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その10 旅行はやっぱりお土産コーナー


「今日はありがとうございました。ネムネムの町にお越しの際はまた寄って下さい」


 肉屋に仕入れた肉を運び入れミカルミカとはお別れ、一番頑張ったまおちゃんに饅頭を買ってあげると、彼女は大事そうにその袋を抱えた。


「ありがとうな、人間の小娘。温泉が見当たらないこの町にいつまでもいても仕方無い。わらわはもう行くのじゃ、友達を探さねばならんのでな」


 相変わらず変な事を言う女の子は、そのままテクテクと歩き去った。

 またどこかで会えるといいな、アルクルミは少女の背中を見送った。


 行きずりのパーティでも、解散していきなり一人になるとちょっと寂しいものである。

 さてと、私も自分の仲間たちを探して合流するか、とアルクルミが歩き始めた時だ。


「アルー! どこ行ってたんだよ、一人で呑気に遊んでたんだろ! ホント酷い目に遭ったんだからな」


 仲間の方からアルクルミを見つけてくれた。

 声をかけてきたのはキスチスである、サクサクは隣のベンチで爆睡中の様子。


「私もちょっと酷い目に遭って来たよキス」

「こっちはサクサクを抱えて、というか抱えられて……へ? どうしたんだ」


「成り行きでお肉の仕入れに行って来た。温泉に入りに来て、二回もモンスター討伐に行く事になるとは思ってなかったわよ」

「お、おう。オツカレ……」


 キスチスがポンとアルクルミの肩を叩く。




****





 その日はもう一泊したいとダダをこねたサクサクにアルクルミも乗った。モンスター討伐ではなく、温泉に入って温泉旅行を〆たかったのだ。

 反対する者も特になく、皆でもう一泊した。


 カレンが買ってきてくれた、温泉手羽先を皆で齧りながら女子トークに花が咲く。

 この手羽先はお肌にとてもいいと、ネムネム教徒から情報を仕入れたらしいのだ。


 手羽先の油でテッカテカになった六人は、そのまま温泉へと直行し、最後の夜の温泉を堪能する。


 お風呂上りにホカホカ気分で皆でお土産コーナーを覗いた。

 前日も覗いているが、やはりお土産を見るのは楽しいし、家族に何か買っていこうと思ったのだ。


「おいアル、これなんかいいんじゃないか」

「木刀なんかどうするのよキス、それでモンスターと戦うの?」


 どうしてお土産というと木刀を買う人が出てくるのか。


「うーん、おっちゃん、木刀じゃなく本物は売ってないのか?」


「そんな物騒なもん売ってねえぞ、武器屋じゃねーんだから。面白い事言うなあ少年」

「ははは、面白い事言うなおっちゃん、私は女だ」


 キスチスは放っておいて、アルクルミは真剣にお土産の物色を始める。

 向こうのお菓子コーナーでは、みのりんとタンポポが試食を物色しているのが見えた。


「いいですかタンポポ、ここで少しでも栄養を補給しておきましょう」

「あいあいさー」


 なんだか悲しい会話も聞こえた気がしたが、お嬢様みのりんに限ってそれはない、気のせいだろう。

 アルクルミは一番の目的である両親へのお土産を探す。


「お父さんにはお酒でいいよね、当店で一番売れてるオススメかー。ってこれ大きすぎでしょ、持って帰れないわよ、二位のでいいわ。お母さんにはこの、温泉お肌スベスベセットかなあ」


 こんな大きな酒樽がお土産で一番売れているわけがない。

 一番売れている商法か、うちの店でも使えるだろうか。


 これで喜んでくれるかなあ……と、親に買ったお土産を入れた袋を抱えて、書籍コーナーにも寄ってみる。

 ネムネムの町の歴史書や絵画集の横に、ネムネム教の経典も売られているのを見つけた。


 普段なら手にする事はないであろうその本だが、今日出会ったこの町の肉屋の娘、ミカルミカのほんわりした笑顔を思い出して手に取ってみた。


「ミカちゃん、また会えるといいな。どれどれどんな教えが書いてある……」


『――寝るべし――』


 わかってた……なんとなくわかってた。

 でかでかと書かれたその文字に、溜息を一つついて本を閉じる。


 これしか書かれていないのにこんなに分厚い必要があるのだろうか、と思っているとアルクルミに店のオヤジが声をかけてきた。


「おやおやお客さん、ネムネム教に関心がおありかな? それが最後の一冊だ、安くしとくがどうだい」

「い、いえ、遠慮しておきます」


 アルクルミが目線を落とすと、扉が開きっぱなしの戸棚にまだまだ何冊も格納されているのが見えるのだ。


 最後の一個商法だ、これはうちのお店でも使える手かな、いや無理だろうな。

 などと思案しだしたアルクルミを、入信を考えていると勘違いしたオヤジはしつこく食い下がってきた。


「ほら見なよ、この豪華な装丁。たまらんだろう? 飾ってよし、配るもよし。中も豪華だぞ、何十種類もの書体で書かれた『寝るべし』の教え。このページなんか開くとほら」


 オヤジが開いたページは〝寝るべし〟の文字が飛び出る仕組みになっていた。


「今なら一冊買うとオマケで三冊つけるぞ」


 最後の一冊はどこへ行った。


「ほ、本当に結構ですから。ほ、ほらオジサン、買い物のお客さんが向こうで待ってるわよ、行ってあげて」


 オヤジは買い物客の方へと向かっていく、一息つこうとしたアルクルミだが、そのお客さんを見て力が抜ける。

 それは満面の笑みで大きな酒樽を抱えるサクサクなのだ。


「あ、一番売れてるオススメのお酒を買うんだサクサク……そんな予感はしていたけど。そしてあれはキスよね、やっぱり」


 その隣では木刀を握り締めたキスチスもいるのだ。

 店で木刀を見た時、これを買っちゃう客ってよくいるよね、と思っていたアルクルミだが、まさか身内にその客が出現するとは思わなかった。


 お菓子コーナーでは、栄養補給を終えたらしいみのりんとタンポポがテカテカになっている。

 その二人がそれぞれ一番美味しかったというお菓子を、カレンが一つずつ持ってお金を払いに奥へと向かっていった。



 その後ゲームコーナーにも寄り、真ん中に横線が引かれたテーブルの上で白いボールを打ち合う遊びをする。

 サクサクは『温泉はやっぱり卓球だよね!』とか言ってたけど、初めて見る遊びだった。


 隣のオジサンのボールがアルクルミのスカートの中に入り、スキル発動で食らわせた彼女の垂直チョップは、オジサンの肩こりに抜群に効き目が良かったらしく、その後数人のオジサンの肩をほぐすハメになってしまった。


 覗き魔を星にしたり、カニを取ったり、牛を取ったりの忙しい温泉旅行だったが、これで無事に終わり。

 明日は皆で冒険者の町へと帰るのだ。


 第11話 「温泉に行こう!」を読んで頂きましてありがとうございます

 次回から第12話になります


 12話は皆でカーニバルに行く予定です


 現在執筆中です、半分できています

 しばらくお待ち下さい

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