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その1 カーニバルに誘われた!


「キスー! コロッケ切れたー! ジャガイモ潰しもっと急いで!」

「うわあああああああ!」


 奥で叫んでいるのはキスチスだ。可哀想に半泣きになりながらジャガイモを潰しているのだろう。


 ここは冒険者の町にある肉屋である、今日もコロッケ馬鹿売れで商売繁盛なのだ。


「はい増産分、まだまだ作ってるわよ。キスチスちゃんが頑張ってジャガイモを潰してくれてるから、こっちもよろしくね」

「はーい」


 アルクルミの母親が揚げたてコロッケ満載のザルを持って店に補充すると、また奥に帰って行く。肉屋は大忙しである。

 肉担当の店主のオヤジだけが、ポケーっと座っていた。


 こいつ、働けよ! とアルクルミが一瞥(いちべつ)するが、しらんぷりである。

 娘が温泉に行って、自分が行けなかった事をまだ拗ねているのだこの親父は。


 可愛い娘からお酒のお土産を貰った事で、既に九割以上は機嫌が直っていたのだが、簡単にニコニコするわけにはいかないと親父は拗ねているのだ。

 娘に甘えたいお年頃なのだ。


「キスチスちゃんて魚屋の子かい? へー、あの子が奥でジャガイモ潰してるのか。どこで潰してるんだい? 足かな? お尻かな?」


 オジサンの客が目をキラキラさせて尋ねている、そこは重要らしい。


「え? 普通に手で……」

「さ、帰ろうかの……食欲無くなったわ」


「て、手で押さえながら太モモで潰してます!」

「うひょおおおい! コロッケ十六個くれい! 早速三個食うぞ!」


「ワシにも売ってくれー、太モモコロッケ!」

「こっちも太モモコロッケ三つ!」


 しまった、コロッケに変な名前が付いてしまった。痛恨のミスだ。


「毎日食ってるよこの太モモ」

「この新商品の太モモ本当に美味いよな」


 コロッケの方を略すのはやめて欲しい。

 熱気のこもったオジサンの行列で太モモコロッケは瞬殺。


 ちょっと罪悪感を覚えたが、ホクホク顔で幸せそうに帰っていく客の姿を見ていたら、なんだかとても良い事をしたような気になってくるから不思議なものである。


「お母さーん! キスー! 太モモ無くなったーじゃなくて、コロッケ追加よろしくー!」

「うわああああ! さっき補充したばっかじゃねーかああああ!」


 アルクルミの幼馴染と転生者が店にやってきたのは、ちょうどその時である。

 ただし、幼馴染が連れて来た転生者は、今回は青い髪をしていない。


「あら、いらっしゃいカレン、サクサクも。お肉? コロッケ?」


「ううん、私たちの目当てはアルだよ」

「へ?」


「カーレーンーー! たーすーけーろー!」


 店の奥から逃亡してきたキスチスがカレンにしがみ付く。


「そうそう、キスにも用事があったんだ私たち」

「用事? 聞く聞く! カレンのもサクサクのも聞く。ジャガイモ潰し以外ならなんでも聞くぞ!」


「ど、どうしたのキス、すっかり憔悴しきってるけど」

「あはは、ようしじゃあ三べんまわって――」

「ちょっとキス! ちゃんとジャガイモを潰してきてよ、もうコロッケ無いんだから」


 サクサクがなんだかおかしな事を言い出しかけていた気がするが、アルクルミはコロッケ優先にした。


「用事って程のもんでもないんだけどさ、皆でカーニバルに行かない?」

「カーニバル?」


「そう、ムラジルの町の伝統のお祭りだよ。今年は領主の息子の婚約発表も兼ねて盛大にやるらしいよ。私はみのりんと一緒に行く事になったけど、アルたちもどうかな」


「行く」

「行く」

「行かせん」


「お祭りお祭り、たこ焼きを食べよう!」


 サクサクも上機嫌だ。


「食べる」

「食べる」

「ダメだ」


「ところでサクサク、たこ焼きって何?」

「たこ焼きってのはねえ! 中にタコが入ってて、熱々の」


「おいこらアル! 俺の言葉を無視すんな!」

「お父さんいたの? 椅子にポケーっと座ってるから置物かと思っちゃってたわ」


 拗ねて座っていた事に対する攻撃である。だがこの事態に親父もポケッと座ってる場合じゃない。


「温泉から帰ってきてすぐに今度はカーニバルだと? 気は確かか? 何を言ってるんだお前は」


 アルクルミは店のカウンターの横に貼り付けておいた紙を剥がすと、それを父親の前に突きつけた。


「な、何だよそりゃ」

「温泉たまご揚げのレシピ! 店の新商品にしようと思ってるのよこれ。温泉でヒントを得てきたんだからね、ただ遊びに行ったわけじゃ無いのよ!」


 と、言いつつ九割以上は遊んでいたアルクルミであった。しかし内緒だ。


「またそんなわけのわからない商品を! うちは肉屋だぞ! それにコロッケどうすんだ! コロッケはよう!」


 肉屋だと言いつつコロッケの心配をしだした父親に、娘はつっこんでやろうかどうしようか迷っていると。


「ごめんなカレンちゃん、サクサクちゃん。アルは店番があるからカーニバル行けないんだよ」

「お母さーん! カレンたちとカーニバル旅行に行って来るからお小遣いちょーだい」


「なっ!」


 自分を無視して、店の奥に姿を消した娘の行動。それで固まった肉屋の親父に、カレンが笑顔で声をかける。


「それじゃオジサン、私たちはカーニバルに行って来るから。またお土産買ってくるよ」


「大丈夫だよオッチャン。カーニバルでしこたま飲んでくるから、美味しいお酒のお土産話を一杯持って帰って来るよ、楽しみにして待っててネ!」


「いや、他人が酒を飲んだ話なんか聞かされても、全然楽しくねえぞサクサクちゃん」


「そう? 私はそれだけでもお酒が進むんだけど。目で見て楽しい、飲んで楽しい、聞いて楽しい、感覚は常にフルオープンだよ!」


 サクサクが何を言っているのかは誰にもわからないが、結局酒は飲むのである。


「な、なあカレンちゃん。せめてジャガイモ潰し用にキスチスちゃんだけでも置いてってくれねーかな」

「なんでだよ!」


 キスチスの叫び声が店内にコダマした。


 次回 「やって来ましたカーニバル!」


 アルクルミ、青い髪の少女みのりんをゲットする

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