアリンコみたいなものなんだろう。


「私も結構いい所まで進んだんだぜ。なんと準決勝の残り四人の中にいたんだぞ、凄いだろ」

「キスが? 冒険者でも何でもないのに残れるわけないじゃん、私が寝てたと思ってホラ吹かないでよ」


「本当だって、アルは鼻ちょうちんぶら下げてたから知らないだけだ」

「そんなものぶら下げてないわよ」


「出てました、ぷくーって。隣の幼女なんか、クレヨンでその絵を書いてたくらいだ」


 しまった。油断して、幼女に絵日記をつけられて思い出の一部にされてしまっていたようだ。


「魚の捌きコンテストでもやってたの?」


 試合内容を聞いたら急にキスチスの顔に斜線が入り、遠くを見つめるような目になった。


「いや……ジャガイモ潰しだった。何故かせっせとジャガイモを潰してたら準決勝になってた。何も言うな、私だってわけがわからない」

「お、お疲れ様」


 ま、まあ、もうどうでもいい。こんな女の子らしからぬ悪の大会からとっと撤収するのみだ。


 次回 「まおちゃんとミカちゃん」


 アルクルミ、さっさとサクサクとキスチスからはぐれる

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