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その6 温泉の町で変な子と出会った


「お酌しなきゃ……」


 次の朝アルクルミはキスチスの寝言で目が覚めた。

 前の晩、サクサクに捕まったキスチスを残してカレンと一緒に温泉に行った。


 みのりんともう一人のタンポポという子も部屋から脱出したらしく、温泉から出てくるとお土産コーナーで二人を発見。

 合流した四人でしばらくゲームコーナーで遊んでいたのだが、その間キスチスはずっとサクサクのお酌をさせられていたらしい。


 キスチスの寝言は最初の夜は『ジャガイモ潰さなきゃ……』だったのが、今は『お酌しなきゃ……』に変わっている。

 これはアルクルミにとってはいい事だ。


 ジャガイモ潰しの悪夢が他の悪夢に取って代わられた。

 これでキスチスはリフレッシュして、ジャガイモ潰しをやってくれるかも知れないのである。職人さんのリセットだ。



 そして今朝も昨日と同じくアルクルミとキスチスは、サクサクに引きずられて温泉に連行されて行くのであった。


「ねえサクサク、私は歩くから引きずるのはキスだけにして欲しいんだけど」

「おいアル、ずーっと気になってたんだけど、お前完全に私を〝いけにえ〟に利用してるだろ」


「そんな事ないわよ、ちょっとくらいしか考えて無いし」


「サクサク、今日はアルのお酌がいいだろ? アルにしてもらおうぜ!」

「ちょ! キス!」


「アルクルミちゃんのお酌も魅力的だけど、この子のキレッキレの技をかけられたくないんだわ。ゲボ吐いちゃう、お酒もったいない」


「大丈夫だって、アルのスキルが女の子に発動したの見た事無いし、ってかやっぱりセクハラだったのか! 私ならいいのかよ!」


「今日はキスチスちゃんに〝アレ〟やってもらおうかな!」

「〝アレ〟ってなんだよ! 何させる気だ――!」


 今朝のサクサクとキスチスのやり取りも、泡風呂でくつろいでいるアルクルミには一切聞こえない。

 プチプチ、シュワシュワ、このお風呂気持ちいい。



「さて今日は、ネムネムの町のお酒めぐりをやりたいと思います!」


 温泉から上がるとサクサクの宣言だ。


 良かった、本当に良かった。今日はエビを獲りますなんて言い出さないかとアルクルミは気が気ではなかったのだ。

 温泉に入っている間にカレンたちはまた出かけたみたいで、結局昨日と同じメンバーで行動する事になった。




*****




「えーと、どこ行ったのかな」


 結論から言うと、アルクルミははぐれてしまった。

 彼女がとある屋台に気を取られている間に、キスチスとサクサクの二人を見失ってしまったのだ。


 サクサクは次から次へとお酒が飲める店に入って行ってしまうので、ちょっと目を離したらこれだ。


 キスチスが一緒だから大丈夫だろう、一緒というよりはサクサクに半分小脇に抱えられているようなものだったのだが。


 というわけで、サクサクはキスチスに任せてアルクルミは単独行動をする事にした。

 全く悩まない。五秒で頭を切り替える、彼女は自由を得たのだ。


「まずはさっきの屋台よね」


 二人を見失う原因にもなった、彼女が気を取られた屋台を覗く。

 その店とは〝温泉たまご揚げ〟なる屋台である。


 なるほど玉子の揚げ物かこれは食べてみる価値はありそうだ、とアルクルミは財布を取り出した。


 最近店でコロッケやメンチカツを開発した彼女は、新商品になりそうな揚げ物が気になって仕方が無いのである。


「おじさ……」

「なあ、温泉たまご揚げとはなんじゃ? 温泉たまご? 温泉がたまごを生むのか?」


 屋台の店主に注文しようとした矢先に、隣にいた他の客から質問されてしまった。

 質問してきたのは銀色の髪をした綺麗な女の子だ、緑色の瞳がアルクルミを見つめる。


「え? あ。温泉で茹でる玉子を温泉たまごっていうのよ。中がとろっとろの半熟で美味しいのよ。おじさん一つくださいな」


 銀髪の少女はアルクルミが温泉たまご揚げを買うのを、ポカーンと口を開けて見つめている。

 口から何か出た、涎じゃないよね。


「おじさん、もう一つ追加で」


 買った玉子はその先のベンチで、二人並んで座って食べる事にした。


「親切な人間の娘だな、礼を言うぞ。なにしろわらわは人間の通貨を持っておらんでな」


 自己紹介で少女は〝まおちゃん〟と名乗った、アルクルミにはそう聞こえた。

 自分でちゃん付けもそうだが、不思議な事を言う子だなあと思いながら〝温泉たまご揚げ〟を一口食べる。


「おいひい! はふはふ」


 外はサクサク中はとろっとろで熱々、普通のゆで卵を揚げたのでは絶対にこうはならないはずだ、なんとか新商品にならないか。

 アルクルミがあれこれレシピを模索していると、隣の少女が叫んだ。


「うんまああああああ! なんじゃこれは、たまごを揚げるとこんなにか! これドラゴンのタマゴを揚げたらどんな事になるんじゃろうな、思い付いてしまったわらわが恐ろしい」


「ドラゴンのタマゴなんて手に入らないよ」


「そうか? あいつらそこら中にポコポコ生んどるけどな、まあさすがに揚げたりはせんよ。そもそもよく考えたらあいつら溶岩の風呂に入っても平気な顔しとるからな、油で揚げれるとは思えんな」


「溶岩のお風呂に入るんだ、熱そう……」


「頑固爺さんが入るような熱々風呂じゃな、わらわも嫌いではないぞ。この町は温泉があると聞いてやってきたのじゃが、火山が無くてガッカリしたわ、看板に偽りありじゃ。友達を探しに来たんじゃがこの町にはおりそうにないな」


「友達を探してるの?」

「うおおおおおおお! あれ! あそこ! まんじゅうと書いてあるのか? まんじゅうだよな! あ、甘いやつだよな!」


 話の途中で少女は温泉饅頭の屋台に突撃して行った。


「お饅頭を見たらもの凄く興奮してるけど、お饅頭好きなのかな。あの子お金持ってないんだっけ」


「おいまんじゅう屋、お前まんじゅうを売ってるのか? 売ってしまっているのだな? と、とんでもない事をしでかしてくれたな、やっぱり甘いんだろうな!」

「へ、へい、らっしゃい」


「おじさん、お饅頭を二つくださいな」


 アルクルミも饅頭の屋台に行くと二人分を購入、貰った饅頭を食べた銀髪の少女が叫ぶ。


「あっまああああひゃあ――――い!」


 斯くして旅行先でゆきずりで知り合った二人の少女。

 アルクルミはこの出会いから一時間後に、自分がとある言葉を呟く事になるのをまだ知らない。


 その言葉とは。


「どうしてこうなった……」


 次回 「温泉の町でお肉屋さんを見つけたので入ってみよう」


 アルクルミ、肉屋の少女と出会う

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