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その4 感動に包まれたお立ち台


 お立ち台の上でサクサクが待っている。


「ど、どうすんだアル。こんな格好でお立ち台なんか登ったら、私死んじゃう」

「に、逃げよう!」


 こんな事でキスチスの命を犠牲になんかできない、アルクルミ本人の恥ずかしさもあるし逃亡の一択だ。


「どうしたの?」

「カレンも一緒に逃げよう!」


 カレンも近くにいたので、ポカーンとこちらを見ていた彼女の手も掴んで逃げようとした。


「どこに? サクサクが呼んでるよ? さあ行こう二人とも!」


 しまった――!


 カレンはこういう事に一切物怖じしない性格だった――!

 友達に呼ばれたら行く。恥ずかしい? なんで? な子なのだ!


 逃げようとしたアルクルミとキスチスだったが、無慈悲にも笑顔のカレンに捕まってしまったのだ。この世界には神様はいないのか、そういえばカレン神だったっけ。


 こういう時のカレンは強い、どんな場所へでもずんずんと行ってしまうのである。


「な、なあアル。カレンに手を捕まれてるのはアルだけだからさ、私の手は離してくれ」


「嫌よ! 幼馴染は一蓮托生なのよ!」

「ええー」


 キスチスの命を犠牲にできない、よりも恥ずかしさの方が勝ったのである。

 舞台に上がる人数が多ければ多いほど、視線は分散されるのだ。


 キスごめん……お墓にはお饅頭を備えてあげるから許してね……


「アル、今心の中で合掌しただろ」

「バレてた?」


 カレンが満面の笑顔で手を振りながらお立ち台に上がった。

 一蓮托生のアルクルミとキスチスも上がる、死なばもろともである。


 上から見ると凄まじい、会場や町の道にずらーっと埋め尽くされたパレード参加者や観客たち。

 彼らの視線が今、自分たちに注がれているのだ。


 とりあえずアルクルミは小さく手を振ってみた。


『サクサク少女隊バンザーイ!』

『可愛い!』

『最高!』


 お立ち台の上で、会場の参加者たちに手を振るアルクルミたちサクサク少女隊メンバーに、皆は心から祝福してくれているようで、ノリもよかった。

 自分たちを褒め称えてくれているのだ。


 うわーこれはちょっと気持ちいいかもー。


 もしここでセクハラ的なヤジでも飛ばすような参加者たちだったら、この会場はアルクルミのスキルにより地獄の戦場と化していただろう。

 危機一髪である。


 ただキスチスが半分気絶しかけているのは、踊り疲れたからだろうか、恥ずかしいからだろうか。それとももう死んじゃった?


 彼女はサクサクに小脇に抱えられて、手をぶらんぶらんしている。一応あれも観客たちに手を振っている事になるのだろう。


 ところでひとつ気が付いた事がある。この場に一番肝心のメンバーがいないのだ、天使のような舞を踊ったメンバーがいないのだ。


「あれ? みのりんがいない」


 そうなのだ、お立ち台にはみのりんメンバーが不在なのだ。

 因みにもう一人不在のタンポポメンバーは、向こうで観客に混じってこちらを静観している。彼女は身体の具合が悪いメンバーなので仕方が無い。


「さあ! そして優勝者は! 栄えあるクイーンの発表です! 優勝は青い髪の少女!」


 みのりんメンバーがいない理由がわかった。

 彼女はダンスクイーンとして、別枠で登場したのだ。


「新しいダンスクイーンの誕生だああああああ」


『女王! 女王! 女王!』


 みのりんは何とパレード実行委員会の猛者に運ばれてきた。歩かなくてもいいとは、何というVIP待遇だろうか。


 お立ち台の上に更にクイーン用の台が設けられて、そこに立った少女の姿は遠くからでも見えるだろう。正に女王である。

 青い髪の天使は、その高いお立ち台で観衆たちに手を振った。


 優勝がよほど嬉しかったのだろう、みのりんは泣きながら手を振っている。

 なんて美しい涙だろうか。


 感動のシーンだ、参加者たちもうっすらと涙を浮かべているようだ。

 これにはアルクルミもつい貰い泣きをして、ハンカチで涙を拭いてしまったほどである。身体中が感動の鳥肌で痛いくらいだった。


「よかったなあ、よかったなあみのりん」


 震えるその声にキスチスを見ると、号泣しているのでギョッとなった。


「もう、なんでキスが泣いてるのよ、ほら涙拭いて」


『ブー』

「うわあ」


 アルクルミが渡したハンカチで、涙を拭いたキスチスはついでに鼻もかんだ、お約束である。




 優勝商品の白いビキニが贈られ、それを着て再度お立ち台に上がった美少女みのりん。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 手を振る彼女に観衆たちは最高の大歓声で迎えた。


 みのりんはふらふらと今にも倒れそうになっている。

 きっと感極まって気を失いそうなのだろう。



 なんとなく酷い目に遭わされたような気がしていたダンスパレードも、最後は感動の内に終わった。


 普段着に着替えた後は、カレンたちとゆっくりお祭りを楽しもうと思っていたアルクルミだったのだが、いともあっさりとサクサクに捕まってしまった。

 小脇には同じく捕獲されたキスチスがいた。


「完全にキスの定位置はそこになったのね」


「うん、小脇に抱えるとしっくり来るんだよキスチスちゃんは! 脇との相性バッチリだね!」

「そんな相性嬉しくねえよ~」


 どうやらカレンたちは午後に用事があるので、ここで今日の行動はお別れらしいのだ。


 サクサクはお祭りでまた飲みだすんだろうな、と思いつつもこの三人で遊ぶ事にも特に抵抗は無いので、そのまま町へ繰り出すことになったのだが。

 これがいけなかった。


 お祭りに繰り出した後、例の言葉が彼らを待ち受けていたのである。


「どうしてこうなった」




****





「お祭りお祭り、カーニバル!」


 サクサクは上機嫌で町の中を歩いている、祝い事も兼ねている為か町全体がお祭り会場のような風情だった。


「凄い人の数だねえ。この中を私たち、さっきまで水着みたいな格好で踊ってたんだよね」

「言うなアル、頭がクラクラしてくる。私の中ではあれは夢だった、という事にしてあるんだ」


「でもセクハラみたいな事言ってくる人も、触ってくる人もいなかったじゃない。この町ではあれが普通の事なんだよきっと」


「お、ダンスパレードで優勝したサクサク少女隊の子たちじゃねーか。色っぽい足しやがって、触っていいかい? オジサンたちもフィーバーフィーバー!」


 全然普通じゃなかった、オッサンはどこの町でもオッサンなのである。どこまで行ってもオッサンはオッサンでしかないのだ。


 即座にアルクルミのスキルが発動し、フィーバーオジサンが飛んで行った。


「フィーバーからの場外満塁ホームランだね!」


 サクサクの技の解説だ。


「フィーからホーム? なに?」

「たこ焼き、たこ焼き食べたいな~♪」


 サクサクは上機嫌だった、何の迷いもなく屋台が集まっているゾーンへと突き進んでいく。


「たこ焼きっていうのは、屋台の食べ物なの?」

「そりゃそうよ! たこ焼きと言ったら屋台、お祭りではまずたこ焼き、どの屋台が一番か食べ比べもいいね!」


「へーちょっと食べてみたいかも」

「私も食ってみたいけど、ちょっと嫌な予感もしてるんだよな」


「それは言わないでキス。今日はお祭りを楽しむんだから、変な事言ってその方向に持っていかないで」

「フラグだね!」


 そう言ったサクサクは満面の笑みで屋台に辿り着いたようだ。


「オッチャン! たこ焼きちょーだい! たこ焼きでお酒をキューっていきたい!」


 サクサクが屋台の前で叫んでいるが、屋台の店主は困惑気味である。


「たこ焼きって何だ姉ちゃん、うちにはそんなもんねえよ。そんな名前の食い物が、この町で売ってるのも聞いた事がねえぞ」

「な、なんだと! お祭りなのに、たこ焼きがないだと!?」


『バターン!』


 まるで血を吐くような勢いでサクサクが倒れた。


 次回 「たこ焼きを獲りに行こう!」


 アルクルミ、こうなると全てわかってた



 今回のカーニバルの話は「女の子になっちゃった~」

 の「第20話 ミーシア爆発阻止5秒前!」と連動していますので、よろしかったらそちらもお楽しみ下さい。

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