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その7 温泉の町でお肉屋さんを見つけたので入ってみよう


 アルクルミと銀髪の少女は、とある店の前で立ち止まった。


 土産屋が立ち並ぶ観光客向けの通りから外れ、この町の商店街も偵察してみようと足を進めて早々に発見した店である。


 その店とはネムネムの町の肉屋だ。

 肉屋の娘としてはここは入っておきたい店なのだ。


「肉屋に用事があるのか?」

「特に用事は無いけど、入ってみようよまおちゃん」


「いらっしゃいませ!」


 元気な声で出迎えられる。声をかけてきたのはこの店の子だろうか、十六歳のアルクルミよりも若そうな女の子だ。


 店内は明るく清潔感が漂い、所々華やかに色んなものが飾られている。

 この女の子主導でデコレートしているのだろう、アルクルミも自分の店に見習いたい所である。


 その為にはまずオヤジ臭をなんとかしないといけないのだが……

 花なぞ飾ろうものなら、肉に花の香りがついて商売にならんと怒鳴られる始末だ。


 この店の華やかさが羨ましい、この店が百点なら自分の店は五点くらいだろうか。

 だが待って欲しい、この店にはアレがない。コロッケがないのだ、メンチカツも。


「フフフフ」


 唯一勝てた部分を発見してちょっと嬉しくなってしまった。


「あのお客さん、どうしました? その不敵な笑みは何ですか?」

「あ、いえいえ何でもないです! な、何にしようかな……」


 商品棚を見て『おや』と思う。

 棚には商品が殆ど残されていないのである。


「ごめんなさいお客さん、最近町が忙しくてお肉の供給が追いつかないのです。もうソーセージが二本残ってるだけなのですー、ふうー」


 女の子がため息をつく、ちっちゃい子なのでため息もなんだか可愛かった。


「このソーセージはすぐに食べられるもの?」

「はい、茹でてありますから大丈夫ですよ」


「それじゃ二本くださいな」

「ありがとうございます! これで完売ですね」


 一本をまおちゃんに渡してもう一本を食べてみる。

 うーんどうだろう、自分の店の〝トントンソーセージ〟と比べてどうか。


 正直に言うとアルクルミは、自分の店で出している絶品と誉れ高いソーセージに飽きてしまっているので、こっちのソーセージの方が味が違って美味しいと感じてしまった。

 隣のまおちゃんもソーセージの味で脳をやられたのか、満面の笑みのまま動かない。


 なかなかやるなこの店! 二百点!

 アルクルミが心の中で親指を立てていると、奥からオジサンが出てきた。恐らくこの店の店主なのだろう。


「お父さん、商品がもう無いのです、完売しちゃいました。『完売しました』の看板を出しておきますね」

「しゃーねーなあ、じゃあミカ、ちょっくら町の外へ行ってモンスターを倒して肉を仕入れて来てくれや」


 デジャブかな?

 その店のオヤジはとんでもない事を言い出したのである。


「え? 私は冒険者でもなんでもない普通の肉屋の娘なんですけど、モンスターを倒して来いって本気で言ってるのですか?」

「そうだけど?」


 ポカンとした娘にポカンとしたオヤジが答える。


 かつて、自分の家の肉屋で繰り広げられた会話が、ここに再現されているのだ。

 まさか自分の娘を肉の仕入れに行かせる、そんなとんでもない肉屋の店主が他にもいるとは思わなかった。


 見ればミカと呼ばれたこの少女は、自分よりも二つ三つ年下に見える。十三、四の女の子だろう、幼く見えるのでもっと下かもしれない。


 うわー! 十六歳の娘を狩りに行かせる自分の父親よりも、鬼畜な肉屋のオッサンが存在しているとは!

 アルクルミは驚愕せずにはいられない。


「あの……あなたおいくつなのかな?」


 アルクルミはつい少女の歳を聞いてしまった。これでもっと下だったら鬼畜度が更に跳ね上がるのだ。

 もしそうなら、この前代未聞の鬼畜オヤジに説教の一つもしないといけないのである。


 間違っても十歳とかじゃありませんように――!


「え? 私ですか? 十八歳なのです」


 自分の父親の方がド鬼畜オヤジだった――!


「モンスター狩りに行くのか? 面白そうじゃの、わらわたちもついて行ってやろうか?」


 アルクルミがガックリ肩を落としていると、隣にいたまおちゃんが肉の仕入れを手伝うと言い出した。

 まあ、まおちゃんが行きたいのなら止めはしないけど……と考えてアルクルミは『ハッ』となる。


 え、ちょっと待って、今〝たち〟って言わなかったかなこの子――!


「本当ですか! お二人に来ていただけると心強いのです!」

「あ、あの、そうじゃなくて私はあの……」


「一人でモンスター狩りなんて心細くてどうしていいのかサッパリだったのです。やっぱりモンスターなんて一人では怖くてどうしようもないのです」


「い……行きましょう」

「わらわたちにまかせておけ!」


 肉の仕入れに行かされるのを、身をもって体験しているアルクルミは断わる事ができない。

 彼女だって、カレンやキスチスに手伝ってもらえたから出かけられたのだから。


「ありがとうございます、私はミカルミカ・アイノ・イルクル・カルタイエン。ミカって呼んで下さい」


「私はアルクルミ、この子はまおちゃん、えーと私のフルネームは――」


「では早速行くぞ! アルクル! ミカミカ! パーティ結成じゃ、わらわに続け!」


 またフルネームを言い損なった。というか微妙に呼び名が変わってるんだけど。




 そして今、パーティを組んだ三人は町の外に広がる草原に立っている。

 アルクルミはただ草原を眺めている、手には肉屋で貸してもらった肉切り包丁が一本。どうせならサラシに巻きたいところだ。


 確か温泉に入ってゆっくりしに来たはずだ。

 そして観光がてらにぶらぶらして、ちょっと同業者のお店を覗いてみたかっただけだ。


 ただそれだけだったはずだ。


 まおちゃんが張り切って歩き出すのを見て、アルクルミの口から言葉が漏れた。


「どうしてこうなった……」


 次回 「何故かお肉を取りに行く事になった」


 アルクルミ、ポンコツパーティの仲間になる

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