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その1 カレンとみのりんにコロッケをプレゼント


「アル! 今日はお肉いっぱい仕入れてきた!」


 肉屋のカウンターにドサリとお肉満載の大きな袋を置いたのは、店番をしていたアルクルミの幼馴染カレンだ。

 一緒にいたカレンの相棒のみのりんも、カレンの半分くらいのお肉が入った袋をカウンターに置く。


「今日は大量ねカレン。お父さん居なくて私が対応するから、このお肉買取表の金額でいいかな。少し増しとくね」


 アルクルミは袋から出したお肉を各部位に分けて、重さを量ってチェックしていく。


「いつもアルが対応してくれると早くて助かるのに」

「お父さんとカレンの漫才は私好きだけどね」


 肉屋の店主 VS カレンのお肉買取を巡る戦いを見るのは、アルクルミの楽しみの一つでもあるのだ。


「ところで、この前魔王が襲ってきたって本当?」

「うん、来たよ、お土産一杯持って帰ってった。あれから毎日遊びに来てるんだよ」


 あ、遊びに? もしかして冒険者の間の襲撃の隠語なのだろうか。


 聞いた話では魔王はこの町にやっては来たけど、町を滅ぼす事ができずにそのまま帰って行ったのだという。

 魔王と町の冒険者が一戦やった後で、カレンの機転の接待攻撃で撃退に成功したという事だ。


 アルクルミは観光客に十連続スキルをぶちかましてから、ちょっと引き篭もっていたのだ。


 大勢の人たちの前での怒涛のような連続スキルの披露は、さすがに女の子にはきつかった、めちゃくちゃ恥ずかしかったのである。


 最後に繰り出したスキルなんて、一体自分が何を出したのかさっぱり理解できないでいるのだ。


 それにしてもこの町を滅ぼしに来るという話は、なんだかわからない内にうやむやになってしまったようなのだ。


 魔王とは一体何だったのか。


 この前出会った魔族の男も紳士だったし、キルギルスも素直ないい子だった。

 キルギルスの魔法はかなり危なかったけど、実は魔族や魔王って絶望的な程怖い存在ではないのかも知れない。


 魔族だろうが魔王だろうが、肉屋の娘としては町が平和で、商品が売れるのなら何でもいいのである。

 どんなに恐ろしくても、魔王とやらに出会う事もどーせ無いのだから。


「みのりんと一緒に魔族の里にも行って来たよ」

「ええ? いつ?」


「昨日だよ、アルも誘った方がよかった?」

「そ、それは遠慮しておきます」


 凄すぎる、冒険者というのは本当に凄すぎる。

 魔王が町を滅ぼす前に撤退したとみるや、すかさず追撃して相手の本拠地を襲撃するとは。自分が住んでいる世界とはやっぱり少し違うのだ。


 でも魔族の里はちょっと行ってみたい気もする。

 キルギルスちゃんとまた会いたいし、モーシャウントさんにもちゃんと上着のお礼をまだしていない。


 でもやっぱり無理だろうな……

 アルクルミは想像して震える。


 魔族の里なんて溶岩が流れてるような真っ暗で真っ赤な世界で、そこを魔族やモンスターがドシンドシンと闊歩しているような世界に違いない。


 そんな場所に自分が行ったら長くは生きていられないし、なにより魔王なんていう恐ろしい存在に出くわしでもしたら……

 冒険者でもなんでもない自分では、近くにいただけで消し飛んでしまうだろう。


「楽しかったよ!」

「そ、そうなんだ」


 魔族と一戦やって楽しかったって事なんだろうか。


「コロッケとメンチカツだ……」


 二人の会話を聞いていたみのりんが、店の商品棚を見て呟いた。


「これうちの店の新商品なのよ、サクサクって子に協力してもらって作ったの、異世界の食べ物なんだってね」

「へー何これ美味しそう」


「カレンとみのりんにもあげるよ、大人気で売れちゃって最後の一つずつになっちゃうけど。追加は今奥で増産中なの、キスがジャガイモを潰してお母さんが揚げてる」


「ありがとう、新商品だね。これは何? お日様の下でくたっとなった猫がモチーフなのかな」


 どこかで聞いたぞそれ、と思いつつアルクルミは商品の説明をする。


「こっちはコロッケで、ジャガイモを主体とした揚げ物。こっちはメンチカツでお肉を主体とした揚げ物だよ。みのりんは知ってるんだよね」


 目をきらきらさせて、聞かれた青い髪の少女はこくんと頷いた。


「うわー美味しい! サクサクでホクホクだ!」


 コロッケとメンチカツを半分ずつ分け合って食べて、幸せの笑顔を見せる二人。

 この二人は最高に美味しく食べてくれるから、サクラとして店の前で食べてもらうのもアリかなとアルクルミは考えてしまう。


「サクラ? やるやる、まかせて!」

「え? いいの?」


「試しにやってみせるね! これはとても美味しいね、おいしい、おいしい。あれー、おいしいってなんだっけ、ねえみのりん」

『もぐもぐ』


 こりゃだめだ、二人とも美味しさで脳をやられてしまったか、お母さんたちよりサクラに使えない。


「アルクルミちゃんコロッケちょーだい」


 男性のお客さんが店に入ってきた。


「ごめんなさい今売り切れてて、奥で作ってますから少し待ってて頂けますか」

「アルクルミちゃんの美味しそうなお尻を眺めながら、オジサンはいつまでも待つ、ブゅ!」


 アルクルミによる脳天への肘打ちを食らったオジサンは、ちょうど追加された揚げたてサクサクのコロッケを握り締めて帰って行った。


 コロッケとメンチカツは飛ぶように売れていく、まだまだ増産が間に合わない。


「お母さん、もっと作って! 特にコロッケが足りない」

「うわー! もう勘弁してくれ! 何で私がジャガイモ潰しをやらされてるんだ!」


 奥にコロッケ増産を指示すると、キスチスの悲鳴が聞こえてきた。

 頑張って! キス頑張れ! アルクルミは心の中で幼馴染に声援を送る。


「キスー! 頑張れ! 男の子!」

「女だ!」


 カレンも奥に向かって声援を送ってくれてる。


 みのりんがじっと揚げたてのコロッケを見つめているので、アルクルミはもう一個プレゼントした。


「ありがと……」


 青い髪の少女は笑顔を見せてお礼を言うと、半分をカレンに渡して『パク』とコロッケをかじる。

 もくもくと幸せそうにコロッケを食べるみのりん。


 良かった、庶民の食べ物っぽいから、お嬢様のみのりんのお口には合わないかもと危惧したけど、喜んでくれているようだ。


 可愛いなあ……


 アルクルミはお客さんのそんな姿を見るだけでも、コロッケを作った甲斐があったというものなのだ。


 次回 「神様になったカレン」


 アルクルミ、温泉地へと出撃


 今回の温泉のお話は、もう一つの作品「女の子になっちゃった!~」の第19話「田舎の女子高生、神になる」と並走していますので、よろしかったらそちらも一緒にお楽しみ下さい。

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