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その6 タコVSアルクルミ!


 タコモンスターと冒険者サクサクの一騎打ちである。


 頑張って! 頑張れサクサク!


 アルクルミの友人への応援は色んな意味で真剣なのだ。


 サクサクがレイピアを抜いてモンスターに突撃!


 しかしさすがはタコモンスターである、八本もの足を駆使して攻撃してくるので、一本の剣のサクサクだけでは不利なのは明らかだった。


「なにこいつ、結構強いよ。もしかして上級モンスターなの?」

「そいつはのらりくらりと掴みどころが無いんだよ、熟練の冒険者も手に余るモンスターだ」


 サクサクの問いにキスチスが答えている。


「そうなんだ、確かに手が余ってるね、八本もあるんだもん。一、二本貰って食べちゃってもいいよね? お酒飲みたくなってきちゃった! いいかな?」


「だ、だめよサクサク! お酒飲んだらサクサクは最初は速度と攻撃力が上がって、その間に倒せればいいけど、途中で寝ちゃう――」


「ぐびぐびぷはー」


 アルクルミが注意しているそばからサクサクが飲みだした、止める間もない素早さである。


「すやー」


 そして寝た。速攻で寝た。


「ちょっとサクサク! 燃料入ったとか言って攻撃するんじゃなかったの!? そこは端折らないでよ!」

「アル! 逃げるぞ!」


 キスチスが慌てて寝ているサクサクを引きずって退避した。

 そこにタコモンスターが襲い掛かってくる。


 慌ててサクサクを引きずって海岸を逃げる二人を、遠くから見たら楽しい追いかけっこに見えたかもしれない。


『まてまてー』『捕まえてごらんなさーい』はアルクルミも(実はキスチスも)やってみたい青春の一ページのシーンなのだ。

 しかし実際は寝ているサクサク以外は必死である。


「ああ、しまったサクサクを落とした!」

「ええええ! キスなんとかしてよ! 魚屋さんでしょ、タコの弱点とか知らないの?」


「商店街裏の工場のタコ社長の弱点なら知ってるけど、こんなヤツの弱点なんか知らないよ! ええい魚屋根性見せてやる!」


 迫り来るタコに対峙するキスチス。

 相手が魚屋だと知ったのか、少しタコも警戒しているようだ。ヤルかヤラれるか、タコも必死である。


「食らえ! 魚屋ターックル!」


 キスチスが全体重をかけてタコにタックルをぶちかまして、反動で海の方に弾き飛ばされた。

 一旦海に落ちたあと、波に運ばれて波打ち際に打ち上げられる。遭難者のできあがりである。


 そしてタコはサクサクもキスチスも無視して、やっぱりアルクルミに向かって突撃してきたのである。


「うん、そうだと思ってた!」


 アルクルミは身構える。

 こうなったら逃げるだけ無駄な体力を使って疲れるだけだ、自分のスキルを信じてあのモンスターを粉砕すれば解決なのだ。


 この後の展開は彼女にも読めるのだった。

 どーせあのうねうねとした触手が、自分の身体にまとわり付いてくるに違いないのだ。


 そしてその触手は服の中にも入ってきて――


 服の中にも入ってきて――


 無理――!


 アルクルミは半泣きになって逃げ出した。


 無理無理、やっぱり無理。

 そんなオッサンが読むエロ小説的な展開は絶対無理。


「きゃっ」


 肉屋の娘は逃げる事に関してはプロではない。砂浜に足を取られてコケてしまったのだ。

 うねうねと触手を使って進むタコモンスターに、とうとう追いつかれてしまった、絶体絶命の危機である。


「いや、来ないで」


 倒れた娘に迫り来るタコ。

 覆いかぶさろうとするタコ。

 触手を伸ばそうとするタコ。


 もうだめだ――!


 私はここでタコのエサになるんだ、誰かお参りする時はお饅頭の一つでも持ってきてね……


 アルクルミの脳裏に、今まで生きてきた出来事が走馬灯のように走る。


 店に来てエロい事を言うタコ親父。

 お尻を撫でるタコ親父。

 太モモをさするタコ親父。


『パチン』


 お馴染のスイッチが入った音である。


 アルクルミは伸ばしてきたタコモンスターの足を一本掴むと、恐ろしい速度でグルグル回転させた。


 彼女の脳内でセクハラタコ親父とタコモンスターの姿が重なって、対セクハラ自動反撃スキルが発動したのだ!

 タコモンスターからしたら完全に冤罪だ、実に迷惑な話である。


『プッチーン』


 遠心力に耐えられなかったタコの足が根元から千切れ、タコ本体は海の彼方へと飛んで行った。

 タコよさらば、母なる海への帰還である。


 ポカーンとそれを眺めるアルクルミの手には、自分の身長と同じくらいのタコの足が一本残されていた。


 タコの足ゲットである。


 冒険者の町で散々オッサンたちにセクハラされていた事が、まさか自分を救う結果になろうとは。

 でもアルクルミはその事実に納得がいかなかったので、消去する事にした。


 セクハラに救われる? ないない。



「ここはどこだ? 無人島か?」


 遭難者キスチスが気が付いたようだ。


 海から上がってきたキスチスと起きたサクサクとで、海岸で早速焚き火をしてタコの足を焼く事にした。


「おや、お姉ちゃんたち、タコで宴会かい?」

「オッチャンお酒持ってきて! みんなで宴会しょうよ、タコ宴会だ」


 サクサクの提案で、通りかかった漁師たちも誘うことにした。人間一人分くらいあるタコの足なんて、とても娘っ子三人では食べきれない。


「ねえサクサク、これがたこ焼きで合ってる? 合ってるよね、合ってると言って」


 焼いたタコの足を食べながらお酒を美味しそうに飲んでいるサクサクは、ちょっと考えてから答えた。


「タコを焼いている事には変わりは無いんだし、これがたこ焼きだと言われて否定はできない。美味しくてお酒が飲めれば何も問題ナッシングだネ!」


 どうやら違うようだぞ。

 アルクルミは思ったのだが、深くつっこむ気は無かった。


 違うと言われてまた別のタコモンスターを獲ろうなんて言われたら、とんでも無い事態になりそうだから。

 さすがにもう勘弁して欲しい、セクハラに助けられたという事実をもう一度再確認する気はないのだ。


 漁師の一人が鍋を持って来て、そこに油を投入している。


「タコの天ぷらも作ろうぜ、これがまた美味いんだわ」

「お、いいねえ! あそうだ、私キスも持ってるよ、キスの天ぷらも一緒に作ろう!」


「うおー用意がいいねえ、お姉ちゃん。俺たちゃキスも大好きよ! キス最高!」


「良かったねえキス、男の人たちに大歓迎されてるよ」

「もうその話はいいって」


 そう言いながらも赤くなっているキスチスは、少しドキドキしているようだ。


 結局焚き火を囲んでのタコ&キス宴会は、夕方近くまで続いたのである。


「はっくしょん」


 もそもそとタコを食べていた、びしょ濡れのキスチスがくしゃみをした。


「うー寒い、早く宿に帰りたい」


 次回 「武闘大会、どうして私は参加してるの?」


 アルクルミ、闘技場の上でポカーンとなる

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